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2年契約よりも1年契約の方が有益だった?!筒香嘉智のパイレーツ再契約に隠された裏事情と彼なりの勝算

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
パイレーツとの再契約が明らかになった筒香嘉智選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【筒香選手の代理人が認めたパイレーツとの再契約】

 シーズン終了後にパイレーツからFAになっていた筒香嘉智選手に関し、すでに米メディアから現地時間の11月25日にパイレーツとの再契約が報じられていたが、チームからの正式発表がない状態が続いていた。

 そんな中、日本主要メディアが報じたところによれば、筒香選手の代理人を務めるジョエル・ウルフ氏がオンライン会見に応じ、米報道を正式に認めたようだ。

 現在もパイレーツは正式発表しておらず、筒香選手の契約合意を関係者から正式に確認できたのが日本メディアの方が早かったという珍しいケースになった。

 またウルフ氏はパイレーツと合意した契約内容も明らかにしており、米メディアの報道通り、1年契約で年俸400万ドル(約4億5000万円)だということも判明した。

【複数年提示を拒否して敢えて単年契約で合意】

 さらにウルフ氏は、パイレーツの他に複数チームが筒香選手に興味を示していたこと、またパイレーツから2年契約のオファーが届いていたことも明かした上で、筒香選手の「1年契約で毎日プレーする機会を与えてくれるチーム」という希望を尊重し、パイレーツと1年契約を結んだ経緯を説明している。

 もちろん代理人として選手の希望を叶えるのは最優先事項であるのは当然だが、その一方で選手が不利益になるような契約内容なら応じることはないし、より有益な内容のオファーが届くまで交渉を続けるのが彼らの職務だ。

 つまり今回の契約合意は筒香選手の希望を叶えるだけでなく、ウルフ氏も筒香選手の将来を考えた上で理想的な内容だったと考えたからに他ならない。

 それでは何故、筒香選手とウルフ氏は単年契約にこだわったのだろうか。

【来オフの方がより契約交渉しやすくなる?】

 まず第1点は、現時点でパイレーツと複数年契約を結んだ場合、基本的に2023年シーズンまでパイレーツに在籍することが確定してしまうことだ。

 だがパイレーツは3年連続地区最下位に低迷し、MLB屈指の低予算チームとして知られ、強豪チームのような大型補強はほぼ期待できない。現状を考えれば、来シーズンから一気にポストシーズン争いできるチームに変貌する可能性はかなり低いといわざるを得ない。

 大谷翔平選手ではないが、野球選手ならば誰だって優勝争いしたいし、ポストシーズンにも出場したい。それが彼らの本心だろう。

 そうなると、パイレーツと複数年契約を結ぶよりも、来シーズンは1年を通して筒香選手本来の打撃を披露した後で、改めて来オフにFAとして契約交渉に臨んだ方が、強豪チームからオファーが届く可能性が高まるし、契約内容も今オフとは比較にならないような好条件になると予測される。

 念のため説明しておくと、筒香選手は海外FA選手としてMLB入りしているので、MLB在籍期間が6年に達しなくても、現有契約が終了すれば自動的にFAになれるのだ。

【単年契約の方がトレード候補になりやすい?】

 それだけではない。シーズン前半戦の成績が良ければ、シーズン途中のトレード候補にもなりやすいのだ。

 MLBでは、ポストシーズン争いをしているチームがシーズン中に緊急補強をするのは日常茶飯事だ。仮にパイレーツが来シーズンも開幕から成績不振だったとしても、筒香選手の活躍如何でポストシーズン争いしている強豪チームに移籍できる可能性があるわけだ。

 また補強を目指すチームとしては、複数年契約を結んでいる選手よりもシーズンオフにFAになる単年契約の選手を獲得した方が、将来的なリスクを回避できる。つまり単年契約の筒香選手はトレード要員になりやすいということになるのだ。

【すべては来シーズンの筒香選手の活躍次第】

 如何だろう。実は複数年契約を選択するよりも単年契約の方が、現在の筒香選手にとってはより有益だったと考えるべきなのだ。

 だが前述のような流れをつくり出すには、あくまで筒香選手がパイレーツ移籍後にみせた打撃を安定して披露することが前提となっている。

 それを自らの力で実現させるためにも、筒香選手としても常時試合に出場できる環境が欲しかったのだろう。それは裏を返せば、現在の筒香選手が来シーズンに向け、ある程度の自信、勝算を抱いていることに他ならない。

 まさに筒香選手にとって2022年シーズンは、今後の野球人生を決めるような勝負の年になりそうだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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