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「恥」でも「クレイジー」でも、タイガー・ウッズが田舎の小大会で勝利を目指す意義

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
今季、10試合で予選落ち5回。絶不調のウッズだが……(写真/平岡純)

【小さな可能性】

米ツアーのレギュラーシーズン最終戦、ウインダム選手権で、初日に「64」、2日目に「65」をマークしたタイガー・ウッズが通算11アンダーで首位タイへ浮上した。

ゴルフ界に王者として君臨し続けてきたウッズは、今大会のような、いわゆる「平場」のレギュラー大会には、あまり出場しないことが彼の流儀だった。

しかし、度重なる故障やスイング改造に端を発するアプローチ・イップス、そして絶不調に陥り、世界ランキングは286位、米ツアーのフェデックスカップランキングは187位まで後退している。

そんな苦しい状況下、ウッズは先週の全米プロで予選落ちを喫すると同時にウインダム選手権出場を正式に決めた。

マネージャーのマーク・スタンイバーグ氏によれば、ウッズはスイングに好感触を感じ始めており、掴み始めた何かを試合で試しながら前進したがっているそうだ。

だからこそ、今週のウインダム選手権に出場しているのだが、現在のウッズのランキングのままでは、来週から始まる米ツアーのプレーオフ4試合には進めない。もっと試合に出て、さらなる前進をするためには、今大会で優勝し、フェデックスカップランキングを187位から125位以内へ一気に上げる以外に道はない。

それは、今季10試合に出場して予選通過がその半分の5試合しかなく、決勝進出が叶っても最高位は17位どまりのウッズにとっては、小さな可能性だ。だが、彼はその可能性に挑み、優勝を目指し、必死に戦っている。

【勝てば、通算80勝目】

「まだ、ハーフウエイ(中間地点)にすぎない。まだ、36ホールが終わっただけ。まだまだ先は長い」

そう言いながらも、やっぱりウッズは、うれしそうだった。

残りの36ホールで、ウッズはリーダーボードの最上段に留まり続けることができるだろうか。

若年化が著しい昨今の米ツアーにおいて、39歳のウッズは「僕はもう年だから」なんて言葉を日頃から何度も口にしている。そんなウッズに、若者たちに混じって土日も首位を維持し続けるエネルギーやパワーが残っているのかどうか。

肉体の衰えのみならず、優勝争いの戦い方や勝ち方といった戦士としての「勘」や「感覚」も、かつてのような冴えがあるとは到底思えない。36ホールを終えて首位に立ったのは2013年8月のブリヂストン招待以来。トップ10以内の位置から決勝ラウンドに進むのは2013年のプレーオフ第1戦、バークレーズ以来のことだ。

百戦錬磨のウッズとて、久しぶりのことには、戸惑いもするし、緊張もするだろう。だが、百戦錬磨だからこそ、そうなったときの対処法の引き出しは多いはず。

現在、ウッズは米ツアー通算79勝。今大会で優勝すれば、歴代2位に変わりはないが、通算80勝目の大台に乗る節目の勝利となる。

【勝っても、勝てなくても】

だが、たとえ優勝できずとも、すでにウッズがもたらしている意義は大きい。

ウッズが出場を発表した直後から、大会開催地のノース・カロライナ州グリーンズボロ周辺の人々は喜びと興奮に包まれている。

そう言えば、幼少時代に米ツアーの大会を観戦に行き、ウッズやスター選手たちを興奮しながら眺めたというジョーダン・スピースが、先日、こんなことを言っていた。

「人々にとっては、自分たちの地元で開催されるレギュラー大会が自分たちにとってのメジャー大会みたいなものだ」

ウッズは、ゴルフが盛んなノース・カロライナの田舎街の“メジャー大会”に最高の興奮をもたらした。そして、本当のメジャー大会終了直後でスピースやジェイソン・デイといった現在のトッププレーヤーたちが「お休み」しているオフウィークを大いに盛り上げつつある。

そして何より、小さな可能性に賭け、最後まで諦めず、ネバーギブアップの精神を世界に披露しつつある。

かつての王者が、黄金期には「これは出ない」と言って「お休み」していた田舎街の小さな大会。だが、今はその大会に奇跡のような勝利を目指して出場しているところに最大の意義がある。

古き日本流に言えば、「落ち武者が恥をしのんで……」というところ。米国流でも似たような見方になるらしく、全米プロからの移動の途上で出くわした米国の全国紙のゴルフ記者いわく、「タイガーがウインダムに出るって聞いてる?優勝するしかないのに。できるわけないのに。まったく、クレイジー!」。

その「恥」や「クレイジー」に、あのウッズが挑んでいるからこそ、人々に夢と希望と勇気をもたらす。

だからこそ、ウッズが勝っても勝てなくても、人々は「ゴー、タイガー!」と叫び、自分を重ね、ウッズのように自分も人生の小さな可能性を信じたいと思うのだ。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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