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ビジネス界や経営者が注目する「非認知能力」とは何か!?〜ABU中田仁之代表と田中大貴氏が対談

上野直彦AGI Creative Labo CEO / TOYOTA
都内で開かれた川崎宗則氏(右)、田中大貴氏、中田仁之氏との対談は満員御礼に。

スポーツ界やアスリートの知見が、実際のビジネスに活かされる時代へ

 成長を促すリーダーシップの秘訣と、人材育成の深層に迫るリアル・オンラインの対談が反響が呼んでいる。元フジテレビのアナウンサーである田中大貴氏とABU代表の中田仁之氏との対談で、テーマは『非認知能力』の重要性と組織への影響についてである。両者のその分野での洞察やビジョンなどが来場者や視聴者に共感され広がっている。

 今夏の表参道での対談イベントは即完売となり好評を得た。また、その後のオンラインイベントも好評で、開催後のアンケートから浮かび上がったもの、それは経営者やリーダーたちの共通する悩みと学びに対する深い関心であった。

 ビジネスと家庭における指導が重なり合う中で、自己肯定感を内側から高め、個々の成長に寄り添うリーダーシップの意義が明らかになった。今後のリーダーシップの本質を見つめながら、人々の可能性を最大限に引き出すためのヒントがあるとの評価もある。感想は人それぞれだが、スポーツ界やアスリートの知見を実ビジネスに活かすという流れは年々広まっているのは、紛れもない事実である。

 今回は好評だったオンライン対談を記事とするが、実際の体験なども良き機会となる。来月に大阪で開催されるビジネスサミットなど記事の最後に記しておく。

(*記事内の画像などはABU、また田中氏からの提供です)

野球から学んだ人生の価値、そしてビジネス哲学

田中大貴氏(上)と中田仁之氏のセッションはオンラインセミナーは直ぐに完売、うまってしまう人気コンテンツとなっている。それだけスポーツ界の知見の一般ビジネスへのフィードバックが求められている。
田中大貴氏(上)と中田仁之氏のセッションはオンラインセミナーは直ぐに完売、うまってしまう人気コンテンツとなっている。それだけスポーツ界の知見の一般ビジネスへのフィードバックが求められている。

中田 アスリートのためのビジネススクール及びキャリア開発に取り組む、ABU(Athletes Business United)の代表を務めております、中田仁之と申します。

 中小企業診断士の資格を活かして、アスリートに向けたビジネスの基礎力や就職支援だけでなく、自身で事業を立ち上げたい方には会社設立や事業計画の策定など、幅広いサポートを行っています。また、アスリートの力を活用して企業の成長を推進したいと考える企業や、アスリートを採用したい企業の方々のご支援もさせていただいています。

田中 田中大貴と申します。私は2018年の夏までフジテレビに勤務し、10年間にわたり「とくダネ」や「すぽると」という番組を担当しておりました。その後、独立して株式会社インフライトを設立させて頂き、現在6期目となります。

 実況やスポーツMCとして、プロ野球、メジャーリーグ、NBA、K1などを担当する傍ら、株式会社インフライトでは「スポーツ×ビジネス」のコンサルティング事業に取り組んでいます。ここでは、スポーツの魅力を広め、スポーツ関係者にとっての交流の場を提供することに力を注いでいます。企業の課題やタスクをスポーツを通じて解決するお手伝いや、逆にスポーツ界の課題を企業が協力して解決するためのコーディネーションを行っています。

 このほか、私自身もアドバイザーや取締役として会社に参画し、企業様にスポーツへのコミットメントを強化していただくための取り組みを進めています。

中田 実は私たちには共通点があるんです。どちらも野球を経験してきたんですよね。

 私は7歳の頃に地元の少年野球チームに入団し、高校、大学まで選手として野球を続けました。卒業後は指導者としての道に進み、小学校から大学生まで全てのカテゴリーで指導経験があります。これらの野球経験を通して、本当にたくさんのことを学びました。

