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オーバーシュートの反動相場

久保田博幸金融アナリスト

欧州の国債利回りがここにきて反転し始めた。ドイツの10年債利回りは、昨年1月初めの1.9%台から右肩下がりとなり、今年の4月16日には0.1%を割り込み、17日に0.049%まで低下した。これがいまのところ過去最低利回りとなっている。ドイツでは9年債利回りまで一時マイナスとなっていた。20日にベルギーが実施した5年債入札で利回りがマイナスとなったが、ユーロ圏ではフィンランド、ドイツ、オーストリア、オランダ、フランスに次いで6か国目となった(4月22日の牛熊コラム「欧州の金利低下の背景と今後」より)。

今年の1月20日に日本の10年債利回りは0.195%をつけ、新発5年債の利回りがマイナスをつけたところで、日本の長期金利はボトムアウトした。欧州ではさらにオーバーシュートしていたが、10年債利回り、つまり長期金利がゼロに接近したところでボトムアウトした格好となった。

日足チャートでみると原油先物と外為市場のユーロの動きが似通った動きをしており、こちらもボトムを形成している。原油先物は2月末、3月半ばでダブルボトムを形成して上昇してきており、WTIは60ドル台を回復した。日銀シナリオの70ドル台も視野に入りつつある。ユーロは対ドルでみると、3月半ばと4月半ばあたりでダブルボトムを形成して上昇基調となっている。

この動きをみると、2012年11月のアベノミクスの登場の際の円売り・日本株買いのほどの大きなアンワインドではないとしても、ヘッジファンドなどを主体としたアンワインドの動きがかなり入っていたものと予想される。

ビル・グロース氏は4月21日に10年物ドイツ国債は「空前絶後のショート」とコメントし、これが当たった格好になった。ただし、ドイツ国債を中心とした欧州のバブル相場は弾けるまでどこがピークとなるのかは予想しづらい。ドイツの国債買い、外為市場でのユーロ売り、原油先物売りなどを組み合わせた、かなりの順張りのポジションが積み上がっていたであろうことも確かであろう。一部のヘッジファンドは4月に大きな損失を発生させていたことも明らかになっていた。

5月の大型連休中もドイツなどの欧州の国債は下落を続け、4月16日に0.1%を割っていたドイツの10年債利回りは7日に一時0.8%近くまで上昇した。ドイツの長期金利は日本の長期金利を下回っていたが、あっさりと逆転した格好となっている(5月7日の日本の10年債利回りは0.4%台)。

ドイツの10年債利回りのチャートからは、トレンドが大きく変わってきたことが伺える。2014年1月以降はほとんど調整らしい調整がなかっただけに、ここにきてやっと本格的な調整が入ったとみられる。チャート上からは2.0%あたりからゼロ近辺に低下していたことで、次の節目は1.0%近辺となろう。

今回の調整はアベノミクス相場と同様のアンワインドの動きであるため、たとえばギリシャへの懸念が強まり、ギリシャ国債が大きく下落しても、今回はリスク回避のドイツ国債買いのような動きはなかった。むしろドイツもギリシャ、イタリアもみな国債は下落するような地合となっていた。買いでオーバーシュートが発生していた以上は、売りもある程度オーバーシュートせざるを得ない。

このようなタイミングで、FRBのイエレン議長が、米株式市場に関して、一般的に言うととても割高との認識を示し、長期金利は非常に低い、利上げを始めた場合に長期金利が急激に上がる可能性に注意を払う必要がある、と指摘したのは、相場の攪乱要因となってしまった。6日に米10年債利回りは2.2%台まで上昇し、30年債利回りは3%台に一時乗せていた。

欧米の国債下落により、7日の日本の10年債利回りは0.4%台に乗せ、債券先物は2月16日につけた今年の安値146円69銭を割り込んできている。居所が大きく変わったことで、いったん押し目買いも入っているが、レンジ相場の下限が崩れてくる可能性もあり、一段安となる懸念もある。日本の金利低下の背景に欧州の金利低下による海外勢の買いがかなり影響していたことも確かであり、ここからの動きには一層の注意が必要となる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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