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どうなる「イカゲーム2」 13日発表の「監督公式コメント」から読み解く注目ポイント

(写真:ロイター/アフロ)

かの「イカゲーム」のシリーズ2が正式発表となった。

13日の朝、Netflixを通じてファン・ドンヒョク監督の"宣言"が世界中の言語で公開されたのだ。

作品の詳細は明らかにされていないが、少なくとも監督の言葉から伝わってくる思いは見える。これが現時点で分かる注目ポイントだ。これをちょっと韓国トレンドウォッチャー視点で読み解こうというのが本稿の主旨だ。

まずは全文を。

この原文を韓国語で読み、日本語でも読んだ。

まず目を引いたのは冒頭部分だ。

昨年、『イカゲーム』のシーズン1を世に送り出すまでに費やした歳月は実に12年。ところがその作品は、わずか12日間でNetflix史上最大の視聴者数を獲得したドラマとなりました。

12日間で。

この点を冒頭に強調したあたり、ファン・ドンヒョク監督の思いがよく伝わる。監督自身のプレッシャーと期待感。これが1つ目の注目ポイントだ。

何せ、シリーズ1は「韓国国内視点」で見ても、とんでもないことを成し遂げたのだ。

"韓国での流行と世界での流行にタイムラグがなかった"

これ、じつはBTSも愛の不時着もPSYも成し遂げ得なかった点だ。

作品は2021年9月17日に全9話が全世界で同時配信された。

実のところ、当初は韓国での反応は振るわず。同年9月15日の制作記者会見の反応は大きいものではなく、かつ綱引きゲームで一度脱落するハン・ミニョの描き方が「女性侮蔑」として批判も受けた。「韓国社会の貧富の差を描いている」という点も「パラサイト」など他の映画やドラマで実現されたもので、真新しさはなかった。

しかし、韓国でこの評価がひっくり返ったのはこの点からだった。

「世界でなんだか流行っているらしい」

わずか12日で韓国内の評価も変わった。すでに2021年10月31日には「ハロウィンでイカゲームのコスプレ」「中国で大量にジャージなどコピー製造が行われている」といった点が話題になったのだ。作品が公開されて1ヶ月半。デザイン、製造ライン設定、デザインにかかる時間を考えても「間に合った」のだ。

こちらは<韓国内で製造中>のイカゲームのジャージ
こちらは<韓国内で製造中>のイカゲームのジャージ写真:ロイター/アフロ

これは明らかに「新しい点」だった。

なぜならそれまでの韓国発の世界的コンテンツは「韓国でまず流行って、その後世界に出ていく」という流れだったからだ。

2012年のPSY「江南スタイル」は韓国の音楽番組で幾度も1位を獲得した後、世界で評価された。2019年の映画「パラサイト」は韓国内歴代興行ランキングではトップに入らないものの、観客動員1000万人超え。韓国の全人口の20%近くが観たというヒット作品だ。

先日、アメリカツアーを終えたTWICEもしかりだ。デビュー当時の楽曲の多くを手掛けた作曲家「ブラックアイドピルスン」にインタビューしたことがあるが、はっきりと「まずは韓国人の感性に訴え、韓国で受け入れられることが最優先」と断言していた。

日本で流行ってきた他の韓流ドラマもそうだ。「韓国で流行った後に他国で流行る」。かの「愛の不時着」は韓国で2019年12月から2021年2月に放映されたものだが、日本で大きく流行ったのは「コロナ禍緊急事態宣言まっただなか」の2020年3月以降だった。「韓国の大ヒット作に日本でも共感」という流れだった。

しかし2020年にBTSが歴史を変えた。かの「Dynamite」は、英語での楽曲をデジタル音源で世界同時発売。この楽曲の活動期間に韓国の音楽番組に出演することなく、アメリカのビルボードで1位になったのだ。この作品は「世界で流行っているという話題から、韓国でも話題に」というパターンを作った。

そして、さらにその歴史を"更新"したのが、2021年9月の「イカゲーム シリーズ1」。なぜ"更新"と言えるのかというと、BTSとてアメリカへの初進出は2017年。少し苦労する時期もあったのだ。この作品は本当に12日間で韓国での評価も変えてしまった。それも、まったく「何もない」ところから。「Netflix」という新たなプラットフォームに乗ったことによって起きる新潮流でもあった。

ファン監督以下制作陣が「12日」という時間を冒頭で強調する点はよく理解ができる。そしてプレッシャーもある。再びそういった潮流を作れるのか。これが1つめの注目ポイントだ。

監督も最後に強調「ゲーム」はどうなる?

いっぽうで13日朝に公開されたメッセージには、こういった下りがあった。

そしてまもなく、ギフンが帰ってきます。

フロントマンも帰ってきます。

『イカゲーム』は、シーズン2となって皆さまのもとに戻ってきます。

スーツ姿のめんこ男にもまた会えるかもしれません。

ヨンヒのボーイフレンド、チョルスも登場します。

まったく新たなゲーム、そして最高の物語をご用意して、皆さまをお待ちしています。

『イカゲーム』監督・脚本・製作総指揮

ファン・ドンヒョク

「スーツ姿のめんこ男」で「ちゃんとこれまでの流れも継続します」と記している。

そしてもっとも注目すべきは「まったく新たなゲーム」という下りだ。この点が作品の大きなポイントになる。作品性でも、興行面でもそうだ。それゆえメッセージの最後にしっかりと記されているのではないか。

シリーズ1のヒット時に韓国で意外と話題になったのが「これ、世界の人が見て本当に面白いの?」という点だ。

なぜなら、韓国人にとってこの作品の面白さは「ゲームの懐かしさ」にあったから。

だるまさんが転んだ、ダルゴナ、めんこ、綱引き…などなど。

写真:ロイター/アフロ

これがデスゲームに利用されるという「ギャップ」、そしてPOPなセットで「POPなセットで行われる」点が斬新で面白い、というものだった。

ちなみにPOPなセットでレトロなゲーム、という点は、2010年代からのトレンド「NEWTRO(ニュートロ)」にも相通じるものがある。若い世代にとって「生まれる前」や「幼くてよく分からなかった」時代のものが新鮮で、これを今風に楽しむという流行だ。ここらあたり、じつはファン監督は「韓国でのヒットをまず念頭に置いていた」と見ている。お膝元のことを考えるのは当然のことだが。しかしその予想は外れ、世界で先に流行ったのだった。

シリーズ1での数々のゲームは、奇しくも「世界でのヒットと韓国でのヒットをつなぐツール」となった。

はたして2ではどんなものが? 「韓国っぽさを出すのか」はたまた「世界ターゲット」になるのか。つまりは「まず韓国で共感を得ることを狙うのか」はたまた「最初から世界を狙う」のか。世界的ヒット作のシリーズ2は、ドラマのみならず、映画や音楽といった数多くの韓流コンテンツの流れも決めるものになるのではないか。

参考 【韓国トレンドキーワード】 NEWTRO(ニュートロ) 絶対に抑えておきたい「韓国っぽ」の素のひとつ!

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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