 例えば、仲間のために全力を尽くす姿勢や、監督の目が及ばない場面でも努力を怠らない精神、ストレス耐性やピンチに対する胆力などは、今でも私の人生やビジネスの様々な場面で役立ってますね。

田中 野球って特殊な競技ですよね。私も小学生から大学卒業まで野球を続けました。僕の場合はレギュラーにはなれましたが、それでも最後まで野球を続け、スタンドから応援し涙を流した思い出がたくさんあります。なぜ最後まで諦めずに続けられたのかというと、自分の努力やサポートが結果としてプロ野球選手や甲子園で活躍する選手の成功、ひいては社会での活躍として現れることが財産になっていたからだと思います。

 野球は自己満足だけでなく、他人のために尽くすことが求められることが多い競技だなとつくづく感じますね。自分軸ではなく他人軸での考え方はビジネスに通ずる部分が多く、野球を通じて培った価値観は社会に出てからとてもプラスになっているなと実感しています。

中田 確かに、野球だけでなく他の分野でも、努力や他人のために尽くす能力を持つ人々は、ビジネスの世界でも素晴らしい活躍をされていることが多いですね。努力を惜しまず、他人のために貢献する姿勢を持っているんですよね。

 私自身、野球に救われた経験から、野球界・スポーツへの恩返しとしてアスリートの支援に情熱を注いでいるんです。

非認知能力の掘り起こし、組織成果への好影響

田中大貴氏の講演を聞き入る参加者。経営者からビジネスマン・学生など幅広い。
田中大貴氏の講演を聞き入る参加者。経営者からビジネスマン・学生など幅広い。

中田 まず、非認知能力について触れながら皆さんの部下や選手、そしてお子様の潜在能力をより引き出すための人材育成についてお話していこうと思います。

田中 そもそもなのですが、非認知能力とはどのような能力のことを指すのでしょうか?

中田 非認知能力とは、学力ではない能力のことを指しているんです。学力では主に記憶力が求められますが、非認知能力はそれとは異なる側面です。

 具体的には、誠実さ、積極性、集中力、共感力、判断力、行動力、協調性、応用力、リーダーシップ、コミュニケーション能力などが含まれます。これらの能力は、単純に数値で評価するのが難しく、学業成績とは異なる側面で重要な役割を果たすんです。日々の辛い練習や、困難に立ち向かう経験、仲間と競い合った経験などは、非認知能力を伸ばす要因になりますね。

田中 どれだけAIが進化しても、そのような能力を具体的な数値に変換するのは難しいですよね。たとえ数値化されたとしても、その評価基準をどう設定するかという問題もあります。

中田 そうですね。あるモデルで、子供向けのテストを通じて非認知能力を数値化しようとする試みがあるんです。ただ、その中で弱い側面を伸ばそうとするアプローチには少し疑問を感じます。数値化する試みでは、よく弱点を補う方向に焦点が当てられがちですが、個人的には、社会の中では自身の得意分野をさらに伸ばす方に焦点を当てるべきなんじゃないかと。将来的には非認知能力が数値化される可能性もあるとは思いますが、その後の評価も含めて難しい側面も存在すると思いますね。

これは「カッツモデル」と呼ばれる、古くから使われている人材育成や組織のマネジメントの考え方です。組織における役職に応じて、求められる能力が「テクニカルスキル(業務遂行能力)」「ヒューマンスキル(対人関係能力)」「コンセプチュアルスキル(概念化能力)」という3つに分類されています。

 例えばですがローワーマネジメント層では、テクニカルスキルである業務遂行能力が占める割合が最も多く、重要な能力だとされています。しかし、階層が上がるほどコンセプチュアルスキルが重要になっていきます。これは物事の本質を見極めて言語化し、マネジメントを行う能力です。

