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金総書記が視察したウラン核施設は「寧辺」なのか、「カンソン」なのか?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
ウラン濃縮施設で遠心分離機の説明を受けている金正恩総書記(朝鮮中央通信から)

 韓国では北朝鮮の7度目の核実験が11月4日の米大統領戦前後にあるのではと噂されているが、今朝の韓国大手紙「東亜日報」は金正恩(キム・ジョンウン)総書記が9月に視察したウラン核施設は平壌近郊の「カンソン」地下施設であるとの記事を載せていた。

 「金正恩が公開した核施設は平壌近郊の『カンソン』」との見出しの記事によると、韓国政府がそうした判断を下したようだ。

 北朝鮮の国営通信「朝鮮中央通信」は9月13日に金総書記が核施設を訪れ、濃縮ウラン製造に不可欠な遠心分離機を見て回っているところを写真付きで公開したが、施設がある場所については明らかにしなかった。

 

 「カンソン」はシンガポールでの初の米朝首脳会談(6月12日)直後の2018年6月30日、米紙「ワシントンポスト」が「米情報当局はカンソンの秘密ウラン濃縮施設について把握しており、ここで濃縮される核兵器クラスのウランは寧辺(ヨンビョン)における生産量の2倍に達する」と報じ、続いて7月13日に米外交専門メディア「ディプロマット」がDIA(国防情報局)に「カンソン」とのコードネームで呼ばれている秘密のウラン濃縮施設の場所は「平壌外郭の平安南道南浦市の千里馬区域にある」と特定したことで明らかとなり、米朝間の最大懸案として浮上した。

 米国が2019年2月のハノイでの2度目の首脳会談でウラン地下核施設の存在を認め、廃棄しない限り北朝鮮との取引には応じないとの強い姿勢を示したため米朝会談は成果なく終わったが、言わば、このウラン核施設の存在こそが歴史的な米朝首脳会談決裂の最大の原因である。

 「東亜日報」は韓国政府の分析として北朝鮮が今回、「カンソン」の施設を初公開したのは「米大統領選挙を前に米国が高い関心を払っている核施設を公開することで交渉力を高めることを意図している」とみなし、また「施設の内部を全面的に公開したのはもう大丈夫との自信の表れと見られなくもない」と書いていた。

 同紙によると、「カンソン」の施設は平壌の南東側外郭に位置していた。ということは、平壌外郭の平安南道の千里馬区域にある「降仙(カンソン)」のことのようだ。平壌と南浦を結ぶ高速道路から1km離れたところで、故・金日成(キム・イルソン)主席の生家がある平壌の万景台区域から5kmしか離れていない。

 千里馬区域には旧名で降仙製鋼所と呼ばれていた千里馬連合企業があるが、疑惑の核施設はどうやらこの中にあるようだ。

 千里馬区域内の建物はいずれも2000年代前半に建設が始まっていることから降仙の秘密核施設は平安北道の寧辺(ヨンビョン)にある施設よりも早い段階で稼働していたものと推測される。

 米国の核専門家ジェフリー・ルイス氏は北朝鮮が公開したウラン濃縮施設の写真について、平壌近郊の「カンソン」で撮影された可能性が高いとの見方を示していた。写真と「カンソン」にある核関連施設の建設途中の衛星画像を比較し、「建物の構造を分析した結果だ」とされている。

 ルイス氏は写真で判明した内部の柱や壁、はりの配置が衛星画像と一致しており、寧辺のウラン濃縮施設とはこうした内装が異なっており、遠心分離機も寧辺のものより小型化され、改良された可能性があるとみている。

 ▲寧辺ウラン核施設

 北朝鮮は2010年3月に朝鮮中央通信が「2010年代には自らの核燃料で軽水炉が稼動できる」と伝え、早くも8か月後の11月には寧辺の施設を視察した核専門家のヘッカー米スタンフォード大教授(元ロスアラモス国立研究所長)らに遠心分離機を見せていた。

 軽水炉の原料はウラン235が3~5%交じった低濃縮ウランが使用される。軽水炉の原料製造のためにはウラン濃縮技術は不可欠で、天然ウランや数パーセント程度の濃縮ウランならば核兵器には使用できない。しかし、濃度を2~3%度高める技術を取得できれば、ウラン濃度90%以上の核兵器用の高濃縮ウランの生産は可能となる。

 ヘッカー教授は帰国後、「寧辺の核施設で数百基の遠心分離機を目撃した」として「どうやら2000台の遠心分離機が構築されているようだ」と報告していた。この時、北朝鮮もまた、ヘッカー報告に合わせるかのように党機関紙「労働新聞」を通じて軽水炉の建設が行われており、その燃料を保証するため「数千基の遠心分離機を備えた近代的なウラン濃縮工場が稼動している」ことを明かしていた。

 2千個の遠心分離機を1年間にフル稼働させれば、核爆弾1個分の25~30kgの高濃縮ウランを製造することができる

 軽水炉はその後、2013年春には完成したことが米ジョンズ・ホプキンス大の北朝鮮専門ウェブサイト「38ノース」によって確認されている。「38ノース」はこの年の5月1日、寧辺に建設中の実験用軽水炉を上空から撮影した衛星写真を公表していた。寧辺のウラン施設はこの時からすでに10年以上が経過している。

 前出の東亜日報によると、寧辺と「カンソン」の2カ所だけで200~240kgの高濃縮ウランが製造され、年間約10発の核弾頭を北朝鮮は保有すると、韓国の軍当局筋はみている。

 ▲第3の施設?

 前出の「東亜日報」によると、韓国政府は寧辺や「カンソン」の他にも第3の秘密施設があると疑っているようだ。その根拠は、北朝鮮が「カンソン」の施設を公開したのは、すでに知られており、隠す必要がないからであり、同時に他の場所にもあるからとの単純な理由のようだ。

 この第3の場所については米国のシンクタンクである戦略国際問題研究所(CSIS)は2016年7月21日、衛星画像を分析した結果、「寧辺から約45km離れた場所に未公開の旧ウラン濃縮施設がある」との調査結果を発表していた。

 CSISは問題の施設について「平安北道亀城市のパンヒョン飛行場から東南側に位置する将軍台山(チャングンデサン)地下にある無人機生産工場として知られる航空機工場内にある」と推測していた。

 また、米CNNは2020年7月8日、ミドルベリー国際学研究所が衛星写真を分析した結果、「平壌近郊のウォンロ里に核関連施設がある。疑わしいこの施設の周辺で多くの車両の移動が確認された」と報じていた。

 高濃縮ウランで核兵器をつくれば▲プルトニウムより過程が簡単で▲費用と時間も節減できる利点がある。同時にプルトニウム爆弾に比べて▲軽量化が可能である。また、プルトニウム方式よりも▲核兵器の製造と保管が簡単で、加えて精密で複雑な起爆装置を使ってのプルトニウム方式と異なり▲HEU核兵器は単純な装置による爆発が可能である。

 

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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