群雄割拠の全日本ロードレース、JSB1000!久しぶりの新鮮なシーズンに期待が高まる!
国内のサーキットを転戦するオートバイレース「全日本ロードレース選手権」が復活の兆しを見せている。特に最高峰クラスの「JSB1000」クラスは各バイクメーカーのフラッグシップモデルとなる1000ccスポーツバイクの戦いの場であるため、各メーカーの力の入れ方が如実に現れてくる。先日もNHKで「バイク各社 モータースポーツに復帰相次ぐ」という報道がなされたばかりだが、世界選手権に限らず、国内最高峰JSB1000クラスにもバイクメーカーは力を入れ始めている。
回復傾向にあるJSB1000の年間エントリーは26台
「全日本ロードレース」のJSB1000クラスは最高峰クラスでありながら、リーマンショック以降はかなりの苦境に陥っていた。オートバイの販売低迷による予算の削減も大きく影響し、下記のデータを見ても分かる通り、2009年以降は年間を通じてシリーズ参戦するチームが大幅に減少していた。
2009年以降のJSB1000では、強力なチーム体制を敷くのは各メーカーともに1〜2台程度で、年間エントリー台数が16台まで減少した年も。かつて参戦した多くのプライベートチームは夏の鈴鹿8耐を中心に考えた計画に切り替え、ここ数年は全日本ロードレースJSB1000への参戦はスポット参戦に留めるチームが増加していた。
しかしながら、景気回復も影響し、今年に入ってからの各メーカーの力の入れようは顕著で、今シーズンのエントリー台数は26台にまで回復。また、NHKの報道内容とは少し趣が異なるが、これまで経験豊富なベテランライダーに任せきりでほとんどライダーが変わらなかったトップチームあるいは有力チームに20代の若手ライダーが積極的に起用されていることも今季の特徴になっている。
ヤマハはファクトリー(ワークス)体制
今シーズンの最も大きなトピックスは以前にも記事「ヤマハがやる気モード全開!新型YZF-R1投入で国内レースもファクトリーチームとして参戦!」に書いた通り、久しぶりにヤマハがファクトリーチーム体制(ワークス)として全日本ロードレースJSB1000クラスに参戦する。ライダーは昨年、3年連続の王者に輝いた中須賀克行(なかすが・かつゆき)を起用。チームの実質的な体制という意味ではほとんど変わらないが、今季は新設計のYZF-R1が投入され、ファクトリー体制をとることで活動予算も当然大きくなるはず。これまで以上のペースで開発作業が行われるため、今季を席巻することは確実視されている。
また、ヤマハは次世代を担うライダーを走らせるジュニアチームとして「YAMALUBE RACING TEAM」を結成。野左根航汰(のざね・こうた)と藤田拓哉(ふじた・たくや)の若手起用にも注目が集まる。3月9日に鈴鹿サーキットで開催されたテスト走行では悪天候で走行チャンスは少なかったものの、新型YZF-R1の素性の良さを示すタイムを各ライダーがマークしており、ヤマハは開幕ダッシュ、そして中須賀の4連覇を狙う。
ホンダは若手ライダーに託す
フラッグシップマシンCBR1000RRで戦うホンダは今季もワークスマシンを「TSR」「HARC-PRO(ハルクプロ)」のトッププライベートチームに託して全日本JSB1000を戦う。ベース車両のモデルチェンジが行われていないため、急激なポテンシャルアップは難しいが、鈴鹿8耐を5年連続で制している安定したマシンに若手ライダーを乗せる。
注目は鈴鹿8耐やオーストラリア・スーパーバイク選手権で成長著しいオーストラリア人ライダー、ジョシュ・フック(22歳)を起用する「F.C.C. TSR Honda」。彼自身は鈴鹿市に住み、今季の全日本ロードレースと鈴鹿8耐に万全の体制で備えることになる。何と言っても久しぶりの外国人ライダーのフル参戦だけに、JSB1000に大いなる刺激を与えてくれそうだ。
また、「MuSaShi RT HARC-PRO」は今季より2台体制に拡大。25歳の若さで鈴鹿8耐をすでに3回優勝している高橋巧(たかはし・たくみ)をエースに、J-GP2(600cc)クラスで優勝経験もある浦本修充(うらもと・なおみち/20歳)を起用する。MotoGPマシンの開発も担う高橋の成長、そして恵まれた長身の浦本のビッグバイクでの活躍は非常に楽しみだ。