 真ん中に位置するヒューマンスキルは、対人関係能力、例えば人間としての魅力や倫理的な資質を含む能力です。これは組織内のどの階層においても割合が変わらず、一貫して必要な能力だと言うことができます。テクニカルスキルは認知能力に依存する部分が多い一方、このヒューマンスキルは完全に非認知能力の側面なんです。そのため、社会で活躍する上で非常に重要な能力だと言えるかと思います。

アンケート結果から見えたリーダーの悩みと学びへの関心

「アスカツ!(ラジオ関西/毎週土曜日20:30〜21:00)」も好評だが、アプリを活用すれば関西以外のエリアでも聴くことが可能である。
「アスカツ!(ラジオ関西/毎週土曜日20:30〜21:00)」も好評だが、アプリを活用すれば関西以外のエリアでも聴くことが可能である。

中田 昨年、経営者やリーダー、親御さん、コーチなどが人材育成において抱える悩みや学びたいことについてのアンケート調査を実施しました。この調査は約3ヶ月間にわたり、約400名の方々から回答をいただきました。以下はその結果となりました。

<リーダーが人材育成に対して抱えている悩み>

モチベーションの維持と向上

チームビルディングと協力関係の構築

組織文化の醸成と従業員の価値観の一致

変化への対応力の欠如

従業員のストレス管理と健康促進

チームメンバーへのフィードバック提供

リーダーとしてのビジョンと戦略の提供

リーダーと従業員間の信頼関係構築

モチベーションの異なる世代間のマネジメント

組織全体での学習と知識共有の促進

 これらの悩みは、業種の違いや企業の規模に関わらず、リーダーや管理職の人々が共通して抱えている課題であることが分かりました。

 特に「組織文化の醸成と従業員の価値観の一致」は非常に重要で、会社の中に根付いている古い文化や固定観念は、若手社員の成長に悪影響を及ぼすことがあります。若手社員たちが新しいアイデアややり方を試してみたいと思っても、会社がなかなかそれを受け入れず、組織文化が硬直化しているケースはよく見受けられます。従業員の価値観と会社の方針をどう調和させるかは、極めて重要なテーマですね。

 また、今の時代は、スピード感が非常に速く、変化に迅速に適応しないと企業は生き残れません。その意味では「変化への対応力の欠如」も重要ですね。上層部は新しいイノベーションを求めていても、現場の変化への対応力が追いついていない場合が多々あります。

 さらに「モチベーションの異なる世代間のマネジメント」については、現在の20代と50代の人々では考え方やモチベーションの源泉が大きく異なることがあります。そのような世代の違いが存在するチームをどのようにマネジメントするかが課題となっていますね。

 これらを踏まえて、具体的に知りたいことや学びたいことについても聞きました。

<リーダーが人材育成について学びたいこと>

メンバーのモチベーションを高める方法

コミュニケーションスキルの向上方法

リーダーシップスキルの育成方法

フィードバックの提供と受け入れの方法

異なる世代間のマネジメント方法

持続的な学習と成長の文化を情勢する方法

チームメンバーの強みを活かす方法

チームのコラボレーションと情報共有の改善方法

イノベーションとクリエイティビティの促進方法

チームの結束力と共感力を高める方法

 経営者やリーダーの方で、部下や選手、お子さんの成長を願っていない人って一人もいないと思うんです。みんなそれぞれ成長を願っています。

 大貴さんは、実際に様々な企業と関わってこられた中で、経営者や管理職の方々とも多くのつながりを持たれているかと思いますが、彼らから人材育成に関する悩みについて聞かれることはありますか?

