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人気ラノベ「だれゆう」を知ってる? まさかの続編どうなる 作者は40歳超でデビュー

河村鳴紘サブカル専門ライター
1年で10万部超の人気ライトノベル「誰が勇者を殺したか」

 作品数100万を超える小説投稿サイト「小説家になろう」などネット発の小説が変わらず人気です。主人公が大活躍する作品がそろう一方、似た内容ばかりという意見も……。そんな中で昨年発表された「誰が勇者を殺したか(だれゆう)」がネットで話題になり、角川スニーカー文庫で紙の書籍が発売されると、1年足らずで10刷10万部を突破しました。そして「1巻完結もの」と思いきや、まさかの続編が8月1日に登場します。業界関係者や小説好きをうならせ、さらなるブレークが期待される「だれゆう」について紹介します。

◇「勇者の死」の真相が明らかに

 「だれゆう」は、「勇者の死」についての謎が次第に明らかになっていくミステリー仕立てのライトノベルです。勇者が魔王を倒したものの帰らぬ人となり、それから4年後、勇者の偉業をたたえる文献編纂の事業が始まります。しかし、かつての仲間たちは「勇者の死」について言葉をにごすのです。

 勇者と結婚予定?だった王女から始まり、続いて街の人々、仲間だった騎士、僧侶、賢者と、それぞれの視点で、「勇者の死」の謎に切り込んでいきます。視点が頻繁に切り替わる群集劇という特性上、読むのは少し大変な面もあるのですが、先が気になりどんどんページをめくるでしょう。

 勇者は、作中でも触れられていますが、高い能力も、チート的なスキルも、特別な知識も持っているわけではなく、流行の作品たちとは一線を画します。ではなぜ勇者になれたのか?については、ぜひ小説を読んで確かめてほしいところ。映画ファンなどは「その手があったのか!」などと思うかもしれません。

◇小説本来の魅力 原点回帰

 「なろう」の人気について、さまざまなメディアの記事で分析されています。読者にストレスをかけない、誰にも分かりやすい爽快な成功の物語が支持を得た……というのは、その通りでしょう。

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 現実の未来は不安だらけの中、せめて物語(空想)の中では、スカッとしたい。主人公(自分)が活躍し、「正義は勝ち、悪は滅ぶ」筋立ては、程度の違いはあるにせよ、時代を問わない定番でもあります。特に消費者が創作するコンテンツ「UGC(User Generated Content)」にその傾向が色濃く、より極端に出るのは、推察のできる話です。

 ただし、似た作品ばかりでは飽きられるのもまた事実。どこかで、新しい作品が待ち望まれていたのも確かで、そんな中で登場したのが「だれゆう」だったのではないでしょうか。若者に受けるゲーム世界(RPG)を舞台にするのは「なろう」的でありつつも、先の見えない楽しさなどはクラシックな小説の手法であり、むしろ原点回帰と言えるのではないでしょうか。

 KADOKAWAによると、ライトノベルのジャンルで2023年の売上第1位で、2024年には書店の週間文庫ランキングで一般文庫を抑えてトップになることも。知名度が浸透しつつあります。

 「だれゆう」は、外観こそ「勇者の死の真相は?」という、ミステリーの立て付けになっていますが、読み終えた後の読後感が良く、お薦めしやすい作品でもあります。何より「一冊の本」で美しく“完結”する点も好感が持たれたのもあるでしょう。

 中堅出版社のラノベ編集者は「発表時からハイレベルで、多くの編集者が書籍化をオファーしたはず。『最強』『チート』『悪役令嬢』など流行のジャンルが出尽くした感がある中で、こうした骨太の物語が評価を集め、書籍でも売れたことは理想的。ネット投稿小説文化の、すそ野の広さを象徴している」と話しています。

◇まさかの続編に期待と当惑

 「だれゆう」は、「一冊」であまりにもきれいに終わっていたがゆえに、続編「預言の章」(8月1日発売)について驚いた人も少なくないようです。要するに「話がつながるのか?」という素朴な疑問であり、それは小説好きだけでなく、関係者も同様でした。期待と当惑があるのは、それだけ1作目の出来が良かった証でもあります。

 「預言の章」の主役は、「金の亡者」のうわさがある、腕利きの冒険者です。何せ死人からモノを持ち去る描写も……。しかし、その発言は屁理屈のようであり、物事の本質を突いているようであり、何かを隠しているようにも感じます。特に社会の厳しさを知る読者ほど、魅了されてしまうかもしれません。8月1日以降の読者の反応に注目したいところです。

8月1日に発売されるライトノベル「誰が勇者を殺したか 預言の章」。文庫のため748円と買いやすい価格にしています。
8月1日に発売されるライトノベル「誰が勇者を殺したか 預言の章」。文庫のため748円と買いやすい価格にしています。

◇作者は40代半ば 遅咲きデビュー

 なお1巻の「あとがき」で明かしている通り、作者の駄犬(だけん)さんは44歳で「小説家になろう」に投稿。2作目の「だれゆう」が話題になり、遅咲きの作家デビューとなりました。それだけでも面白いのですが、「あとがき」には続きがあり「私は単なる小説家になりたかったわけではありません。凄い小説家になりたかったのです」「本屋大賞が欲しい」とも言っています。

 大言壮語のように思えますが、読後であればそうは思わないはずです。「あとがき」に、この文章をつづるセンス、着想に「すごみ」を感じ、可能性を感じさせるのです。前述のラノベ編集者も「あとがきの『本屋大賞が欲しい』は、決して妄言とは言えない。そのくらい筆力がある」と、プロの目線でも評価していました。いずれにしても40代半ばでの小説家デビューで、成功の道を歩みつつあるのです。(羨望も含めて)元気づけられる人もいるのではないでしょうか。

 課題を挙げれば、このクオリティーを保ったまま、3巻、4巻と定期的なペースで出していけるのか……です。同時にKADOKAWAグループの手腕も問われるでしょう。小説の部数積み上げはもちろん、今後のメディアミックス展開、海外展開も含めてどうなるのか。注視したいと思います。

(C)駄犬/KADOKAWA スニーカー文庫刊 イラスト:toi8

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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