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防護ネット拡張を推進し始めたMLBの潮流をNPBはどう捉えるべきなのか?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
さらなる防護ネット拡張が決まったパイレーツの本拠地球場『PNC Park』(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【パイレーツが球場内の防護ネット拡張を表明】

 パイレーツは27日、フランク・コネリー球団社長名義で声明を発表し、今後本拠地球場『PNC Park』内の防護ネットを拡大していく方針を明らかにした。

 声明によれば、パイレーツは2017年に防護ネットをバックネット付近からベンチまで拡張していたが、再びグラウンドから観客席に飛んで来たボールでファンがケガをする事件が起こってしまったため、さらにネットを拡張することを決めたということだ。

 現時点ではどこまでネットを広げ、いつ拡張工事を始めるかなどの具体的な内容は決まっていないが、とりあえず拡張する姿勢をしっかり表明したかったようだ。

 防護ネット拡張といえば、ホワイトソックスもつい先日、この夏までに本拠地球場『Guaranteed Rate Field』の防護ネットを日本の球場並みに両翼ポールまで拡張することを発表している。

【防護ネット拡張は選手が後押し】

 こうした防護ネット拡張は、ここ数年MLBの潮流になっている。元々は、ここ数年観客席に飛び込んだボールで負傷するファンが顕著になってきたことを勘案し、パイレーツなどが率先して2017年に防護ネット拡張を推進。その後MLB全体で取り組み、2018年に全チームが防護ネット拡張を実施してきた。

 しかし今シーズンも各地の球場で、ファンが負傷する事件が後を絶たなかった。真っ先に拡張を決めたホワイトソックスでも6月10日の試合で、打球を頭部に直撃させた女性ファンが病院に搬送される事件が起こっていた。

 こうした悲惨な事故を少しでも減らせるよう、選手たちは次々に防護ネット拡張を訴えており、すっかりMLB内で主流な考えになっている。今後もホワイトソックス、パイレーツに追随するチームは増えていくことになるだろう。

【原因はMLBで急速に進むパワー化】

 MLBでは長い間、球場の防護ネットといえばバックネットだけだった。もちろん当時から観客席にボールやバットが飛び込むアクシデントは度々起こっていたが、現在のように大きな問題になることはなかった。何とかファンが対応できるレベルにあったからだ。

 ところが昨今のMLBにはパワー化の波が押し寄せ、投手の球速、打者の打球速度は急速に増したことで、もうファンが対応できるレベルを超え始めている。さらに打球速度が上がった分衝撃も大きくなるため、打球を避けきれなかったファンの負傷が重症化するリスクも増している。

 こんな状況の中では、まかり間違えばファンが死に至るという、最悪のケースも想定しなければならなくなる。これでは選手も、グラウンドでプレーに集中できるはずもない。

【かつて防護ネットは日米格差の象徴だった】

 かつて防護ネットは、MLBとNPBの違いを表す象徴的な存在だった。

 球場内を防護ネットに囲まれたNPBとは違い、バックネット以外防護ネットがないMLBの球場では選手とファンの間に垣根が存在しないため、日本以上のファンサービスが提供されているといわれてきた。

 そうした考えが徐々に日本国内に広がっていき、防護ネットはネガティブなイメージがつきまとうようになり、日本の球場でも防護ネットが縮小されたり、防護ネットの内側に特設観戦エリアを設置するようになっていった。

 だがMLBの選手たちは裏腹に、当時から日本の球場の防護ネットに肯定的だった。日米野球などで来日した選手たちに防護ネットについて尋ねても、皆が「こっちの方が安全でいい」と口を揃え、ネットなどお構いなしにファンのサインに応じていた。

【MLBの潮流にNPBはどう対応していくのか】

 果たしてNPBは、こうしたMLBの潮流をどう捉えているのだろうか。あくまで個人的な意見ではあるが、日米ファンの気質の違いもあり、やはり日本ではMLB以上に防護ネットが必要だと考えている。

 少し前に防護ネットを縮小した球場で、一般観客席からNPBの公式戦を観戦する機会があった。その際数人のファンがネットのないエリアの最前席で、試合そっちのけで身を乗り出して選手の撮影に没頭してしたのを目撃し、すごくハラハラさせられた経験をしている。

 日本ではこうしたカメラ持参で撮影に熱心なファンが、MLBとは比較にならないほど大量に存在しているように思う。そうしたファンを保護するには、やはり防護ネットしかないだろう。

 もちろん日本では現在も、特設エリアを使用するファンのためにヘルメットを用意し、観客席にファウルボールが飛び込むと笛を鳴らし注意を促すなど、様々な対策が講じられている。だがNPBでも、MLBほどではなくともパワー化は着実に進んでいる。注意してもし過ぎることはないはずだ。

 MLBのように問題化する前に、現状を見直す必要はないのだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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