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リーグワン・宗像サニックス活動休止の背景は。会見詳報。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
写真左から曽我氏、渡邊氏(スクリーンショットは筆者制作)

 ラグビーのリーグワン・ディビジョン3に加盟する宗像サニックスブルースは3月30日、今シーズンの終わる5月限りでの活動休止を発表した。

 かつては日本代表ヘッドコーチのジェイミー・ジョセフが所属。前身のトップリーグでは、現日本代表ナショナルチームディレクターである藤井雄一郎氏の指揮のもと独創的なスタイルをアピールしていた。

 限られた予算で最大限の効果を発揮する向きで知られていたが、昨季からのリーグ再編の流れにあって、昨季限りで強化縮小の方針を打ち出していた。

 この日は曽我拓・同社執行役員企画本部経営企画部長、渡邊敏行・同社スポーツ・文化振興事業部長兼ラグビー部長がオンラインで会見した。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

曽我

「当社のラグビー部は、1994年に創部いたしまして28年になりますが、2003年以降は日本ラグビー界のトップカテゴリーに加盟し、企業ブランドの向上、宗像を中心とした地域貢献の役割を果たしてまいりました。

 これらの貢献には価値があると考えており、最大限チームの継続に向けて努力をしてきました。ただ、現下の経営環境を鑑み、これまでと同様の体制で強化を継続していくことは困難であると、苦渋の決断ではありますが、ラグビー部の活動を休止することを決定いたしました。

 今後につきましては、本日以降、選手のキャリアを最優先に考えまして、移籍、再就職への支援は当たり前ではありますけども、他社へのチーム譲渡も可能な限り検討したい。また、当社の地域貢献活動については、スポーツ文化を通じた青少年の育成を様々な形でおこなっています。これらについては継続して取り組ませていただきたいと感じています」

――リーグワン初年度で撤退の背景。当初は同リーグにどれくらい携わるつもりだったのか。

曽我

「リーグワンでは立ち上がったばかりのリーグでご迷惑をおかけして恐縮です。当然、参加にあたりましては上を目指すことを目標としていました。『いつまでしか(チーム活動を)やらないよ』ということはなかったのは、ご理解いただけたらと思います。ただ、そのなかに置かれても、トップリーグの時代から、またリーグワンに移行しても、当社、サニックスという会社は事業規模も低いなかで限られた利益の中でラグビー活動をやらせていただいていました。これまで28年、活動するなか、きついときも、うまくいっているときもある。特に今年度、当社が事業としてやっています、エネルギー周り(の事業)のなかで、エネルギー価が高騰したり、足元ではロシアで戦争という不安定な状況があったりと、見通しが立ちづらいなか、今回、本当に苦渋の決断ですが、(実質)プロのカテゴリーでやっていくのは諦めようという決断にいたりました」

――決定プロセスは。

曽我

「決定については本日午前中に当社の取締役会があり、そのなかで決断しました。その後、本社から場所を移動し、クラブハウスで代表取締役社長の宗政寛より通知内容を通知いたしました」

渡辺

「選手はショックを受けている印象でした。ただ廃部を検討しているという情報は(予め)伝えておりました。とうとう来たか、という感じには受け取れました。ただ、前向きにとらえて、次に向けては準備してくれると思います」

――昨季終盤に強化縮小が報じられた。今回の活動休止とリンクしているのか。

曽我

「昨年、報道等で当社ラグビー部の縮小という内容で報じられたのは、存じております。ただ当社のなかで縮小をしたという風には考えていませんでしたし、部の中でもそう考えていませんでしたし、そう決定したわけではありません。今回の決定はまた違った軸で動いていた話でございます。

 今回、(国内リーグが)リーグワンに変わっていくなかで、リーグのもともとの考え方が変わっていくなか、サニックスがどういうチームであるべきかを考えました。(もともと)トップリーグのなかでも事業規模が小さいなか、特色のあるチーム作りをやらせていただいていました。どれがいい、悪いという話ではございませんが、スター選手を集めて強化するより、原点であるチームに参加する個性を活かし、特徴あるプレーをする、地域に愛されるチーム作りをやろうと、方針を見直したところはあります。それを煮詰めている段階で、『縮小』という報道が出てしまったということでございます。縮小した考えがない状態でやっておりました」

――運営費の差は昨季と比べさほど差はないのか。

曽我

「仰る通りです」

――リーグワンのディビジョンわけが決まったのは2021年夏。その正式決定までに、トップリーグで実績がありながらディビジョン3への参戦が決まった。それは、今度の活動休止とどう関係があるか。

曽我

「まったく、ないというものではございません。当然、我々としては、経営環境が突如として大きく変化したところが(活動休止に至る)大きなきっかけではございます。ただそのなかで、総合的にどんな判断をするかの議論を重ねていまして、現状ではディビジョン3に属していて、チームを持つ以上はディビジョン2、ディビジョン1を狙っていかなければいけない。そのなかでどこまで投資をおこなっていけるかも議論の中心にございました。現状ですでにディビジョン1など上の方にいれば、もう少し違った考え方もあったかもしれません。(ディビジョンと活動休止は)全く無関係ではありません」

――リーグワンでは、ホストゲームの運営を自分たちでおこないます。チケットをはじめとした収益を得る可能性がある分、スタッフの人件費、興行のための初期投資はかかったはずです。

渡辺

「初年度ということで見えないところがありました。チームを走らせながら試合運営をしてきました。いくらという金額は申し上げられませんが、運営費がかかって、収入も昨年よりはチケット収入で増えている状況ではありました」

