グーグルの広告ビジネスをざっと見る(1)ー基本構造と検索市場シェア
メッセージングアプリ、ワッツアップをフェイスブックが巨額で買収することになり、大きなニュースとなった。グーグルもワッツアップを買収する交渉をしていたといううわさが出た(グーグル側は否定)。
世界で最も大きいネット広告の市場は米国だが、ここでシェアの奪い合いをしているネット企業といえば、グーグルとフェイスブックが視野に入ってくる。
グーグルはこのところ、人口知能にかかわるネット企業の買収もしており、「検索大手」という呼び方におさまらない存在になっている。
昨年末時点での情報を使って、日経広報研究所が出している「日経広報研究所報」(2014年2-3月号)に、グーグルについて書いた。
以下はそれに若干補足したものである(題名や見出しを少し変えている)。
グーグルなどのネット企業は刻々と変化をとげているので、3月上旬現在、若干古くなってしまった感さえある分析となったが、グーグルとはどんな会社で、これからどこに行こうとしていくのかを考える1つの「まとめ」あるいは「概観」として見てくださると幸いである。
長いので何回かに分けている。また、事実の間違いがあったらご教示願いたい。
米オムニコムと仏ピュブリシスは合併を選択したが
2013年7月、広告市場で売り上げ世界第2位の米オムニコムと3位の仏ピュブリシスは、合併することで合意したと発表した。これが実現するとトップの英WPPをしのぐ世界最大の広告会社が誕生することになるだけに、世界的な注目を集めた。
オムニコム(12年の売上高約142億ドル、米eMarketer社調べ)とピュブリシス(84億ドル、同)を合わせた売上高は226億ドルだが、米大手インターネット検索会社のグーグルはこれをはるかに上回る広告収入を上げている。
同社の年間売上高は500億ドルを超える。12年に買収した通信機器メーカー、モトローラ・モビリティの売り上げ(約41億ドル)を引いても、460億ドルに達し、その95%がグーグルサイトや傘下サイトからの広告収入だ(注:今年1月末、中国のパソコン大手レノボ・グループがモトローラを29億1000万ドルで買収することに合意したと発表した)。
検索市場での独占的な地位や矢継ぎ早の新サービスに目を奪われがちだが、グーグルは堂々たる大手広告企業と言える。
英プライスウォーターハウスクーパースの調査(「Global Entertainment and Media Outlook 2013-2017」)によれば、12年の世界広告市場でデジタル広告のシェアは20%だったが、17年には29%まで拡大する。その成長を支える最大の要因は検索機能である。
グーグルは日々30億を超える検索要求に対応しており、世界中に11億人の利用者を抱える米交流サイト、フェイスブックとデジタル広告市場で激しい競争を展開している。
今のところグーグルが圧倒的に優位な立場にあるが、2億人の利用者を持つ短文投稿サービス、米ツイッターや1億5000万人が使う写真投稿サービス、米インスタグラムが後を追っている。他のテクノロジー企業にも追いつかれないよう、グーグルには常に先を行く戦略が求められる。
オムニコムとピュブリシスの合併は規模の拡大によって広告市場での影響力強化を狙った戦略と言えるが、欧米メディアの報道からは「大きさで勝負するのは古い発想だ」「大きな組織は小回りがきかない」「重視すべきはテクノロジーへの投資だ」といった声が聞こえて来る。多くの人々がインターネットへの依存度を高めており、各利用者の行動を数値で計測できるネット広告の重要性も高まっている。このような現状を踏まえた発言と言えるだろう。
グーグルはどのように広告ビジネスを立ち上げ、インターネットおよび広告業界に影響を与えているのか、今後の展望を含めて考えてみたい(文中敬称略)。
二人の出会いとページランク
まず、グーグルの成り立ちと基本的なビジネス構造を振り返る(あまりにも有名な話だけれども)。
1995年、米スタンフォード大学で博士号取得を目指して勉強していた二人の青年ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンが出会ったのが発端だ。二人はともに22歳だったが、翌年グーグルの前身となる検索エンジン、バックラブを開発する。
98年には非公開会社としてグーグルを創業し、2004年に株式公開した。11年からは創業者の一人ペイジが最高経営責任者が、エリック・シュミットが会長を務めている。シュミットはペイジやブリンより18歳年上で、01年にグーグルのCEOに就任する前は米ソフト開発企業ノベル(Novell)のCEOだった。もう一人の創業者ブリンは現在、特別プロジェクトを担当している。
グーグル検索の中核は「ページランク」と呼ぶアルゴリズムで、常に更新されている。検索要求に最も合致する結果を出すために、該当するウェブサイトと他サイトのリンクに注目、その他ウェブサイトの訪問頻度、検索キーワードの位置、サイトの誕生年なども考慮しているという。
同社サイトなどによると、以下のような過程を経て検索結果が表示される。
グーグルは60兆を超えるウェブサイトを巡回し、サイトのページ同士のリンクに注目する。内容やその他情報を取得し、インデックスを作る。インデックス情報は1億ギガバイトにも上る(13年12月現在)。
利用者が検索キーワードを入力すると、独自のアルゴリズムによって最適な結果が表示されるシステムが働く。検索キーワードに直接関係ないのに意図的に検索結果に表示されるような操作をするウェブページもあるが、これらは自動的にはじかれる仕組みができている。ただ、すべてを機械で取り除くことは不可能なので、同社の技術者が処理する場合もある。
筆者がグーグルサイトで検索結果の表示過程を閲覧し最後の行まで読み終わったとき、閲覧時間内にグーグルに何件の検索要求があったかが表示された。閲覧に要したおよそ6分間に約1500万件の要求があったと知って、検索数の巨大さを改めて実感した。
世界の検索市場とグーグル
インターネット上にはさまざまな情報が飛び交っているが、グーグル創業時、必要な情報を探し出すガイド役となる検索エンジンの重要性を認識していた人はそれほど多くなかったろう。今では誰でも、検索エンジンの重要性を知っている。
グーグルはインターネット検索市場の最大手だ。米コムスコア社の12年調査(米ウェブサイト「サーチエンジン・ランド記事)によると、同年12月時点で、世界の検索市場の65・2%をグーグルが占める。これに続くのは中国の百度(8・2%)、米ヤフー(4・9%)、ロシアのヤンデックス(2・8%)、マイクロソフト(2・5%)で、グーグルの独走状態と言える。
日本国内はどうか。朝日新聞社の調べによると(13年10月13日付)、日本の検索エンジンのシェアは05年ではヤフー!ジャパン(53%)、グーグル(30%)、マイクロソフト(10%)、その他(7%)の順だったが、12年はグーグルが85%(ヤフー経由も含む)と圧倒的な地位を占める。
ヤフー!ジャパンは01年にグーグルと提携し、グーグルの検索技術を採用したが、04年いったんは自社の検索技術に変更。10年に再度、グーグルの検索技術を採用した。(つづく)