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学生起業からの『b-monster』という働き方【塚田眞琴×倉重公太朗】第1回

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

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今回のゲストは、『b-monster』を経営する塚田眞琴さん。『b-monster』は、暗闇の中、アップテンポな曲に合わせてサンドバッグを叩き、汗を流すという最先端の格闘系フィットネスです。塚田さんは、ニューヨークで流行したこのスタイルを、初めて日本に持ち込んで話題を呼び、事業を急拡大させています。創業当時21歳の大学生だった塚田さんが、起業を決意するまでの経緯を追いました。

<ポイント>

・子どものビジネスマインドを育てるには?

・好きなこと、やりたいことが見つからない人はどうすれば良い?

・本場ニューヨークと日本の暗闇ボクシングの違い

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■経営者の両親にビジネスの基礎を学ぶ

倉重:今回はスペシャルゲストとして、b-monsterの塚田眞琴さんにお越しいただいています。まずは自己紹介をお願いいたします。

塚田:b-monsterという、暗闇×ボクシング×フィットネスをコンセプトにしたフィットネススタジオを運営しています。

2016年に第1号店を銀座にオープンしました。

今4期目で、国内外で13スタジオあります。

倉重:私も入会させていただいております。

45分間真っ暗なスタジオで、周囲が見えない中で体を動かします。

音楽がガンガンかかっていて、ノリノリで動いているうちに時間が経っているんです。

かなり独特なシステムですね。

塚田:そうですね。

倉重:取材も多数お受けになっていますけれども、起業されたときはまだ学生ですよね?

塚田:はい。大学2年との3月に大学を中退、会社を設立して、6月に最初のスタジオをオープンしました。

倉重:大学をおやめになって起業したのですから、だいぶ思い切りましたね。

少しさかのぼってお話を聞かせていただきたいと思います。

もともとご両親が起業されているのですよね。

塚田:はい。母がエステサロン、父がコンサル系の会社をやっています。

倉重:子どもの頃から、経営者の2人の姿を見てきたわけです。

どのような教育を受けていたのですか?

塚田:両親は仕事人間で、私のことも経営者にしたかったので、家庭での会話はほとんどビジネスに関することでした。

倉重:例えば外食行ったときに「この店の原価率は~」という話をするのですか。

塚田:そうです。クイズのような感じで考えさせられました。

倉重:子どもの頃からそんな感じだったのですね。

習い事も通われていましたか。

塚田:はい。もともと好奇心旺盛でしたし、両親も賛成してくれていたので、いろいろなことをさせてもらいました。

倉重:収録前に、「40個ぐらい習い事をしていた」とおっしゃっていましたが、ご両親から「これをしなさい」と言われたことは1つもなかったのですか。

塚田:幼稚園生ぐらいのときは自分の意思があまりなかったので、家庭教師の授業やピアノのレッスンを両親のすすめるままに受けていたと思います。

小学生からは自分の興味を持ったことを習っていました。

倉重:「自分は何がやりたいのか」を認識できる小学生だったのですね。

小学は私立ですか。

塚田:私立です。幼稚園から高校までずっと一貫の女子校でした。

倉重:もう完全なる「お嬢」ですよね。

将来起業するイメージはいつごろからありましたか?

塚田:ニューヨークで暗闇ボクシングに出会うまで、起業のことはほとんど考えていませんでした。

倉重:普通に就職する予定だったのですか?

塚田:そうです。小学生の頃からテレビっ子で、とにかくお笑い番組が大好きでした。

倉重:どんな番組が好きでしたか?

塚田:当時は『ココリコミラクルタイプ』や『ワンナイ』『笑う犬』などが好きで、消灯時間が過ぎた後も、すごく小さな音でこっそり見ていました。

倉重:消灯の後にテレビを見たら怒られるのですか?

塚田:はい。いつも部屋を暗くして見ていました。

お笑いが好き過ぎて、高校生のときには漫才師を目指していたのです。

倉重:そうなんですか。

塚田:バラエティやネタを見て笑っている時は、色々なことを忘れて幸せな気持ちになれたので、自分も笑いを届ける側になりたいと思いました。

高1のときには、コンビでお笑いの大会に出ました。

笑いは結構とれたのに、喜びよりも安堵の方が大きく、「これを職業にするのは難しい」と思ったのです。

ネタを考えることは好きだったので、制作の仕事をしようと思いました。

倉重:テレビ番組の制作ですね。

塚田:はい。大学では政治学科を専攻し、メディア研究所に入りました。

ただ、コンプライアンスなどの問題で、地上波のテレビ番組の企画や演出が丸くなり、段々つまらなくなっているなと思っていました。

ネットの番組も今ほど台頭しておらず、将来自分のしたいことができないと感じました。

「別の道を探そう」と思っていたころに、暗闇ボクシングと出会ったのです。

「これだ!」という感覚がすごくありました。

倉重:幼い頃から、ご自分の「好き」という感覚に敏感だったのですね。

これは生まれつきですか?