田中 例えば私がアドバイザーをしている会社や顧問として参加している企業、例えばmixiやパソナ、他にも大手から中小まで様々な企業と関わってきましたが、多くの場合、人材のマッチングについて悩んでいる会社が多い印象ですね。採用は行っているものの、求めるポジションに適した人材を見つけることや適切な配置をすることに悩んでいらっしゃる方が多いと感じます。

また、特にIT系の企業において、優秀なエンジニアは多い反面、その技術やサービスを市場に訴求する部分に課題を抱えている会社が多いと感じますね。サービスを訴求するには、やっぱり体育会系出身者やコミュニケーション能力が高い人間、つまり多くの人が集まる組織で培われたスキルを持つ人材が必要です。でも、そういう人材は、IT分野に馴染みがないことや、IT企業に就職をしている友人や先輩が少ないことなどから、多くの企業が採用に苦戦しています。技術力を持つ人材と市場に訴求する力を持つ営業人材、両方の要素を揃えることなくして、会社の成長は難しいですからね。

ビジネスと家庭における指導の重なり

田中氏のイベントでの活動は多岐にわたっている。対象がビジネスマンのものもあるが子供たちのものなど幅広い。自身も家庭の中で子育てについては学びの最中である。
田中氏のイベントでの活動は多岐にわたっている。対象がビジネスマンのものもあるが子供たちのものなど幅広い。自身も家庭の中で子育てについては学びの最中である。

中田 続いてとなりますが、親御さんにも子育てについて悩んでいることを聞きました。

<親が子育てに対して抱えている悩み>

子供の自己肯定感高める方法

コミュニケーションスキルの育成方法

自己管理能力自分の育成方法

協調性とチームプレイの促進方法

学習習慣の醸成方法

共感力と他者への配慮の育成方法

リーダーシップとチームワークの両立方法

持続的な学びと成長の習慣を育む方法

創造力と柔軟性を促進する方法

情熱を引き出す方法

 上記の結果を見ると、親後さんが抱えている悩みって、実は経営者やリーダーが抱えている悩みとあまり変わらないんですよね。子育てと部下育成には似たような側面があると感じています。

田中 そうですね。私はまだ家庭の中で学んでいる段階ですが、子育てって、永遠のテーマのように感じます。人を育てることにおいては、自分の中に答えがあるというよりも、相手の中に答えがある、あるいは未来に答えがあるような気がします。常に試行錯誤しながら、トライ&エラーを繰り返していくのが、人を導くということなのかなと思っています。

 だからこそ、様々なアプローチを考えながら挑んでいかないといけないなと感じますね。私も以前、フジテレビのアナウンサーとして活動していた際、最後の3年間は主任として部下たちの評価を行っていましたが、褒め方ひとつとっても一概には言えないんですよね。

 直接的に褒めることが全ての人にとって良いわけではなく、中には間接的に外部から褒められる方が伸びる人もいます。これは子育てに限らず、生徒や社員の育成でも同じことが言えるのではないかと思います。

中田 相手はそれぞれ異なる個人ですから、アプローチも一人ひとり違いますよね。Aさんにうまく機能した方法が、必ずしもBさんにも同じように効果があるわけではない。これが難しくもあり、学ぶべき重要な要素ですね。

田中 そうなんですよね。私はよく講演でこの話をするんですよ。例えば「目の前に素敵な赤い傘を持ったおばあさんがいたとして、その傘をどう褒めるか考えてみてください。」と。「素敵な傘ですね」とか「その赤い傘お似合いですね」といった直接的な褒め方は多くの方ができるのですが、意外と間接的な褒め方ができる人は少ないんです。でも、例えば、「その傘、ちょうど僕も母に買おうと思って、昨日デパートで見ていたんです!」と言えば、その傘を間接的に褒めていることになります。このような表現力や視点を持つことが、上に立つ人としての魅力を高めるのではないかと思います。日常的にこういったことを考える習慣を持つことは、キーワードとして意識するようにしていますね。

中田 そうですね、人材育成も子育てもほんとに難しいですよね。こういった難しさに直面する我々が、どのように育成を進めるべきかについて、これからお話していきたいと思います。

内なる強さと外なる導き:成長を促すリーダーシップ

来月に開催予定のアスリートビジネスサミット2023は、元プロ野球選手の能見篤史氏を交えての対談となる。
来月に開催予定のアスリートビジネスサミット2023は、元プロ野球選手の能見篤史氏を交えての対談となる。

