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アトピー性皮膚炎と心血管リスクの関連性 - 最新の研究結果とは

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:イメージマート)

アトピー性皮膚炎を持つ子供と心血管疾患の関係

アトピー性皮膚炎は、世界中で5人に1人の子供が罹患する最も一般的な慢性炎症性皮膚疾患です。最近の研究で、アトピー性皮膚炎は全身性の疾患であり、成人では心血管リスクの上昇と関連していることが明らかになりました。では、子供の場合はどうでしょうか?

この記事では、小児期のアトピー性皮膚炎と心血管リスク因子および心血管疾患との関連性について、最新の研究結果を解説します。

【アトピー性皮膚炎と心血管リスクの関連性】

今回のメタアナリシス(複数の研究結果を統合して解析する手法)では、10の研究から得られた577,148人分のデータを分析しました。

その結果、アトピー性皮膚炎と虚血性心疾患(心臓に血液を送る冠動脈が狭くなったり詰まったりする病気)には関連性が見られました(オッズ比1.68、95%信頼区間1.29-2.19)。一方、高血圧や脳卒中とアトピー性皮膚炎の関連性は認められませんでした。

糖尿病に関しては、交絡因子(疾患に影響を与える可能性のある他の要因)を調整していない研究を含めた解析では関連性が示唆されましたが、交絡因子を調整した研究のみの解析では関連性は認められませんでした。

脂質異常症(コレステロールや中性脂肪などの血中脂質が異常な状態)については、アトピー性皮膚炎との関連性が示唆されましたが、研究間のばらつきが大きく、一貫した結果は得られませんでした。

全体として、現時点ではアトピー性皮膚炎が小児の心血管リスクを臨床的に意味のあるレベルで上昇させるというエビデンスは乏しいと言えます。ただし、アトピー性皮膚炎の重症度や肥満などの交絡因子を考慮した質の高い研究がまだ不足しており、より確実な結論を出すためには更なる研究の蓄積が必要でしょう。

【アトピー性皮膚炎の重症度と心血管リスクの関係】

成人では、中等症から重症のアトピー性皮膚炎が心血管リスクの上昇と関連することが知られています。今回のレビューに含まれた研究のうち、アトピー性皮膚炎の重症度について報告していたのは5つのみでした。

限られたデータからは、重症のアトピー性皮膚炎の子供で脂質異常症や高血圧のリスクが高い可能性が示唆されました。ただし、重症度の定義や評価された心血管リスク因子が研究ごとに異なるため、結果を統合して解析することはできませんでした。

アトピー性皮膚炎の重症度と小児の心血管リスクの関係をより明確にするためには、大規模で質の高い前向き研究(将来の疾患リスクを追跡する研究デザイン)が必要と考えられます。

【肥満などの交絡因子の影響】

心血管疾患の危険因子として知られる肥満は、アトピー性皮膚炎とも関連があることが報告されています。実際、今回のレビューに含まれた研究の中にも、アトピー性皮膚炎の子供で肥満の割合が高いことを示すものがありました。

しかし、肥満などの交絡因子について適切に調整していた研究は限られており、アトピー性皮膚炎が心血管リスクに与える影響を正確に評価することが難しい状況です。

今後は、肥満をはじめとする交絡因子を考慮に入れた質の高い研究を蓄積し、アトピー性皮膚炎が小児の心血管リスクに与える影響をより正確に評価していく必要があります。また、アトピー性皮膚炎の子供に対しては、肥満の予防と健康的なライフスタイルの促進が重要と言えるでしょう。

参考文献:

Kern C, et al. J Invest Dermatol. 2024;144(5):1038-1047. doi:10.1016/j.jid.2023.09.285

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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