塚田:生まれつきかもしれません。

両親が経営者なので、遺伝や環境もあると思います。

倉重:これからの不確実な時代では、「正解を見つけるのではなく、ストーリーが大事」ということが言われています。

いろいろな分野の方と対談していますが、結局「自分は何が好きで、何がしたいか」という部分が一番大切だという話になります。

これを実践するためには、どうしたらよいのでしょうか。

塚田:まず試してみて、「これは合わない」「これは好きだ」と知ることから始めると良いと思います。

■大学中退し、会社を立ち上げた理由

倉重:先ほどの漫才の話では、「ウケたけど、よろこびが小さかった」ということを冷静に判断されていました。

それを高校生でできるのはすごいなと思います。

大学時代に、b-monsterを起業するきっかけになった出来事を教えていただけますか?

塚田:我が家では、大みそかに1年の振り返りをして、お正月に目標を発表するのが恒例行事なのです。

数値などを絡めた具体的なものでなければいけません。

「楽しく生きます」というような、他人が評価できない目標ではダメなのです。

倉重:定量化せよと。

塚田:そうなんです。

たまたま、姉と私の目標は「ボクシングジムに通って5キロ痩せます」というものでした。

姉と一緒に近くのボクシングジムに行って、トライアルを受けたのですけれども、私には合わなかったのです。

まずフォームを覚えるために、鏡に向かってゆっくりジャブを打つところから始まります

鏡越しに姉と目が合うたび、気まずい思いをしましたし、周りの目が気になり、あまり集中できないと思いました。

その後もなかなか打たせてもらえません。

「フォームができる前に実打撃すると危ないから」ということでした。

倉重:ずっとシャドーボクシングなんですね。

塚田:はい。「これを痩せるまで続けられるのかな……」と思いました。

倉重:その前に飽きそうですね。

塚田:そうなんです。「もう一回行きたい」と思えませんでした。

その経験をSNSで発信したら、アメリカに留学している友達が「こっちでは暗闇の中でやるフィットネスがはやっているよ」と教えてくれたのです。

翌月に偶々ニューヨーク旅行が決まっていたので、試しにジムに行ってみたら、すごく楽しくてはまってしまいました。

倉重:もう完全に導かれていますね。

そのときニューヨークで受けたものが、今のb-monsterの原型になっているわけですか。

塚田:そうです。

倉重:少し違う部分もあるのですよね。

塚田:向こうだと教えることを大事にしています。

一曲終わると止めて、「じゃ、次ジャブ、クロスやるから見て」と言って、みんなを集めます。

何回か動きを見せて、「覚えましたか。ではまた自分の場所でやってください」という感じなのです。

倉重:1回1回切ってやっているのですね。

塚田:iPadで曲を選んで、終わったら、また止まって、「次はこれやります」という感じで教えます。

せっかく高揚感があって楽しかったのに、ぶつぶつ途切れるのがもったいないと思いました。

倉重:集中力も切れてしまいますよね。

塚田:そうです。だから日本では45分間、最初から最後まで曲をつなげて、1個のエンターテインメントとして決まったプログラムをやりたいと思いました。

倉重:b-monsterの場合、パフォーマーごとにリストをあらかじめ作っておくのですよね。

だから、「インストラクター」ではなくてパフォーマーということでした。

塚田:はい。最初はインストラクターと呼んでいましたが、彼らから「もっと会員さんに教えたい」と言われることが多かったのです。

本当にしてほしいのはそこではありません。

説明だけでは、なかなか伝わらなかったので、もういっそ名称からから変えようと思いました。

「インストラクター」という名前には、何かを教える人という固定概念があります。

「エンターテインメントを魅せる人」という意味で、パフォーマーに名前を変えました。

「レッスン」という言葉も「何かを学ぶ」という印象なので、プログラムという名称に変更したのです。

倉重:なるほど。意味づけを変えたわけですね。

ちなみに、最初に年明けに立てた目標は「5キロ痩せるためにフィットネスをする」というものでした。

そこから会社の立ち上げにいたるまでに、どんな発想の変化があったのですか?

塚田:最初から「痩せるために通う」というより、「楽しく通っているうちに痩せてしまった」というものをつくりたかったのです。

それはいまだに思っています。

(つづく)

【対談協力】

塚田眞琴(つかだ まこと)

1994年生まれ。2016年大学2年で姉と共に起業、同時に大学を中退。

2016年3月にb-monster株式会社を設立。同年6月に1号店となるGinza studioをオープン。

2020年より代表取締役に就任。

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒 KKM法律事務所代表弁護士 第一東京弁護士会労働法制委員会副委員長、同基礎研究部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)副理事長 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 紛争案件対応の他、団体交渉、労災対応、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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