「平壌の居住資格は1万米ドル。さらに上がる」北朝鮮の大学新卒たちが直面する絶望
北朝鮮の理系の最高学府と言われる金策(キムチェク)工業大学。卒業生はエリート中のエリートだが、未来が約束されている、というわけでもないようだ。博士院(大学院)卒業生は、首都・平壌で熾烈な「就職活動」を繰り広げている。デイリーNK内部情報筋が伝えた。
朝鮮労働党の金策工業大学委員会は20日、博士院卒業生の今年分の追加配置(就職先の決定)を来月5日までに完了することにした。就職が「配置」と呼ばれるのは、原則として国が求める職場に割り振る形を取るからだ。
名門校を卒業したからと、ただじっと待っていれば、いい就職先が転がり込んでくるというわけではない。
地方出身の卒業生は、昨年末から「事業」、つまり就活に取り組んでいる。金策工業大学の教員、研究者の職を得て平壌に残るために、様々な関係者にワイロを送るのだが、この相場が急騰している。
(参考記事:女子大生40人に鬼畜行為…金正恩「教育はタダ」の嘘と闇)
昨年末には1人あたり5000ドル(約72万円)だったが、平壌に残りたいという人が増えるに連れ、今年に入ってから8000ドル(約116万円)に上がり、さらに今では1万ドル(約145万円)を超えるようになった。平壌の労働者の一般的な月給が5万北朝鮮ウォン(約500円)の241年分に相当し、当然のことながら卒業生にとっては経済的負担があまりにも重すぎる。それでも平壌に残ろうとするのはそれなりの理由がある。
「地方出身の金策工業大学の博士院卒業生にとって、平壌での職場配置は将来を決める重要なことだ」(情報筋)
北朝鮮において平壌に住むということは、単に首都に住むということ以上の意味がある。
平壌には、誰でも彼でも住めるわけではなく、「成分」(身分)がよく、思想的に問題のない人以外は居住を認められない。生活水準は地方とは比べ物にならないほど高い。住んでいるだけで「特権階級」と言っても過言ではないだろう。
その居住資格を巡って、様々なトラブルに発展することもあれば、多額のワイロを積んで密入国ならぬ「密入市」して、密かに居住する者も後を絶たない。ある大学幹部は、こう言い放ったという。
「1万ドルで平壌市民の資格も、仕事も得られるというのに、そのカネすらないのなら地方にでも住めばいい。来年には『事業費用』がさらに上がるだろうから、今年はまだ安い方だ。それごときのカネすらなければ平壌に残ろうなんて夢を捨てろ」(情報筋)
このひどい言い草に、卒業生の間では失望が広がっている。
「大金を使って3年間苦労して勉強したのに、配置においても実力よりカネが優先され、その額も上がり続けているので、失望は大きい」
(参考記事:金正恩「女子大生クラブ」主要メンバー6人を公開処刑)
「万民が平等」をうたっている北朝鮮だが、現実は大きく異なる。病院での診察など普段の生活から、住宅の売買、運転免許の取得、就活など人生の重大事に至るまでありとあらゆることがコネとカネで決まる。いくら秀才であっても、カネがなければ、ただの「賢い貧乏人」なのだ。結局、実家の太さがモノを言うということだ。