感染者数急増の中で行われた天皇杯【ラウンド16】東京V(J2)vs磐田(J1)
■コロナ明けの東京Vと連敗に苦しむ磐田
7月20日、天皇杯 JFA 第102回全日本サッカー選手権大会(以下、天皇杯)ラウンド16の東京ヴェルディvsジュビロ磐田が、東京・味の素スタジアムで行われた。実は他の7試合は、前週の13日に各地で開催されており、この試合だけが1週間遅れの開催。理由は、コロナ感染による延期である。
東京Vは11日、公式サイトにて、7日から11日までの間に《トップチームの関係者合計7名が陽性判定を受けた》ことを発表。3日間のトップチームの活動を停止することとなったため、13日の天皇杯ラウンド16は翌週に延期、16日のリーグ戦(ホームでの徳島ヴォルティス戦)も中止となってしまった。余談ながら、天皇杯でのコロナによる延期は、昨年6月5日の1回戦(tonan前橋vs順天堂大学)以来である。
おりしも20日は、国内で新たに15万人以上の感染者が確認され、1日当たりの人数としては過去最多を更新。30府県で最多記録となった。東京Vも細心の注意を払っていただろうが、それを上回る勢いで第7波が国内を席巻している。ゆえに、当該クラブを責める気持ちにはなれない。結果として、同日に国立競技場で開催されるパリ・サンジェルマンvs川崎フロンターレとバッティングしてしまっても、である。
その川崎に、天皇杯3回戦で勝利している東京V。2試合つづけてのJ1クラブ撃破といきたいところだが、彼らにとってラウンド16は「鬼門」であり続けた。東京Vが最後にここを突破し、ベスト8に進出したのは、優勝した2004年大会以来のこと。決勝の相手は、奇しくもこの日対戦する磐田であった。
その磐田は、現在J1で最下位。リーグ戦では4連敗中で、しかもノーゴールという状況が続いている。おそらく「今は天皇杯どころではない」というのが本音だろう。実際、3日前のFC東京戦からは、スタメン全員を入れ替え、ベンチにはトップの出場経験がないユースの選手が3人。スクランブル体制ながら、何とかJ1クラブの面目を保ちたいという、切実な思いが見て取れる。
■東京Vが先制するも磐田が土壇場で追いつく!
J2対J1の顔合わせではあるが、この試合に関してはカテゴリーの違いはあまり重要ではなかった。コロナの影響で実戦から10日間も遠ざかっている東京V、そしてリーグ戦重視でメンバーを総入れ替えした磐田。試合は多くの時間帯で磐田がコントロールするも、なかなか決定機を決めきれずにスコアレスの状態が続いた。
均衡を破るきっかけとなったのは、80分に東京Vが獲得したPKのチャンス。これを新井瑞希がゴール右を突き刺し、83分に東京Vが待望の先制ゴールを挙げる。新井は86分にお役御免。代わって入ったのは、34歳のMF奈良輪雄太だった。果たして東京Vは、川崎戦のように逃げ切ることができるだろうか?
残念ながら、そうはならなかった。後半アディショナルタイム、磐田は上原力也のインターセプトから左に展開して、松本昌也がクロスを供給。伊藤槙人が頭で折り返し、最後はジャーメイン良がダイビングヘッドでネットを揺らした。磐田が土壇場で追いつき、試合は延長戦に突入する。
こうなると、トレーニング不足の東京Vは分が悪い。磐田優勢で試合が進む中、延長後半の114分、東京VにCKのチャンス。宮本優のキックは、いったん相手にクリアされるも、これをペナルティーエリア外で拾った奈良輪が、ワントラップから右足を思い切り振り抜く。以下、試合後の当人のコメント。
「セカンドボール拾うために、あの場所にいました。周りは『パスしろ!』と思っていたでしょうが、蹴った瞬間に入る気がしましたね。残りのサッカー人生、そんなに長くないと考えているので、自分はいつも『これが最後かも』と思いながらピッチに入ります。そういうテンションが、あのゴールを呼び込んだのかもしれないですね」
奈良輪の右足から放たれた弾道は、一直線にゴールに吸い込まれ、これが東京Vの決勝点となった。再び同点に追いつくべく、磐田も死にものぐるいで相手ゴールに殺到するが、そのままタイムアップ。東京Vが、実に18年ぶりとなるベスト8進出を果たした。
■ついにベスト8が出揃う! 準々決勝は9月7日
「われわれのコロナの事情で、試合が延期されたことにつきまして、大会関係者、対戦相手のジュビロ磐田、サポーター、メディアの皆さんにお詫び申し上げます」
勝利した東京Vの城福浩監督の会見は、まず謝罪の言葉から始まった。先に言及したように、当該クラブを責める気持ちにはなれないが、それでも指揮官の配慮あるコメントは響くものが感じられた。そして、こう続ける。
「われわれも厳しい状況でしたが(試合ができる)感謝の気持ちを持ちながら、選手たちは魂を見せてくれました。全体練習は3日しかできなかったので、120分を戦うのは難しかったです。そんな中、奈良輪は何度もスプリントして、二度追い三度追いをしてくれました。そうした献身的なプレーが、あのゴールに結びついたんだと思います」
かくして、天皇杯のベスト8が出揃うこととなった。準々決勝が開催されるのは9月7日。カードと試合会場は以下のとおりである。
今大会は2回戦で、都道府県代表はすべて敗退。以後はJ1・J2クラブのみの戦いとなったが、ベスト8のうちJ2クラブが2チーム残っている。一方、優勝経験がないのは3チーム(福岡、甲府、広島【註】)。とりわけ、過去5大会の決勝で涙を飲んでいる、広島には個人的に注目している。いずれにせよ今後の大会運営が、つつがなく行われることを心から願う次第だ。
【註】天皇杯のパンフレットでは広島の優勝を「3回」としているが、いずれも前身の東洋工業時代の記録。
<この稿、了。写真はすべて筆者撮影>