中田

まず、前述のアンケートから、リーダーが学ぶべきことをまとめると、以下のようになります。

チーム作り

フィードバック

リーダーシップ

共感力

マネジメント

1on1

メンタリング

柔軟性

適応力

 発想を柔らかくし選択肢を広げることが柔軟性で、外部の刺激に反応して新たなアプローチを試してみることが適応力ですね。これらに加えて、モチベーションマネジメントやコミュニケーションといった要素を常に学びながらブラッシュアップし、引き出しを増やしていく必要があります。

ここで、私のお気に入りの「たまごの法則」という考え方をご紹介します。これは、内側から破られるたまごは命を得るけれど、外部から破られたたまごは死んでしまうという法則です。つまり、外部の圧力だけではなく、自分自身で壁を乗り越えて成長することが重要だということですね。これはスポーツ界でも顕著で、例えばフィギュアスケートの場面が分かりやすいかもしれません。

 競技の中で、選手が氷の上に出て行く直前、コーチが最後に選手に声をかけますよね。選手が握手したり背中を軽くたたいたりしながら、コーチの言葉にうなづいて。その場面を見ると、選手の自信を高めて、自分で殻を破るためのサポートをされているように感じるんですよね。

田中 ビジネスの世界でも必要なことですよね。部下にとってリーダーや経営者の存在はとても大きいので、彼らがしっかりと部下を見る目を持って、接していくことが本当に大切ですね。

中田 まさにそうですね。リーダーにとって、本当に必要な素質とは何でしょうか。もちろん、技術や知識を伝える能力も不可欠です。しかし、もっと大切なのは、部下があと一歩で殻を破ることができることを見逃さず、どこを破ればいいかをそっと示して、その成長を促してあげること。それには教え子を良く見る眼が大切で、部下が殻を破ろうとする「音なき音」を感じ取る知覚が欠かせません。これは、「啐啄同時(そったくどうじ)」という禅語に由来するもので、外側から方向を示し、同時に内側から導くことで、優れた弟子や部下が育成されるんです。

田中 スポーツキャスターをしていた時も、全員がスポーツ好きだったり、専門的な知識を持っていたりするわけでもない中、スポーツの魅力を伝えるために、自分の姿を示して覚えてもらうことを大切にしていました。

 最初のステップは、まず現場に行って、選手を好きになるということを見てもらうこと。人を好きになり、興味を持つことで、その選手のルーツや価値観を理解することに繋がります。そしてそれが、最終的にはその競技を知り、魅力を伝えていくことに繋がるのではないかと。スポーツ選手として見る前に、まずはその個々の人間として、その後でなぜ彼らがアスリートとして活躍するのかについて理解することが、とても重要だと思っています。

思い込みの落とし穴:レッテルが隠す個人の多様性

中田 次は「レッテル」についてお話しましょう。レッテルとは、良い意味や悪い意味で、私たちが他人にラベルを貼ることを指します。

 多くのリーダーは、一度貼ったレッテルを剥がさないんですね。決めつけや偏見で一方的にラベルを貼ってしまう。例えば、日本ではA型は几帳面だとされますが、中国ではB型以降が几帳面だったりすることもあります。でも、「あの人はB型だから…」とステレオタイプに人を当てはめてしまいがちなんです。また、ハロー効果もレッテルに近いですね。

 これは、特定の特徴や属性を持つ人に対して、過度な評価をすることを指します。例えば、東大を出ている人は優秀だというように、その人の学歴や家柄でその人個人も同様に優れていると思い込んでしまうことなどですね。レッテルを貼ることで、個人の複雑な特性や個性が単純化されてしまい、本当の意味でその人を理解できなくなってしまいます。

田中 学歴や出身、家族構成など人の背景に関する情報についても同じことが言えますよね。たしかに、出身校や部活などの背景によってある程度特有の傾向はあると思います。でも、傾向があるという事実に甘えて、相手を真剣に理解しようとする努力を怠ってしまうことは、非常に危険だと思いますね。レッテルやハロー効果は我々の判断や評価に危険な影響を及ぼす可能性があると思います。

