これまで新型コロナワクチンを何度も接種してきたのに、なぜ年1回の接種になるのか?
現在、新型コロナワクチンは、最多で5回接種まですすめられています。私も、5回接種済です。なぜ、これまで短期間でたくさんワクチンを接種してきたのに、今後は年1回で済むという結論になるのでしょうか?
新型コロナワクチンの効果は2つ
国内では現在、ファイザー社、モデルナ社、武田社(ノババックス)のワクチンと、ファイザー社とモデルナ社のオミクロン株対応2価ワクチンが接種されています。
個々のワクチンの差については割愛しますが、新型コロナワクチンに期待されてきた効果は主に2つあります。
「発症予防効果」
1つ目は「発症予防効果」です。メッセンジャーRNAワクチンが薬事承認される前に、海外で発症予防効果を確認するための臨床試験が行われ、95%という発症予防効果が確認されたことは大きく報道され、記憶に残っている人も多いでしょう。
現在のオミクロン株に対して、従来株ワクチンの追加接種やオミクロン株対応2価ワクチンの接種による発症予防効果は、約70%とされています。
この70%というのは、「ワクチンを接種した人の70%が感染しない」という意味ではありません。感染症の発症率によりますが、たとえば10%だった発症率を3%に低減できるという意味です(図1)。当然、感染者数が多いほど、このインパクトは大きくなります。
現在のワクチンの問題点は、ワクチンから逃避する術に長けた変異ウイルスのせいで、発症予防効果の持続期間がだんだん短くなっているという点です。
実際に、3回目ワクチン接種後5~6か月も経過すると、オミクロン株に対してかなり発症予防効果が落ちてしまいます。
そのため、ワクチンが登場した初期のような長期の感染予防効果は期待できなくなっています。これがネガティブに受け取られ、ワクチン接種が思うようにすすまない現状もあり、2つ目の効果をしっかりと啓発することが重要です。
「重症化予防効果」
その2つ目の効果は、「重症化予防効果」です。特に高齢者や基礎疾患がある人では、3回以上接種している場合、入院を要する新型コロナはかなり少なくなります。
参考になるデータとして、イスラエルの65歳以上の約62万人における、オミクロン株対応2価ワクチンを接種した人と接種していない人の入院率を比較した研究があります(1)。過去3か月以内にワクチン接種歴や感染歴のない、オミクオン株対応2価ワクチン接種対象者が、組み入れられています。
これによると、オミクロン株対応2価ワクチンの接種群で、入院リスクが未接種群より81%減少することが示されました(図2)。オミクロン株になってからというもの、イスラエルでもワクチン接種の効果が低いという風潮が広まっており、伸びない接種率に悩まされているそうです。
日本でも、アドバイザリボードの資料において、ワクチン接種回数が3回・4回・5回と増えるにつれて入院予防効果が大きくなることが示されています(2)。
全体を見ると確かに重症化している人の数自体は多くありません。ただ、医療機関に入院する人の多くがワクチン未接種あるいは追加接種していないという状況であることから、日本の救急医療や入院医療を守るためには、ワクチン施策は避けて通れません。
さて、この「重症化予防効果」というのは、「免疫の記憶」によるものだということが示されています。
「免疫の記憶」
この機能は、リンパ球という白血球が担っています。例えば過去に感染したことがあるウイルスが入ってくると、これを記憶したリンパ球が作用して、早期に感染症の火消しに動いてくれるわけです。
ワクチン接種者が感染した場合、この記憶リンパ球の立ち上がりが早くなることが新型コロナでも示されています(3)。
ワクチン接種者は、抗体価そのものは大幅に減少しますが、記憶リンパ球は比較的安定して残っていることが分かっています(図3)(4-6)。
つまり、感染・発症予防効果の期待値は少し下がるとしても、「免疫の記憶」による重症化予防効果を維持するためには、定期的に接種したほうがよいということになります。これによって救急医療の逼迫や高齢者の死亡を防ぐことが可能と考えられます。
年1回になった理由
日本国内だけでなく、世界的にワクチン接種は非常に複雑化しています。「どの世代が、いつ、何を接種しているのかよく分からない」という意見も耳にします。
多くの国民がワクチンの恩恵を受けるためには、発症予防効果を繰り返し会得するために複雑な接種プランのもと年に何回も接種するより、分かりやすい時期に啓発して重症化予防効果を狙ったほうが国全体の集団免疫を上げやすいという考えもあるのかもしれません。
「免疫の記憶」は長期に続きますので、重症化予防効果に限っては年1回の接種でも十分ではないかとされています。
また、水面下で新型コロナに感染した人はそれなりに多いことから、ハイブリッド免疫(感染+ワクチンによるダブルの免疫)に期待しているという側面もあります。
このプランを進めていく場合、免疫不全者、高齢者、子どもなど、感染リスク・重症化リスクが高い集団は、優先して接種されるべきでしょう。
(参考)
(1) Arbel R, et al. SSRN: https://ssrn.com/abstract=4314067(査読前論文)
(2) 新型コロナワクチンの有効性に関する研究~国内多施設共同症例対照研究~(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001055271.pdfまたはhttps://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001055273.pdf)
(3) 第51回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会. ワクチン予防効果への寄与が想定される免疫記憶とウイルス排除機構について(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/001044146.pdf)
(4) Zhang Z, et al. Cell. 2022 Jul 7;185(14):2434-2451.e17.
(5) Arunachalam PS, et al. medRxiv. 2022 Dec 4;2022.12.02.22282921.(査読前論文)
(6) Monzon-Posadas W, et al. Front Immunol. 2023 Jan 19;14:1066123.