ホンダ勢のプライベートチームとしては「au&テルル・Kohara RT」がJ-GP2クラスで活躍した渡辺一馬(わたなべ・かずま/24歳)をJSB1000クラスにデビューさせる。そのチームメイトになるのはJSB1000クラスのチャンピオン経験者、秋吉耕佑(あきよし・こうすけ)。若手とベテランの2台体制に、ダンロップタイヤという組み合わせも興味深い。
ベテランという意味では、こちらもチャンピオン経験者の山口辰也(やまぐち・たつや)が「TOHO Racing with MORIWAKI」から継続参戦し、今季は久しぶりの優勝を狙う。
カワサキは若手とベテランで初の王座を狙う
昨年から鈴鹿8耐に復帰したカワサキのトップチーム「Team GREEN」は今年もベテランの柳川明(やながわ・あきら)と期待の24歳、渡辺一樹(わたなべ・かずき)の2台体制で全日本ロードレースJSB1000クラスを戦う。カワサキ「Team GREEN」は毎年、最終戦までチャンピオン争いに残っているだけに、今年こそはシーズン中に勝利を重ねて王座を獲りたいところ。
昨年の鈴鹿8耐への参戦表明以来、常に注目を集めるカワサキ。準ワークスと言っても良い体制だけに今季ものびしろは多いはず。今シーズンで3年目となる渡辺一樹の初優勝も期待したい。
スズキはプライベーターが打倒ワークスを狙う
スズキ陣営は今年も「ヨシムラ スズキシェルアドバンス」から津田拓也(つだ・たくや)、「Team KAGAYAMA」から加賀山就臣(かがやま・ゆきお)、そして、「MotoMap SUPPLY」から今野由寛(こんの・よしひろ)が年間参戦する。
ワークスマシンの貸与や手厚いサポートこそ他のメーカーに比べて少ないものの、スズキのプライベーターたちの実力は折り紙つき。今季もライダーとチーム、そしてタイヤメーカーがそれぞれの持てる力を活かしてJSB1000を戦う。スズキは今季からMotoGPに復帰するほか、アジア選手権でも新たなレースを始めるなど2輪モータースポーツ活動に積極的な姿勢を見せている。今シーズンの各チーム&ライダーの頑張りが今後につながっていくことは間違い無いだろう。
ロードレース復権に向けて新たな試み
国内4大メーカーが徐々にモータースポーツ活動に力を入れ始めた昨今だが、全日本ロードレースの観客動員数という意味ではなかなか寂しいものがある。鈴鹿サーキット(三重県)での開催レースは春が4輪のスーパーフォーミュラとの併催、そして最終戦はチャンピオン決定の舞台となるため観客は1万人を超えるが、現状では単独開催では1万人の観客を集めることも難しい状況が続いている。
2輪モータースポーツを統括するMFJ(日本モーターサイクルスポーツ協会)の大島裕志会長は昨年、2020年の観客動員倍増を目標に各委員会、部会を整理して円滑な運営ができる体制作りを表明した。その中で「魅力的な選手の育成」も課題のひとつであり、各メーカーの若手ライダーの積極的な起用もそれに呼応した形になったといえる。
また、新たな試みとして、5月30日、31日にツインリンクもてぎ(栃木県)で開催されるレースでは最高峰JSB1000クラスの予選方式で新たなトライがなされる。予選上位10名が最大9周の最終タイムトライアル予選に挑む「トップ10サバイバル予選」なる方式で、毎周のタイムで最下位だったライダーが翌周以降のタイムアタックの権利を失うというフォーマットになるそう。ポールポジションを狙うライダーたちは9周の全開アタックが必要になるため、決勝レースさながらの迫力が味わえる予選になるようだ。
イベントとしての魅力向上も必要だが、プロモーションも重要な課題である。現在は地上波テレビ放送で全日本ロードレースが取り上げられることが少なく、若者や子供達への訴求という意味では非常に難しい状況が続き、ファンの年齢層も年々、高齢化している。
しかしながら、全日本ロードレースには魅力的な若手ライダーが多く、バイクに乗らない同世代の層にプロモーションを展開し、レースを通じてバイクの魅力を伝えていく必要があるだろう。これには長い期間に渡る地道な活動が必要で、すぐに結果が出るものではない。メーカーと共に未来を見据えたプロモーションを期待したい。
全日本ロードレースは開催クラスも選手もチームも他のレースシリーズに比べて格段に多く、レース内容も面白く、アスリートの戦いぶりが充分に伝わってくる。2輪レースの人気復活は関係各所のさらなる努力できっと訪れるはずだ。