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浜口HCが口説き落とした新加入の松井啓十郎が新天地京都でキャリア一番の輝きを見せる理由

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
今シーズンはキャリア一番の活躍を続けている松井啓十郎選手(筆者撮影)

【開幕6連勝を支える新加入のベテランシューター】

 2019-20シーズン開幕以来、サンロッカーズ渋谷とともに無傷の6連勝を続ける京都ハンナリーズ(渋谷は台風の影響でここまで4試合のみ)。開幕前のアーリーカップでも関西地区で初優勝を飾るなど、好調を維持し続けている。

 チーム好調の要因の1つが、ここまで平均88.7得点でリーグ1位にランクする突出した攻撃力だ。中でも昨シーズン攻撃の核だったデイヴィッド・サイモン選手とジュリアン・マブンガ選手の2人がチームに残留し、今シーズンもサイモン選手が平均27.7得点でリーグ1位、マブンガ選手が平均23.6得点で同8位と大車輪の活躍をみせている。

 さらにこの2人に加え、今シーズンは新加入の松井啓十郎選手がここまで平均17.3得点と、日本人選手の中でリーグトップの得点力をみせていることで、さらにチームの攻撃力を増すことに成功している。

 本欄でも報告しているように、昨シーズンまで先発SGを務めていた岡田優介選手がオフに受けた左肩手術の影響で体調が万全ではないため出場時間が限られる中、松井選手の活躍は彼の穴を埋めるに余りあるものといえるだろう。

【日本人男子初のNCAAディビジョン1選手】

 松井選手といえば、NBA入りを目指し高校から米国挑戦を始め、高校卒業後にコロンビア大に入学し、日本人男子として初めてNCAAディビジョン1で公式戦出場を果たした選手だ。

 大学卒業後は日本に帰国し、JBLのレラカムイ北海道を皮切りに10シーズン、日立サンロッカーズ(現渋谷)、トヨタ自動車アルバルク(現アルバルク東京)、シーホース三河を渡り歩き、今年6月に契約満了で三河を退団していた。

 一方京都は、岡田選手が前述通り左肩手術を受けシーズン開幕に間に合うか微妙な状況だったことに加え、晴山ケビン選手、片岡大晴選手のウィング陣がチームを離れることになり、ウィング陣の選手補強が急務だった。

【浜口炎HCが自ら足を運び直接交渉】

 そんな京都の浜口炎HCが白羽の矢を立てたのが、松井選手だったというわけだ。以下、獲得までの経緯を話してくれた。

 「三河の貴美一さん(鈴木HC)に電話をして状況を聞いて、(松井選手の)人となりを聞いて、そこから彼にコンタクトをとり東京に会いに行ったのがスタートでした。

 ウチは他には…、KJ(松井選手のニックネーム)と誰かを追いかけていたわけではなくて、彼一本でいっていました。それは彼にも伝えましたし、獲得できて良かったです」

 そうした浜口HCの熱意は、松井選手にもしっかり届いていた。

 「他のチームとかは保険じゃないですけど、時間が無いというのもあって何人かに(声をかける)…。松井選手がダメだったら他のシューターにいこうとか、そういうかたちですが、炎さんは『KJが来るなら来るでいいし、来ないと言われたらそこから新しい選手を探すから』と言われて、本当に一途な感じで…。

 そういうのはやっぱり選手に伝わるので、噂通りのいい人だなというのは思いましたね」

 こうして松井選手は浜口HCの説得に応じ、京都入りを決断したのだ。

【「ある程度のプレータイムをもらえれば結果を出せる自信がある」】

 松井選手が実績あるベテラン選手なのは事実だが、果たして新天地の京都でここまでの活躍を予測できた人たちは何人いるのだろうか。過去10シーズンの成績と比べてみても、まだシーズンが始まったばかりとはいえ、ここまでキャリア一番の輝きを見せているのだ。

 特に昨シーズンは42試合の出場(うち3試合先発)で、平均出場時間8分11秒、平均得点も2.8点と、自己ワーストのシーズンを送っていただけに、とてつもない変貌ぶりといっていいだろう。

 だが松井選手もしっかりやれる自信があったからこそ、京都移籍を選択したのだ。

 「僕はプレースタイルが1個しかないので(笑)、外のシュートを如何に打つかというのがポイントだと思います。そういう意味ではやることが決まっていますし、周りも僕が外のシュートが上手いというのを知っているので、そういうところのスクリーンだとかパスだとかというのは、今のところ(チームからの)信頼はあるのかなと思います。

 僕もまだ自信があるので、コートに立ってある程度のプレータイムをもらえれば結果を出せるという自信があるので京都に移籍してきて、それがチームのプラスになっているのかなと思います」

【浜口HCが寄せる全幅の信頼】

 浜口HCも、現在の松井選手の活躍を「もちろんです」と予測していた上で、彼の魅力について説明している。

 「彼は賢いですし、コミュニケーション能力もあるので、すごくバスケットの理解力も高くて、このチームが何をしてほしいかを感じてくれて、ウチにはサイモンとジュー(マブンガ選手)もいますし、スペースをうまくとればインサイドアウトで上手く点もとれるし、非常に上手にプレーしているんじゃないかと思います。

 彼を好きなのは、3ポイントが上手なのはもう分かっていることですけど、2ポイントも非常に上手なんです。ドリブルついてからのジャンプシュートだとか、それとバックカットが非常に上手なんですけど、そういうことができる選手が好きで、ただ(シュートを)打つだけでなくていろいろなことができます」

 連勝が続いているとはいえ、先発2新加入の京都はチームとしての成熟度はまだまだだ。それを考えると、チームの秘めた潜在能力は計り知れないものを感じさせる。

 果たして松井選手と京都の快進撃はどこまで続くのだろうか。いずれにせよ、今シーズン注目すべき存在であることは間違いなさそうだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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