母乳が出ないお母さんへ:もちろんあなたは大丈夫。
■母乳神話?
女性の社会進出と人工ミルク(粉ミルク)の進歩によって、一時期母乳で赤ん坊を育てる母親は減りました。母乳をあげるとバストの形が悪くなるなどという親もいました。
ところが今は、母乳ブームです。多くの産院も、WHOも、母乳を勧めています。母乳は、様々な優れた面を持っています。
しかし、科学的に良いことが確かめられているとはいえ、「ブーム」は何事も要注意です。しばしば行きすぎます。母乳神話というほどに、あまりにも母乳を絶対視する人もいるほどです。
■母乳が出ずに悩む母親たち
現在では、妊産婦の9割が母乳での子育てを望んでいます。その一方、母乳が思うように出ないために悩んでいる母親がたくさんいます。赤ちゃんの子育てに悩む人の4割は、母乳に絡んだ悩みです。
NHKテレビで6月11日に放送された「目撃!日本列島:“母乳ブーム”のかげで~追い詰められる母親たち~」では、苦しむ母親たちが紹介されていました。
母乳が出ない母親が、自分はだめな母親だと自分を追い詰めます。何が何でも「完全母乳育児」にこだわってしまう母親もいます。母乳とミルクの「混合育児」すら、本当は必要な場合でも、負い目を感じてしまう母親もいます。
母乳を与えるときに痛みを感じる母親もいます。とても痛いのですが、我慢すべきと家族から責められたり、自分で責めてしまう人もいます。
出産と育児は、ドラマやCMのように、何の問題もなくスムーズに進むとイメージしやすいのですが、実際は様々なトラブルが起きます。
母乳が出にくい理由ははっきりしませんが、体調の問題やストレスの問題なども考えられます。
■「大丈夫だよ」
私の知り合いの話です。
お母さんは、ぜひ母乳で育てたいと思いました。ところが、母乳がなかなか出ません。いろいろと努力するのですが、やっぱり出ません。お母さんは、必死になって母乳を出そうとして、育児ノイローゼのようになってしまいました。
赤ちゃんを抱っこし、乳首を無理にくわえさせ、「もっと強く吸うのよ!そんなんじゃダメでしょ!」と赤ちゃんを叱りつけ、泣きながら授乳していました。
そこに、夫が帰ってきました。彼は、妻の後ろから優しく肩を抱き、「大丈夫だよ」と言ってくれました。
その時、苦しかった心がすっと楽になったそうです。肩の力が抜け、子育てを楽しむことができるようになり、そして、母乳も少しずつ出るようになったそうです。
■子育てはトータルで考えよう
母乳は良いものです。でも、母乳でないと親も子もだめになるわけではありません。子どもには両親がいた方が良いでしょうが、片親だとだめなわけではありません。親は、健康で、お金もあった方が良いでしょうが、そうでなければだめなわけではありません。
子どもが育つ環境は、空気がきれいなところが良いでしょう。でも、大都会がだめなわけではありません。子どもの暮らす町には、立派な動物園や美術館や博物館があった方が良いでしょう。でも、地方の小さな町や農村がだめなわけではありません。
母乳が良いことも、きれいな空気が良いことも、科学的な事実です。しかし、子育てに関することのほとんどは、「〜の方が良い」です。「〜でなければだめ」ではありません。これも、科学的事実です。それに、すべてのことを良くすることなどできません。
アウトドアスポーツが得意な親と、読書好きの親と、どっちが良いかなんて、よくわかりません。どちらも、一長一短でしょう。
母乳が出ないことで悩みすぎて笑顔になれないくらいなら、笑顔で人工ミルクをあげて、子育てを楽しむことの方が、子どもにとっても母親にとっても、ずっと良いことでしょう。
母乳で育てられるように、工夫することは良いことだと思います。けれども、そのことだけにエネルギーを注ぐと、おかしなことになりかねません。
子育ては、トータルで考えましょう。何か一つのことで、人生が決まるわけではありません。大切なのは、何があっても、子どもを責めたり、自分を責めたりしないことです。
あなたは、あなたの母親の母乳が出なかったら、母親を嫌いになるでしょうか。
子育てに最も大切なのは、母乳が出るかどうかではなく、子育てに幸福感を持つことなのです。