中田 レッテルは付箋なんです。本来は、張り替え自由であるべきです。レッテルをはがすことは、個人に対する偏見やステレオタイプを乗り越え、より包括的な視点を持つために非常に重要です。相手を単なるカテゴリーではなく、個々の人間として尊重し、他者の多様性を受け入れ、お互いに深く理解し合う努力を続けること。思い込みや先入観が、組織やチームの柔軟性を減少させ、相手の成長を遅らせてしまう場合もあるんですよね。

田中 年を重ねるにつれて思うのは、自分よりも若い部下や後輩たちが抱えている問題や決断が、実は彼らにとって人生を大きく左右するものだったり、重要な葛藤や悩みだったりすること。自分がその過去の段階を経て何年も経つと、同じ問題でもこれまでの経験から得た価値観が故に「それほどでもない」と軽視してしまいがちです。相手を知る努力をしないで、決めつけてしまっている状態ですよね。大事なのは、自分が過去に感じた重要性や悩みを忘れず、彼らの立場や状況に戻ることができるかだと思っています。

中田 レッテルって、悪いことばかりではくていいことでもあるんです。でも、レッテルを貼る側が、それを剥がしてもいいんだと知ること、そして相手のことを知ろうとする努力をすることが大事ですね。

「愛あるおせっかいさん」ー成長欲を引き出すために

好評をはくした表参道でのイベント。川崎宗則氏とのトークは笑いもあり、最後は
好評をはくした表参道でのイベント。川崎宗則氏とのトークは笑いもあり、最後は

中田 最後に成長欲についてお話します。

 部下やお子さんの成長欲を引き出す方法は、その人が「この人に相談したいな」と思ってもらえる存在であることです。主導権は相手にあるんです。相手が必要とするタイミングで、あなたを思い浮かべてもらえるか。そのためにできることは、「愛あるおせっかい」です。

 愛あるおせっかいの状態でいると、「ちょっと聞いてみようかな」と思い出してもらいやすいんです。逆に、相談しようと思った時に、「でもきっとあの人はこんな風に言うんだろうな」という答えがすでに頭に浮かんでしまうような人は、たとえ思い浮かべてもらったとしても相談には踏み切らないケースが結構多いんですよね。

田中 たしかに、そのような人は実際に多いですね。主導権は相手にあるという考え方にはすごく共感します。自分中心になると、どんどん狭量な思考に陥り、新しいアイディアも生まれにくくなります。私自身、以前の経験を振り返ると、視聴者や仲間のキャスターなど、周囲の視点をもっと考慮していれば、より良いアイディアを生み出せたかもしれないと、フリーになった今強く感じています。他人軸で考えられるというのは、本当に重要だと思いますね。

- 愛あるおせっかいさんとは、具体的にどんな人なのでしょうか?

中田 愛あるおせっかいさんの特徴としては、以下の要素が挙げられます。

小さなことに感謝する:意識的に探して感謝の気持ちを持つことが大切で、些細な出来事にも感謝の目を向ける。

小さな変化に気づく:外見の変化に限らず、仕事関連の変化にも注意を払える観察力を持つ。

無理に干渉しない:適切なタイミングを見極め、相手が相手のペースで進むことを尊重する。待つ忍耐力も重要。

リターンを求めない=与える:無償で手を差し伸べ、何かを提供する際に見返りを期待しない。

相手のプライドを尊重する:どんな人でもプライドを持っていることを理解し、それを尊重する。

つまり、「愛あるおせっかいさん」は相手の自己評価を高められる人だと言うことができます。大貴さんはいかがですか?

