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尾崎 豊 デビュー40周年を迎え、再び集まる注目。20~30代を夢中にさせるその音楽の魅力

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ(全て)

デビュー40周年、死後31年

尾崎 豊が1983年12月1日にシングル「15の夜」、アルバム『十七歳の地図』でレコードデビューし40周年を迎え、それを記念したアイテムが発売され、尾崎豊とその音楽に再び注目が集まっている。

『ALL TIME BEST』(デビュー40周年スペシャルスリーブ仕様/11月30日発売)
『ALL TIME BEST』(デビュー40周年スペシャルスリーブ仕様/11月30日発売)

まず11月30日に『ALL TIME BEST』(デビュー40周年スペシャルスリーブ仕様※2013年に発売されたベストアルバムと収録内容は同じ)が発売。12月1日にはデビューアルバム『十七歳の地図』がアナログレコードで復刻、さらにライヴ映像『もうひとつのリアリティ LIVE+DOCUMENTARY』がBlu-ray化&配信リリース(Amazon Prime Videoでは国内のダウンロードおよびレンタル配信、iTunesでは一部地域を除く全世界でダウンロード配信リリース)され、いずれも好調だ。

9645日生き、6枚のオリジナルアルバムと71曲を残し、92年に26歳で早逝。文字通り伝説となる

9645日生き、6枚のオリジナルアルバムと71曲を残し、1992年26歳で早逝し文字通り伝説となった尾崎。これまで尾崎と、その音楽についての評伝や評論は数えきれないほどの人が語り、文字にして残してきた。だから今さらここで何を書こうが新しい事実を伝えられるわけでもなく、意味があるのかと、こうして書きながらも考えてしまうが、でもやっぱり書きたい、語りたくなるアーティストなのだ。そう思わせてくれる圧倒的な光量の光を放ったのが尾崎だ。死後何年経とうが、その光の残像はまだまだ眩しいくらいだ。

その“圧倒的な普遍性”が尾崎豊の音楽の強さ

ここでいう“光”は、“圧倒的な普遍性”という言葉に置き換えられるのかもしれない。尾崎は生前よく「人が本当に評価されるのは、その人が死んでから」と語っていたそうだが、亡くなって30年以上経ってもなお、こんなにも愛され続けている音楽を、こんなにもたくさん残している、本当の意味でスーパースターが尾崎豊だ。デビューアルバム『十七歳の地図』を聴き、湧き立つ感情を抑えきれず、心を震わせた当時10代だったリスナーは、50代半ばに差し掛かった頃だろうか。しかし今、尾崎をリアルタイムでは知らない、20〜30代のリスナーがその音楽に夢中になっている。2022年3月~2023年3月にかけて、全国7都市で開催された30周忌展示会「OZAKI30 LAST STAGE 尾崎 豊展」は8万人以上を動員。今も幅広い世代から大きく支持されていることを証明する数字だ。

カラオケで歌い続けられている名曲「I LOVE YOU」

2023年1月19日に放送された『今歌いたい!昭和の名曲ランキングTOP50』(テレビ朝日系)では、全国のカラオケボックスで歌われた「昭和発売の歌謡曲・ポップス」の最新ランキングが発表され、尾崎の「I LOVE YOU」が見事1位に輝いた。さらに先日通信カラオケ大手のDAMが発表した、昭和・平成・令和で最も多く歌われた曲のランキング<30年間 カラオケランキング 楽曲別TOP10>でも同曲が8位にランクインしている。

10月29日に放送された『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)でも尾崎が特集され、息子の尾崎裕哉や、音楽プロデューサー・本間昭光、石崎ひゅーい、アイナ・ジ・エンドがゲスト出演し、その音楽の魅力を語り、SNS上でも話題になった。親世代の影響で尾崎の音楽に触れた人も多いと思うが、今はYouTubeでも簡単に観聴きできる。そのライヴ映像などから当時の熱狂や言葉一つひとつが強い力を持って伝わってくる。それを感じとった若いリスナーが夢中になっている。

当時、若者の気持ちをストレートな言葉で代弁し、モヤモヤした気持ちを引き受けてくれたのが尾崎。大人にも響いたその言葉とメロディ

Blu-ray『もうひとつのリアリティ LIVE+DOCUMENTARY』(12月1日発売)
Blu-ray『もうひとつのリアリティ LIVE+DOCUMENTARY』(12月1日発売)

時代は変わっても、親や学校、教師、その先にある社会への反発は変わらない。多感な時代は正体不明のモヤモヤした気持ちによって、目にするもの耳にするもの全てに反発したくなる。管理されたり、押さえつけられたりすることにとにかく歯向かいたくなる。そんな若者の気持ちをストレートな言葉で代弁し、モヤモヤした気持ちを引き受けてくれたのが尾崎だった。大人になっても理不尽なことだらけで孤独感を感じる時間が多いはずだ。代表曲「卒業」は、校舎の窓ガラスを割るという歌詞がクローズアップされ、体制への反発を歌った曲と思われがちだが、どこまで内省的で抒情的で、集団生活の中で感じる孤独感は、学生時代だけではなく一生続くものだというメッセージを送っている。どの時代のサラリーマンにもこの曲は刺さった。

そして迷い、悩み、戸惑い、いつしか自身のアイデンティティを探す心の旅に出た時に、尾崎は「僕が僕であるために」という曲で優しく包み込んでくれ、背中をポンと押してくれる。この曲は尾崎のトリビュート・アルバム『"BLUE" A TRIBUTE TO YUTAKA OZAKI』(2004年)でMr.Childrenもカバーしている。尾崎は歌うことで社会に問いを投げかけ、恐れずに言うべきことを言うその姿勢が、カリスマと言われる所以だ。

輝きを失わない1stアルバム『十七歳の地図』

『十七歳の地図』(アナログレコード/12月1日発売)
『十七歳の地図』(アナログレコード/12月1日発売)

それにしても、「I LOVE YOU」「15の夜」「十七歳の地図」「OH MY LITTLE GIRL」そして「僕が僕であるために」が収録されている『十七歳の地図』というアルバムの“強さ”には、今更ながら驚かされる。その音楽家としての根底に存在する「人生」と「愛」という、答えがあるようでない深遠なテーマと向き合う第一歩となるアルバムは、尾崎の18年という人生が全て詰まっている。強いわけだし、強い光を放っているわけだ。脚色することなく、まさに吐露されているような言葉達がそのまま、ある意味生き生きと綴られた作品達。どこまでも優しく、痛々しく、全力で生きている証でもある。

“声”そのものに生き様を感じる

そんな言葉をメロディと共に歌い、リスナーの心のど真ん中を撃ち抜く大きな力になっているのはその声だ。人の心を動かす歌唱力、というと簡単に聞こえてしまうかもしれないが、尾崎の声そのものに生き様を感じることができる。時に清々しく、希望を感じさせてくれたり、優しさ、憂いや陰も感じる。そして荒々しく、まるで絶望を連れてくるかのような声。物語性を感じる声というか、浸透圧の高い声。尾崎の歌はとにかく言葉が溢れているが、ひと言ひと言がしっかり伝わってくる。

人にメッセージを“伝えるため”に生まれきた稀代のシンガー・ソングライターの言葉とメロディ、そして唯一無二の声と類まれな表現力。確かなものなど何もないと感じさせられる現代社会の中で、尾崎の歌だけは“確かなもの”として、世代を超え、多くの人の心で輝きを放っている。

尾崎 豊オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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