エクリプスS詳報とディアドラのマーフィー騎手が語る敗因とは……
レース前の各馬の評価
現地時間7月5日、イギリス・サンダウンパーク競馬場で行われたエクリプスS(G1、芝1マイル1ハロン209ヤード)はガイヤース(牡5歳、C・アップルビー厩舎)が優勝。女王エネイブル(牝6歳、J・ゴスデン厩舎)は2着、日本馬ディアドラ(牝6歳、栗東・橋田満厩舎)は残念ながら5着に敗れた。
7頭立てながら強豪が顔を揃えたこのレース。明らかに格落ちなのがバンコク(牡4歳、A・ボールディング厩舎)。リーガルリアリティ(せん5歳、M・スタウト厩舎)は昨年のこのレースで3着といえ、出走メンバーの層は今年の方が明らかに一枚も二枚も上。バンコク同様苦戦が予想出来た。
残る5頭の中でディアドラとエネイブルをどういう位置付けにするかだが、気になったのはともに休み明けという点。そもそもヨーロッパのビッグレースは休み明けの実力馬に牙をむく傾向にある。例えば凱旋門賞(G1)はもう半世紀以上3ヶ月以上間の開いた馬は勝っていない。あのディープインパクトでさえ乗り越える事の出来なかったデータである。69回の歴史を誇るキングジョージ6世&クイーンエリザベスS(G1)も私の記憶が確かなら休み明けで制したのはゴーランくらい。そしてこの傾向はエクリプスSにも当てはまった。先の2例ほどではないが、やはり1、2度叩かれている馬に分のあるレースなのだ。
それでも実績に優るエネイブルは軽視出来なかったが、新聞紙上の本命はガイヤースとした。昨年の凱旋門賞こそ道悪で持ち前のスピードが殺されたが、近2走はいずれもビュンビュン逃げてそのまま怪時計で押し切る形。使われている強みとエクリプスSの舞台となるサンダウンパーク競馬場は先行馬に有利という点も考慮して、対エネイブルの逆転を期待した。
久々は不安と書いたエネイブルだが、断然の実績から対抗に。ひと叩きされたジャパン(牡4歳、A・オブライエン厩舎)は変わり身を期待して3番手評価の▲。そしてマッキノンS(G1)の覇者マジックワンド(牝5歳、A・オブライエン厩舎)は昨年の愛チャンピオンS(G1)で実際にディアドラに先着している他、惜敗続きのG1戦線でもかなりの数の実績馬に先着しまくっている。このあたりが力通り走れば、ディアドラをしても厳しい戦いが予想され、私は残念ながら彼女を無印にした。もっとも、非国民でも非情でもないので、レースは当然ディアドラに声援を送った。ディアドラが好走すれば自分の馬券はハズれるが、そこは二律背反の念を胸に見守ったのだ。
ガイヤースが逃げ、ディアドラは好位を追走
その競馬ぶりでも分かるように気性面で少し難しいところのあるガイヤースはパドックでメンコ(耳覆い)を装着。赤のメンコが意味するのはレースでは着けないという事。だからゲート裏で外された後、ゲートイン。ダッシュをきかせてハナに立ち、そのまま飛ばすのがこの馬の形だが、今回はスタートが今ひとつ。逆に絶好のスタートを切ったのがエネイブルと大外7番枠から出たディアドラ。レース後、ディアドラのオイシン・マーフィーに連絡し、話を聞くと、このアイルランド人ジョッキーは次のように答えた。
「追い切りでも乗って状態は良いと思いました。スタートではポンと出たけど掛かる事もなく、上の指示に従って走ってくれました」
だから好発を切ったものの逃げはしなかった。エネイブルも抑えると、代わって上がって行ったのがジャパン。そしてそれをかわして一気にガイヤースが先頭に立った。
向こう正面で態勢が決まる。先頭はガイヤースで2番手の内にジャパン。半馬身遅れの3番手がディアドラで、少し離れた4番手がエネイブル。更に少し開いてリーガルリアリティとマジックワンド。最後方からバンコクという並びになった。ガイヤースの逃げはいつもほど後続を突き放す形ではなく、ジャパン、ディアドラとの差は2~2馬身半ほどだったが、マーフィーは述懐する。
「レースは良いペースで流れていました。ディアドラにとっては馬場状態も向いていたので良い感じで走っていました」
エクリプスSは1ターン。隊列はほぼ変わらないままコーナーをカーブし、直線に向く。ディアドラの後ろでF・デットーリにより外へ出されたエネイブルが追撃態勢に入り、その差をジリジリと詰める。2番手のジャパンも外からガイヤースに並ぼうか?!という場面を演出。それとは対照的にディアドラが後退。代わってマジックワンドが4番手に上がる。ラスト1ハロンでもガイヤース、ジャパン、エネイブル、マジックワンドという順列に変わりはなかったが、150メートルを切ったあたりでエネイブルがジャパンをかわして2番手に。しかし、その後も先頭との差はなかなかつまらない。結果、2分4秒48の時計でガイヤースが優勝。エネイブルは2と4分の1馬身遅れ、2着でゴール。3着はジャパンで4着がマジックワンド。ディアドラは勝ち馬から5と4分の1馬身離された5着に終わった。
完敗といえる結果にも電話越しに聞こえるマーフィーの弁は決して落ち込んでいる感じではなかった。
「敗因と言っても、勝ったのがガイヤースで2着がエネイブルでしょう。ジャパンやマジックワンドだってトップクラスの馬だし、負けたからといって悲観すべき相手ではありませんよ。ディアドラは見た目にも力強くなっていたし、レース後も問題はなかった。使われた次はもっと良くなるでしょう。僕はハッピーだよ」
管理する橋田満によると『今年の大目標は凱旋門賞で、その前にもう1走くらい挟むだろう』との事。コロナ禍で日本馬の海外遠征がままならない中、昨年からイギリスに滞在し続けているディアドラが、ハッピーエンドへ向けて走り続ける事を期待したい。
(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)