――赤字額が大きな時でもチームを存続できた時代もある。当時といまとの違いは。

曽我

「仰っていた時期はトップリーグに属しておりまして、年間にかかるコストも一定水準で済んでいました。今回につきましては――同じ赤字を出した環境ではありますが――まず経営環境をして、世界情勢を含め見通しがしにくい環境であるというところと、チームにおいても、今後ディビジョン3より上を目指そうと思えばより投資を増やさなければいけない状況が見込まれました。それらを総合的に判断いたしました」

――「休止」という文言について。

曽我

「休止のお知らせというワードをチョイスさせていただきました。これは終了、廃部など色んな表現があると思いますが、現状のようなトップカテゴリーを想定する活動は考えていません。ただ今後もユース大会の開催、ラグビーブランドを活用したアカデミーなど、ラグビー活動をしたいと思っています。そうした活動のなかで、いつの日か形を変えてラグビーに携わる可能性があれば、というなかで、活動休止という文言を使わせていただきました」

――社会貢献活動を続けると宣言している。グラウンドは維持し、高校生が参加するサニックスワールドユースは継続的に開催するという趣旨か。

曽我

「仰る通りです」

――現在ディビジョン3に参戦中。上位3チームは入替戦に参戦できるが。

渡辺

「順位決定戦までは参戦する。入替戦(の参加)はリーグと協議をしながら、リーグの決定を待つということではあります」

――4月入部の選手は。

渡辺

「現在4名、(2022年度の)新しい選手が入団しております。その際には、今季で終わる可能性があることもお伝えして、それを承諾していただいたなかで入団していただいています」

――選手の移籍について。福岡にルリーロという新チームが立ち上がったばかりだが。

渡辺

「(活動休止の件は)本日チームに伝えたので、決定している移籍はありません」

――チームの譲渡について。

曽我

「今回の決定を下す前から動きを取らせていただいています。現在も継続して探している状況。現時点で具体的な会社様との交渉をしている、めどが立っているという状況ではございません。リーグ関係の皆様のご協力をいただきながら動かさせていただいている。節目としては5月末まで最大限に動いているというところです」

――移籍の斡旋。他部への譲渡。どちらに重きを置くのか。

曽我

「現時点では、選手のキャリア支援が最優先と考えています。そのうえで、継続して譲渡の可能性を探っています。興味を持っている、話を聞かせて欲しいと言ってくださるところなどはいくつかありますし、譲渡は無理だけれど、何かしらサポートはできないかというありがたい言葉をいただくところもあります。いずれにせよ本格的な交渉に至っているところはないということです。選手自身におきましても、現時点で譲渡のめどが立っていない状況だとはっきり伝えたうえで、今日お話をさせていただきました」

渡辺

「先方様の考えもあるので簡単には申し上げられないですが、グラウンドはありますので、貸し出すとか、そこにスポンサーを…という可能性はゼロではありません。先方との話の進め方次第で流れは変わってくると思います」

――チーム譲渡に関するネックは。

曽我

「ネックと表現していいのかはわかりませんが…。スポンサーのような形で多少なりともサポートをしますというありがたい声をいただくことはありますが、チームを主となって抱えるということに関しては、非常に重い判断になります。そこに関しては『よし』と言って下さるところは、いまのところはまずいないという状況です」

――譲渡の受け入れ先に手を挙げた企業が、宗像市以外での活動を希望する場合は。

曽我

「我々は選べる立場ではございません、オープンに検討させていただきます。ただ贅沢な悩みと言いますが、複数の企業様が希望された場合は、宗像でやらせて下さる企業様がベストだと考えています」

――最後に。

渡辺

「お忙しいなか、ありがとうございます。これからというときにこのような活動休止という決定になりまして、ファンの方々、ラグビー関係者の皆さま、リーグ関係者の皆さまに申し訳なく思っております。そして残念に思っています。

 規模縮小という(と報じられる)なかでも、17~18名の新しい選手が入ってきてくれていて、これから楽しみなところがたくさんありました。運営、ファンサービスを独自ででき、ファンの方に喜んでもらうラグビーをしようと思っていました。このような結果になり、本当に残念に思っています。

 残りの試合は少ないですが、選手は必ず全力で戦ってくれると信じています。チームも選手のサポートをしてまいります。残り少ない活動になりますが、ご支援と、応援…応援、ですね、ぜひ、会場に足を運んでいただいて、選手の活躍を見ていただいて(欲しい)。選手、スタッフが恩返しをするつもりで、全力で戦っていきたいと思っています」

 同日、リーグワンの東海林一専務理事も会見。責任企業の決断を受けてチームを失うことへ、「応援していたチーム、地域の顔として活躍してくれていたチームが喪失することに。ファンの方に対しては残念な出来事で、申し訳ないと考えています」と謝罪した。

「いまのラグビーのフォーマットでいうと、(チームが)独立法人となった場合も企業からのご支援は必須。これは不健全なことでも、ファン軽視でもない。企業とタイアップして、企業の社会的価値の創出をチームと協力してやる、新しい姿だと思います」

 ブルースが3部3位以内に入った場合に出られる入替戦の実施の有無については、4月中旬までに理事会で決める。先般から再編されたNTTグループの大阪チームの処遇を含め、討議するという。

「ブルースが3位以内に入り、一方で(譲渡先が見つからずに)退会の方向になった場合、4位が繰り上がることはなく、1、2位のチームのみがディビジョン2との入れ替えに臨むと想定しています」

 チーム存続の条件となる譲渡先探しについても、今後、リーグとしての支援を強化すると話した。

「(サニックス側による譲渡先探しについて)一定の情報は共有いただいています。リーグでも一定の動きをしている。ただサニックスから(今回の)お話をいただいてから本日の決定に至るまでの期間は限定的な長さです。それまで密にタイアップして動けていたかというと、そうは至っていない。(今後は)より積極的に動きます」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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