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あなただけが情報を知っている?:寄生獣ミギーは、なぜネットではなく図書館に行ったのか

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ)(写真:アフロ)

■特別にすばらしい方法?

「あなただけにお届けする、ここだけの情報があります。マスコミも、政府も、研究者たちも知りません。でも、私は知っています」。

世の中には、特にネット上には、こんな「情報」があふれています。

特別な情報をつかめば、値上がりする株がわかります。避けるべき食品がわかります。進むべき道がわかります。

でも、特別な金儲けの方法を知っている人がいれば、人に教える前に自分が実行するでしょう。

■特別にすばらしい方法の危険性

「乳児の生命や身体を害する危険を容易に認識できたのに、安易に考えて十分に検証せず、注意義務違反の程度はかなり大きい」

出典:元NPO代表に有罪=施術で乳児死亡―大阪地裁 時事通信 8月4日

乳児に対して特別なマッサージ法を施した結果、死亡させたとされる事件です。業務上過失致死罪で、有罪判決がでました。

被告人は、かなり変わった施術(奇妙な赤ちゃんマッサージ)を行っていました。本人は自信があったようです。評判も広がりました。

しかし、常識や定説等と異なることをする人は、それが普通ではないという自覚と謙虚さが必要です。一般とは異なることは、すばらしい方法である可能性もありますが、大きな危険性もあるということです。

この団体のホームページには、「人間の首の可動範囲は限界があって、左右に60度くらいしか曲がらないというのが常識になっています。ところが、私が経験上知っていることは、ズンズン運動をしているとき、赤ちゃんが90度以上首を回すことがあるということなのです。」とありました。

実行する人も、利用する側も、命や人生に関わることには、慎重さが必要でしょう。一般には知られてはいないけれどもずば抜けたすばらしいことなどは、簡単には存在しません。

■「情弱」ではなく、情報にたけた人々が陥るワナ

牛乳は飲まないほうが良いという人がいます。ネット上に広まっている誤情報のようです。ネットでは、様々な嘘やデマ、流言が広がります。

昔は、百科事典や帝大の偉い先生が、オーソリティーとして信用されましたが、権威を疑うことがかっこ良いような価値観が広がりました。そこに、インターネットの登場です。そこには、最新の情報が、偏りなくあるという幻想が広がりました。

情報は力です。遠い昔には、三蔵法師が苦労を重ねてインドまで本(巻物)を取りにいきました。今なら、一日ネットにつながって、適切なキーワードが使えるなら、全ての情報が手に入ると、感じます。しかし、誰にもチェックされず広がる情報には、多くの誤りや偏りがあります。

人は、利害関係のない第三者の話を信じやすくできています。だから、CMよりも口コミを信じます。昔なら、近所の情報通の話を聞いたのですが、今なら、ネットで世界の最新情報が得られます。ただし、どこまで真実かはわかりません。

様々な情報や意見感想を持っている人が、平均的にネットに書き込むわけではありません。ネット上にある、店の評判も映画の評判も、ある種の偏りはあるように感じます。

百科事典や旅行案内の本を読むよりも、ネット情報を解釈するには、高度なリテラシーが求められるでしょう。

人はなぜ嘘(流言・デマ・都市伝説)を信じてネットで拡散させるのか:ネットデマの心理学

■寄生獣ミギーは、なぜネットではなく図書館に行ったのか

映画「寄生獣」(2014)に登場する寄生生物「ミギー」は、高い知性を持っていますが、まだ人間界のことを何も知りません。そんなミギーが、人間世界のことを知るために出かけたとところが、図書館でした。なぜ、ネットではないのでしょう。

ネットでは、簡単にものごとを調べられます。しかし、人間界の常識のないミギーにとっては、何が真実で、何が嘘で、何が冗談なのか、判断がつかないでしょう。でも、図書館に並んでいる本なら大丈夫です。もちろん、すべてが正しいわけでもなく、最新情報でもありません。

それでも、本を使えば、基本となる人類の文化、歴史、地理、政治、科学情報など、必要な情報は手に入るでしょう。ミギーが十分に社会常識を得た後では、調べ物にネットを使っていました。

青少年のネット利用に関する調査によれば、ネットを使わない高校生のネットリテラシーは低いのですが、逆に1日1~2時間を越えて何時間もネットを使う生徒のネットリテラシーはかえって低くなっています(平成26年度 青少年のインターネット・リテラシー指標等)。ネットを使いこなすためには、ネット以外の情報や常識も必要です。

それに、普段ネットを存分に使いこなしている人でも、ネットで1時間調べてもわからなかったことが、図書館で15分でわかることもあるものです。

■頭の良い人たちの「反知性主義」

頭の良い人たち、社会的発信力を持っている人たちが、ある情報を信じてしまうと、そこから先は常識的な検証ができなくなることもあります。そうして情報が広がれば、一般の私たちはなおさら信じてしまいます。

こうして、様々な陰謀論都市伝説、とんでもない偽科学などが広がり、時には教科書にすら載ってしまうこともあります。「江戸しぐさ」もその一つでしょう。さらに、過激な原理主義や、カルト集団や詐欺集団のメンバーが増えることもあるでしょう。

理屈ばかりこねまわす極端な知性主義は愚かです。しかし、反知性主義に陥ってもいけません。常識的な判断や、オーソリティーに対する敬意、そして同時に、どんなことに対しても健全な批判精神と検証の態度を身につけることが、現代社会の私たちにこそ求めらているのではないでしょうか。

■関連

都市伝説の見抜き方:東大卒業式の式辞(あらゆる情報の真偽を自分の目で確認してみること)を実践してみた:安易に拡散リツイートしないためのネットリテラシー

「反知性主義: アメリカが生んだ「熱病」の正体 (新潮選書)」

「日本の反知性主義 (犀の教室)」

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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