「給料はセメント20キロ」食糧難が続く北朝鮮で今起きていること
給料はセメント20キロの現物支給――これは、北朝鮮・平安南道(ピョンアンナムド)にある工場での話だ。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
現地の情報筋によると、順川(スンチョン)セメント工場の焼成職場の労働者は、5日ごとにセメント20キロを給料として受け取る。この現場では、セメントの主原料となる石灰石を焼成炉で焼く現場だが、支給する現金や食糧がないためセメントを配給している。各自、市場で売り払って必要なものを買えというものだ。
(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為)
セメントが20キロあれば2万北朝鮮ウォンになる。それでトウモロコシ5キロが買えるため、コメと混ぜて炊いて空腹を満たす。
別の情報筋によると、セメント工場での現物支給は、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」以降で始めてとのことだ。年間300万トンのセメントを生産するこの工場は北朝鮮最大だが、複数の工場からなる連合企業所で、セメントを現物支給しているのは、上述の焼成職場だけだという。
1日あたり3000トンから5000トンのセメントを生産しているこの工場だが、国家計画分(国から課されたノルマ)とは別に4トンのセメントを生産し、200人の従業員に配っている。これは違法行為の横流しには当たらないとのことだ。
「セメント工場の心臓部である焼成炉を稼働させるには労働者に食糧を配給しなければならないが、国からの配給が円滑に行われないため、自主的にセメントを現物支給しており、これは違法ではない」(情報筋)
今年からは平壌のみならず、地方での建設工事も増え、セメントの需要が増えている。それを満たすには労働者に出勤してもらわなければならず、セメントでの現物支給は当面続きそうだと情報筋は見ている。
なお、一般的な労働者の場合、本来なら1日に600グラムの配給を受け取ることになっている。他の多くの工場では、「苦難の行軍」を前後して配給が完全に止まってしまっているが、この順川セメント工場では、例外的に続けられていたようだ。