医療逼迫を避けるために発熱外来・コロナ病床を増やすことは可能か? 現場からみた課題
医療逼迫を抑えるために、より多くの医療機関で新型コロナが診療できるよう対策がすすめられています。ハードウェア面で、「発熱外来を増やす」「コロナ病床を増やす」という対策があります。現場からみた課題について書きたいと思います。
発熱外来拡充のハードル
同時流行するというシナリオの場合、1日あたりの新型コロナ・インフルエンザの感染者数は約75万人と想定されており(図1)(1)、第7波を超える医療逼迫が想定されています。そのため、現行の発熱外来体制では不十分ということで、さらなる拡充が求められています。
私が住んでいる大阪府の場合、発熱外来を設置する医療機関の割合は全体の7割、クリニックの3割です。眼科や皮膚科など機能的に発熱外来を開けない医療機関もあるので、拡充を要請しても現実的に難しい部分はあります。
さて、発熱外来の拡充のボトルネックになっているのが「ゾーニング」と「個人防護具(PPE)」です。この議論は避けて通れません。
「ゾーニング」というのは、新型コロナの患者さんとそれ以外の患者さんを分離することです。また、感染者の診療をする場合、「個人防護具(PPE)」を着用します。現在多くの医療機関で用いられている、マスク・アイガード・ガウン・手袋の組み合わせを「フルPPE」と呼んでいます。
厚労省の通達では、「フルPPEまではやらなくていいんじゃないか」という見解が示されています(2-4)。
個人的にも、眼・口・手の対策がしっかりされておれば、少しずつ緩和していく形でよいと思いますが、日本の医療現場はこういう「段階的緩和」が苦手です。
「コロナ病床」は増やせるのか?
これまで、入院を要する新型コロナの患者さんはコロナ病棟に転室・転院することが多かったのですが、医療逼迫を経験し、一般病棟内でエリアを区切って隔離している医療機関も増えています。
厚労省の通達では、「病室単位でのゾーニングに緩和してもよいかもしれない」という見解も示されています(2-4)。つまり、新型コロナの専用病床ではなく、非コロナの患者さんが入院している病棟の一角であっても、病室ごとに新型コロナを診ていくという案です。複数の患者さんがいる場合、病棟内で集めて管理します(図2)。
しかし、夜勤帯は看護師が少ないです。新型コロナの患者さんのオムツ交換→非コロナ患者さんのトイレ付き添い→新型コロナの患者さんの血糖測定・・・などのように、行ったり来たりという事態もありえます。
緩和の代償として、病棟内で感染が広がるリスクが高くなってしまうかもしれません。
この緩和の後押しをするかのように、11月8日、医療機関に病床確保や医療提供を義務付ける感染症法の改正案が可決されました。
通常診療を並行させつつ病床確保が義務化される方向に舵を切っているわけですが、医療従事者のバーンアウトが加速しないことを祈るばかりです。
まとめ
医療逼迫を回避するため、国民へのワクチン接種や感染対策の呼びかけだけでなく、ハードウェアの側面で発熱外来やコロナ病床の拡充がすすめられています。
理論的には理解できるものですが、もう少し現場レベルまで落とし込んで議論していただきたいと感じています。
(参考)
(1) 新型コロナウイルスと季節性インフルエンザの同時流行に備えた対応. 資料1(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001002374.pdf)
(2) 効果的かつ負担の少ない医療現場における感染対策について(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/000953531.pdf)
(3) 効果的かつ負担の少ない医療現場における感染対策の徹底について(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/000973981.pdf)
(4) 「感染拡大抑制の取り組み」と「柔軟かつ効率的な保健医療体制への移行」についての提言(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000972889.pdf)