「スポーツ PR アワード2024」。SNSにより変わりつつあるスポーツの広報・PR活動
現在、日本には主要なプロリーグだけでも、プロ野球(12チーム)、Jリーグ(60クラブ)、Bリーグ(55クラブ)、また野球の独立リーグは「日本独立リーグ野球機構」に加盟している「四国アイランドリーグplus」などの5リーグだけでも17チームが所属している。
これにプロ・アマが混在するラグビー「リーグワン」(26チーム)、バレーボール「SVリーグ」(24チーム)、卓球「Tリーグ」(12チーム)や、アメリカンフットボール、ハンドボール、ソフトボール、格闘技など、さらに競技団体やリーグ、学生スポーツなどを含めると、それこそ数え切れないほどのスポーツ団体が活動を行っている。
それらのスポーツ団体の悩みは共通する部分が多く、特に問題となるのは「競技を続けていくためにどうやってお金や人を集めるか」だろう。そのためにも、入場料収入やスポンサー獲得、放映権やグッズ販売、競技者の増加、さらには地域や職場に愛され、どう貢献していくのか。そのカギ、もしくは出発点となるのが、広報・PRといった情報発信と言えるだろう。
◆スポーツ PR アワードの意義
12月17日、スポーツナビは「スポーツ PR アワード2024」を開催した。これはスポーツ団体の広報・PR・情報発信に焦点を当て表彰するもので、今回が第6回目となる。
これはもともと、スポーツナビがスポーツ界の発展と交流を目的として、Jリーグ、Bリーグの協力の元で開催した「スポーツ PR カンファレンス」が始まりで、異なる競技の広報・PR担当者が集まり、それぞれの経験や知識を情報交換する場として、2018年から始まった。
その一環としてアワードは2019年から行われているが、この企画を発案したスポーツナビの担当者は、Jリーグのクラブで広報経験があり、「最初のクラブでは先輩についていくだけだったが、2番目のクラブで広報は自分だけになった。いろいろなアドバイスが欲しかったが、面識のない他のクラブの担当者と連絡を取るのも難しく、ましてや他のスポーツの人に話を聞くのは無理だった」と話す。
その経験からスポーツの広報・PR担当者が交流できる場として、カンファレンスを開催。さらにアワードも行うようになった。これについては「各スポーツ団体の具体的な取り組みを、もっと知りたいという声が参加者からあがったんです。あと、広報・PR担当者はほとんど褒めてもらえる機会もないですしね」と笑った。
今回のアワードは、2024年にスポーツ団体が実施したPR(広報、マーケティング含む)施策を募集し、優秀な施策を讃えるとともに、応募があった数多くの事例を競技・団体の垣根を超えて共有することが目的だ。
◆広報・PRという枠を超えて
今年は優秀賞として「三重ホンダヒート」「川崎フロンターレ」「全日本空手道連盟」「千葉ジェッツふなばし」「徳島インディゴソックス」と5つのチーム・団体が選出された。
最優秀賞に選ばれたのは、ラグビーのリーグワン、三重ホンダヒートの『社会で輝く「人」を育てる!本気のHEAT授業』で、本田技研工業の新入社員研修で実施するラグビーを活用した「チームワーク・主体性」を学ぶ内容を小学校教育向けに展開したもので、6833名が受けたという。
審査員の川淵三郎氏は「子どもたちの成長を支えると同時に、スポーツの意義を広める重要な役割を果たした」とコメントしているが、子どもたちだけでなく、先生やさらには参加した選手の行動変容にも効果が見られたという。
1票差で最優秀賞を逃した川崎フロンターレは、全社横断プロジェクトで実施した、平日のナイター集客施策。全日本空手道連盟は、それまで別々に行われていた少年少女大会、パラ大会、体重別選手権を同期間・同会場で開催することで、観客数の増加や設営コストの圧縮を達成。さらには障害者スポーツへの理解を深めた。
また、最近ではSNSの重要性が高まると同時に、動画などのコンテンツ制作に伴う広報の業務量の増加や、選手のスケジュール調整が大きな課題となっている。それに対し、千葉ジェッツふなばしは公式YouTubeチャンネルの運営を、グループ会社のMIXIと連携して実施。過密な試合スケジュールの中で、エンゲージメント強化と新規ファン獲得を目指した動画を投稿した。
一方、予算やマンパワーが潤沢でない独立リーグの徳島インディゴソックスは、リモートのインターンを活用することでこの問題を解決。全国で25人ほどの大学生インターンが、SNS更新や動画制作、ファンクラブやグッズ企画を担当し、球団運営に参加した。長期休暇を利用してインターン生が徳島に訪問したほか、スポーツ業界への即戦力人材も輩出する成功例となった。
ちなみに今回の受賞者は、チケット担当や運営担当、地域担当などで広報・PRを直接担当している人はいない。既存のTVや新聞などの媒体を通じての広報・PR以上に、SNSなどの自分たちで発信できるデジタルの媒体が存在感を増していることを感じさせた。と同時に、三重ホンダヒートや川崎フロンターレのように、リアルな人と人のつながりで生まれるものには、改めてパワーがあることも実感した。
スポーツは他の分野に比べて、動画や写真など視覚にインパクトのあるコンテンツを作成しやすく、一方でリアルな場面でファンや地域に影響を与える可能性を秘めている。そういった強みに加え、デジタルの環境が大きく進化していく中、スポーツの広報・PRは大きく変化する時期に差し掛かっているのかもしれない。