田中 自分は心配性なので、かなりおせっかいな性格ですね。自分のことよりも、手伝ってくださる周りの皆さんに対する気持ちが大きいほどです。最近は、目の前の人が成し遂げたいことや夢が、自分自身のやりたいことだと感じるようになってきました。

中田 かっこいいですね。私も独立して13年目になりましたが、人を集める人ではなくて、人が集まる人は愛のあるおせっかいさんが多いと感じますね。自分の価値を高めることに一生懸命な人のところには、人って集まらないなと常々感じます。愛あるおせっかいさんとして、目の前の人の自己肯定感を高めてあげられるような人になりたいものです。

対談を終えて

 最後に『非認知能力』出版記念講演会 アスリートビジネスサミット2023in大阪 の案内を加えておくが、9月15日に大阪で非認知能力出版記念パーティーが開催され、田中大貴さんと元阪神・オリックスの能見篤史さんと3人でのトークショーが開かれます。

 今回のこの記事で興味を持たれた方は書籍や是非リアルなセッションなどを実ビジネスや人生に活かしてもらえたらと考えます。引き続き非認知能力の広がりや展開を追っていく。

【対談者_プロフィール】

中田仁之 

株式会社S.K.Y.代表取締役/中小企業診断士 株式会社A.B.United代表取締役 1969年大阪生まれ。 幼少期より野球一筋、関西大学在学時には体育会準硬式野球部に所属、大学選抜メンバーに選出され海外遠征を経験。「JAPAN」のユニフォームに袖を通し海外で君が代を歌うという経験を持つ。 卒業後は上場企業でコンサルティング営業として20年間活躍した後、2012年2月に株式会社S.K.Y.を設立。 「大好きな人に本気の応援を提供する」という企業理念を掲げ、上場企業から個人事業主まで幅広い顧客層を持つ。 2018年に上梓した著書「困った部下が最高の戦力に化ける すごい共感マネジメント(ユサブル刊)」が発売直後に重版となりロングセラーに。台湾、中国でも翻訳される。 2020年5月、アスリートのネクストキャリアを支援する「日本営業大学(現Athletes Business United)」という日本初のアスリートに特化した教育機関を設立、様々な競技に取り組む現役選手や引退した元アスリートから大学生まで、のべ350名のアスリートに対しビジネス教育を提供、就職や起業など一人ひとりに合った次の一歩をサポートしている。 2023年にはラジオ関西にて冠番組『アスカツ!』をスタート、さらに『非認知能力〜トップアスリートに学ぶ活躍できる人の条件』を上梓するなど活躍の幅を広げている。

田中大貴

兵庫県出身。1980年生まれ。 兵庫県立小野高校卒、慶應義塾大学環境情報学部卒。 大学時代は体育会野球部に所属し、東京六大学でプレーする。2003年~フジテレビに入社し、アナウンサーとして勤務。 「EZ!TV」「とくダネ」「すぽると」「HERO’S」、スポーツ中継等を担当。 バンクーバー五輪、リオデジャネイロ五輪現地キャスター。プレゼンター、MC、実況者を歴任。 2018年~独立。スポーツアンカー、経営者として活動中。東京五輪ではIOCベニューMCを務めた。 番組MC、スポーツ実況、執筆連載などメディア出演の他にInflight.Co.,Ltdを立ち上げ、スポーツチーム・団体・企業とのビジネスコーディネーション、コンサルティング、メディア制作、CSR活動イベントの企画・運営も積極的に取り組む。

(了)

AGI Creative Labo CEO / TOYOTA

兵庫県生まれ/スポーツジャーナリスト/ブロックチェーンビジネス/小学生の時に故・水島新司先生の影響を受け南海時代からの根っからホークスファン/野村克也/居酒屋あぶさん/マンチェスターシティ/漫画原作/早稲田大学スポーツビジネス研究所 招聘研究員/トヨタブロックチェーンラボ/SBI VC Trade・Gaudiyクリエイティブディレクター/日銀CBDC/漫画『アオアシ』取材・原案協力/『スポーツビジネスの未来 2021ー2030』(日経BP)異例の重版/NewsPicks「ビジネスはJリーグを救えるか?」連載/趣味 フルマラソン、ゴルフ、NYのBAR巡り /Twitter @Nao_Ueno

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