神戸の食卓からくぎ煮が消える?それに「待った!」をかけた老舗のお店が、新商品を作った理由【神戸市】
神戸のソウルフード「いかなごのくぎ煮」がなかなか手に入らなくなった今、新たなチャレンジでその味をなんとか死守しようという動きがあります。
「樽屋五兵衛」は創業83年の、老舗の海産物店です。いかなごの釘煮とは50年もの歴史を共にしてきたのだとか。
「5〜6年ほど前から、小さな魚を獲ってはいけないという決まりができて、小さないかなごが取れなくなった」と話してくれたのは、社長の高田誠司さん。
いかなごのくぎ煮発祥の地は色々といわれがありますが、昭和30年代頃から漁師のまかない飯として大きめのいかなご(5〜6センチ程のもの)が食べられていたことから始まっているそう。
いかなごのくぎ煮ってもっと小さくない?と思いますよね、当時では大ぶりなものを醤油、砂糖、生姜などで煮たものが保存食として存在し、それが世に出たのだとか。
お年寄りからは懐かしいと言われる、大きめサイズのいかなご。どんなものか気になりますよね。実はここではその「大きないかなご」も手に入れることができます。
「これは、伝統的なものとしてやっています。大きいのは魚の味わいがしっかりとしていて、また違った風味。まぁ食べてみて」と特別に出して頂いたのですが、ホント味わいが別物でした。もう残りわずかというお話でしたよ。
「いかなごが取れるのは3月だけ。梅の季節から始まり桜の季節で終わる。どうや、カッコいいやろ」と高田さん。確かに、そう言われると粋な魚ですね。
だけどももう、来年は禁漁になってもおかしくないくらいの状況まできているそうで、高田さんはこの伝統を何とかして守らなければという想いがあり、あることを思いつきました。
「しらすでやってみたらどうやろう?ってね。チリメンジャコの魚やね、大きくなったらイリコになるやつ。それで、同じ調味料で炊いてみたら美味しかった。もちろん生しらすでね」
そういえばしらす漁の船を、明石海峡近辺に見かけることがあります。しらすはシーズンも長く、「夜明けのしらす」などブランド化されたものもあって、もってこいの素材かも知れません。
垂水漁港で水揚げされた生しらすを使って作る「生しらすのくぎ煮」、これはもう出るべくして出てきた期待の新商品ですね。
くぎ煮は生のしらすで作るのが断然美味しく、味が違うのだとか。「神戸のくぎ煮文化、お母ちゃんたちが鍋持って並んで、魚を手に入れてウチに帰って煮る。昔は家から匂いがしなかったら変なぐらい、どこででも家庭で煮炊きしてたんよ」
「樽屋五兵衛」の釘煮は神戸で2番目に美味しいのだと高田さん。1番目は「もちろんお母ちゃんたちの味。我々はそれを守るお手伝いをする事業者ですわ」と笑います。
「皆、いかなご炊いたらウチに持ってくるねん。これ食べてみて!どう?とかね。各家庭自慢の味をね、味ききしてみてって持ってくる。ホンマに良い文化、面白いよね」なるほど、おばちゃんたちがニコニコしながらくぎ煮を持ってくる姿が目に浮かびます。
そんな、鍋を持って並んだり近所にあげてまわったりするような姿を含めて「神戸の、無くしたくない文化」だと高田さんは言います。
そのためにもくぎ煮文化は死守しなければ。いかなごが以前のように勢いを取り戻すまで、神戸の新しい名物として「生しらすのくぎ煮」を定着させて間を繋ぎたいという想いがあるようです。
「神戸は、海。海の名産物が欲しいよね。だから神戸からの便りって、名前をつけているんよ。元々ここは兵庫の津と言って、江戸時代には2万人が住んでいた凄い場所。入江もあり、海産物はとにかく名物やからね」
「樽屋五兵衛」の店の前は西国街道。44もの寺や神社がギュッと集まる歴史深い場所です。そんな趣ある土地から文化を発信し続けたいと願う高田さん。
「これからの神戸の、新名物の始まりやね。しらすは紫陽花が咲き始めたら獲れだすから、神戸の市花やし良いよね」なるほど、紫陽花しらすのくぎ煮ですか。新しいイメージですね、とても素敵。
味見させて頂いたのですが、驚きました。いかなごとしらすの違いがほとんど分からないくらいです。というかほぼ同じ、これなら引き続きくぎ煮の味を楽しめそうですよ。
この6月から商品化されたという「生しらすのくぎ煮」ですが、「樽屋五兵衛」店頭を始め、大丸直営店(神戸店、須磨店、芦屋店)、ひょうごふるさと館や、淡路サービスエリアなどでも置き始めているそうです。気になるそのお味を、ぜひ一度試してみては。
「樽屋五兵衛」本店HP (外部リンク)
住所:兵庫県神戸市兵庫区本町2丁目1番23号
電話番号:078-652-1620
営業時間:10:00~17:00
休日:日・祝