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「パッキャオに挑むのは無謀、怪我はするなよ」五味隆典の言葉に対し鈴木千裕は─。『超RIZIN.3』

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
『超RIZIN.3』でマニー・パッキャオと闘う鈴木千裕(写真:RIZIN FF)

「これでパッキャオとやるのか」

「千裕、判定ダメだよ、KOじゃなきゃ! まあボクシングなら負けない。楽だったかな今日は(笑)。この歳までリングに上がれることを感謝します。千裕、頑張れよ次。パッキャオはこんなもんじゃないからな。チャレンジは素晴らしいけど、とにかく怪我だけはするな。危なかったらタックルに入れ(笑)」

試合後のリング上で五味隆典は上機嫌だった。

それはそうだろう。すでに第一線を退き45歳になったにもかかわらず、20歳年下で現役バリバリの”二刀流王者(総合格闘技/RIZINフェザー級&キックボクシングKNOCK OUT-BLACKスーパーライト級王者)”と互角の攻防を繰り広げたのだから。

6月23日、東京・国立代々木競技場第二体育館『KNOCK OUT CARNIVAL 2024 SUPER BOUT “BLAZE”』のメインエベント、”ほぼボクシングルール”で行われた鈴木千裕(クロスポイント吉祥寺)vs.五味隆典(東林間ラスカルジム)はドローに終わっている。

大振りパンチを振り回し合ったが、ともに相手にクリーンヒットさせることはできなかった。技術戦とは程遠い大味な試合─。

戦前の予想では、鈴木が五味をKOすると見る向きが多かったがそうはならなかった。鈴木が果敢に攻め込むことができなかったのである。逆に言えば五味が、それを許さなかった。鈴木には悔しさが残り、五味にとっては「してやったり」の結果だったと言えよう。

闘い終えてインタビュースペースに姿を現した五味に対し、メデイアの質問は一つのことに集中した。7月28日、さいたまスーパーアリーナ『超RIZIN.3』マニー・パッキャオ(フィリピン)vs.鈴木千裕のボクシングマッチについてである。

試合後、インタビュースペースでメディアからの質問に答える五味隆典。「千裕のパンチはパッキャオには当たらない。怪我だけはしないで欲しい」と話した(写真:SLAM JAM)
試合後、インタビュースペースでメディアからの質問に答える五味隆典。「千裕のパンチはパッキャオには当たらない。怪我だけはしないで欲しい」と話した(写真:SLAM JAM)

五味は言った。

「どうにもならない。パッキャオは、そういう次元じゃない。あのパンチじゃパッキャオには当たらない。逆にかすったようなパンチでももらったら顎を折られる。今日は、まだボクシング入門って感じだったから。これでパッキャオとやるのか…千裕、怪我だけはするなよ」

さらに「パッキャオ戦は1対1の闘いじゃない。今日の試合で五味さんから得たものも胸に秘めて1対2の気持ちで闘う」と鈴木が話していたと記者から聞かされると、こう続けた。

「二人で挑む、いいんじゃない。1ラウンドは千裕、2ラウンド目に俺が行って、3ラウンドはまた千裕。ピンチになったらタッチして代わるとかね(笑)。(パッキャオは)それくらいの相手なんだよ」

プロボクシング6階級制覇王者”アジアの英雄”マニー・パッキャオ(右)。2019年1月、米国ラスベガスで行われたWBA世界ウェルター級タイトルマッチ、エイドリアン・ブローナー戦のワンシーン。
プロボクシング6階級制覇王者”アジアの英雄”マニー・パッキャオ(右)。2019年1月、米国ラスベガスで行われたWBA世界ウェルター級タイトルマッチ、エイドリアン・ブローナー戦のワンシーン。写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

ボクシングはMMAとは違う

その後に行われた大会総括で、鈴木が所属するクロスポイント吉祥寺会長でありKNOCK OUT代表の山口元気氏は次のように話した。

「(パッキャオに勝つのは)無理じゃないですか。この話を聞かされた時、僕自身は乗り気じゃなかった。拳も傷めているし、今後のことも考えてやめた方がいいんじゃないかと。これは保護者としての意見です。

でも千裕が覚悟の上で『やりたい!』と言うなら遮ることはできない。パッキャオ先生は強過ぎるが、それを覚悟して全力で応援するしかない」

五味、山口代表だけではなく、多くの選手、ファン、関係者も同様の想いをSNSで発信している。

マニー・パッキャオvs.鈴木千裕が発表された時、私は「面白い」と思った。これまでに幾度も「番狂わせ」を起してきた”ファンタジスタ”鈴木千裕なら「もしかして」の期待が抱けると。

だが五味戦を観て「これは難しい」と感じた。それが正直な感想だ。

鈴木の良さは、倒されることを恐れずに前に出る勇気と思い切りの良さだ。それが五味戦では、まったく見られなかった。

おそらく、これはパッキャオ戦でも変わらないだろう。

思い切りよく攻めることは、自由な闘いであるMMAではできても、手技に限定されたボクシングでは難しいのである。MMAで闘えば、鈴木はパッキャオに圧勝できる。だが、ボクシングルールで彼に挑むのは無謀と言わざるを得ない。

「パッキャオ戦に向けて、これからゼロからつくり直す。期待して欲しい」と試合後に話した鈴木千裕(写真:SLAM JAM)
「パッキャオ戦に向けて、これからゼロからつくり直す。期待して欲しい」と試合後に話した鈴木千裕(写真:SLAM JAM)

だが、鈴木は言う。

「皆が『9.9割勝てない』と思っていることは分かっている。それでいい。(五味戦で結果を残せなかったから)仕方ない。だが、課題は見えた。自分のダメなところもよく分かった。練習して欠点を埋めて、覚悟を決めて勝負する。あと1カ月、ゼロからつくり直して時代を変えられるパワーをつけてくる。アスリートである以上は、常に前に突き進まないといけないんです。(『超RIZIN.3』では)生まれ変わった鈴木千裕を見せるので期待してください!」

鈴木は我々の想像を超えた”ファンタジスタ”なのか?

強靭なメンタルをもって「パッキャオ超え」を果たせるのか?

真夏の格闘技の祭典『超RIZIN.3』のリングを凝視したい─。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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