やはりおかしい世界の異次元緩和の効果とされるもの
2007年8月ごろからの米国でのサブプライム問題に端を発する金融市場の混乱、欧米金融機関の巨額損失による信用システムへの不安、米経済の後退観測などが生じた。サブプライムローン問題を契機に始まった金融混乱は、2008年秋以降、未曾有の世界的な金融経済危機へと発展しもその象徴的な出来事がリーマン・ショックとなった。
リーマン・ショックによる危機がやっと後退したかに思えた2010年に今度はギリシャの債務問題が顕在化し、これが欧州の信用危機をもたらし、再び世界的な金融経済危機が発生した。
この間、日米欧の中央銀行は積極的な金融政策を実施した。財政出動が難しくなり、危機回避に対して金融政策に頼らざるを得なくなった面も大きい。しかし、伝統的な金融政策、つまり政策金利の上げ下げに関しては、政策金利が実質ゼロ近辺となると限界が生じた。これに対して、イングランド銀行、FRB、ECBそして日銀などは非伝統的な金融手段に打って出た。ちなみにこのときの金融緩和はあくまで危機対応であった。
イングランド銀行は国債買入規模を目標とする量的緩和を行った。FRBは試行錯誤を繰り返して最終的には国債とMBSの大量買入に落ち着いた。市場はこれをQEと呼んだ。ECBは国債価格が急落していた国の国債買入を行った。日銀は包括緩和政策としてゼロ金利政策と別枠の国債買入を組み合わせた政策を実施した。
これらはあくまで危機対応であったが、金融政策にはそれぞれ目標があり、その政策解除については理由付けも必要になった。多少物価のターゲットに乖離しても危機が収まればイングランド銀行は追加の買入は行わなかった。FRBは景気の回復やそれによる雇用のたるみ(slack)などを意識していたが、その改善をテーパリングの理由としていた。
ただし、おかしいのは入り口が危機対応で出口が当初の金融政策の目標であったことである。物価や雇用の数字が意識するあまり、たとえば米国では雇用統計の内容が重視されたりする。しかし、金融政策でダイレクトに雇用に働きかける明確な説明はなされていない。あくまで結果重視でしかない。
これに対して日銀の異次元緩和は別の次元でやってきた。欧州危機後退のタイミングで出てきたアベノミクスと呼ばれたリフレ政策のアドバルーンによって円安株高がもたらされ、そのリフレ政策を日銀は実現せざるを得なくなったのである。危機対応という側面からみれば、本来であればブレーキを踏むべきタイミングで、思い切ったアクセルを踏み込んだといえる。その理由はこれまでの日銀が積極的なデフレ対策を取ってこなかった、からだそうである。
ECBも危機の影響による物価下落を理由付けに、FRBや日銀が行った大量の国債買入をこちらも危機は後退しつつあるタイミングで実施している。日銀もECBもすぐに効果が出たかのような結果になるが、これは危機後退のタイミングと通貨安がミックスしての物価の一時的な上昇となっていたことによる影響も大きい。結果として日銀は2年という期間での物価目標はリフレ政策で達成できていない。金融政策で直接物価を動かす経路がこれまた不透明となった。
このように2007年以降の日米欧の中央銀行の金融政策は日銀だけでなくすべて異次元の金融緩和であった。それがいったいどのような効果を得たのか。結論からいえば世界的危機を市場経由で和らげる役割や、通貨安による効果はあったと思われる。その通貨安もスイスのように介入でも限界があることを示すなど、興味深い事例も出ていた。
まだ総括には早すぎるかもしれないが、いろいろと矛盾だらけの日米欧の異次元緩和をあらためてその効果なるものを分析することも必要ではなかろうか。もちろん単に数値を比較するとかではなく、金融緩和がどのように働いたのかを具体的に示した上でではあるが。