Yahoo!ニュース

明治大学、敗退。中村駿太キャプテンの大らかな「厳しさ」【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
写真は去年12月の早稲田大学戦時(写真:アフロスポーツ)

左サイドを極端に刈り上げたショートヘアの中村駿太キャプテンが、紫と白のジャージィを着たまま会見場に入る。目を腫らし、「お疲れ様です。新年、あけましておめでとうございます」と言ってから、明治大学の敗戦談話を重ねてゆく。

2016年1月2日、東京は秩父宮ラグビー場。冬の風物詩であるラグビーの大学選手権準決勝があった。明大は個々のランナーが冴えた前半を19―7とリードしながら、終盤、息切れした。19―28で敗れた。

「結果として、ウチより、東海さんの方が強かったということだと思います」

神奈川の桐蔭学園高校を経て、かつては父もプレーした明治大学の門を叩いた。昭和日本の体育会系の気風は、つい最近まで残っていた。八幡山の寮へ入った初日の思い出を、後の中村は「2年生の先輩に…部屋に…連れていかれました」と笑って述懐する。

明大のよさは。

「大らかさだと思います」

中村は付け加える。

「僕の代では少しでも、厳しさを加えられたんじゃないかと」

チームは多くの高校日本代表経験者を擁する伝統校なのに、最後に優勝したのは1996年度。いまの1年生が生まれた年である。端的に言えば、いい選手がいるのに勝っていなかった。その理由を丹羽雅彦監督は「以前までは、入ってきた選手にメイジのベーシックを植え付けないままだった」と、練習内容の精査に基づく誠実な見解を示していた。

一方、中村は「僕が思うのは、プライドかなと」。語ったのは3年生の頃。若くして、クラブの歴史から自然と生じるひずみを見抜いていた。

「自分のプライドを持ちすぎていて、コーチや周りの選手たちの言うことに素直になれないというか…。後輩にアドバイスされたら『ん?』となったり」

丹羽体制が打ち出した方策のひとつが、極端な上下関係の撤廃にある。「新人が雑用をして先輩が面倒を見る。それは社会に出ても同じ。ただ、理不尽なことはやめようと」。下級生レギュラーがいちプレーヤーとして主力に意見するベースを作り、中村も「勝つために1年生、2年生ともコミュニケーションが取れるようになった。言いたいことを言えるようになった」と笑っていた。

中村はそのうえで、生活の規律を自主的に守る雰囲気を醸成させようとした。「20歳以下は飲んでいません。昔はOKだったと思うんですけど」「タバコは…今年は本当にダメです」などの言葉を散りばめつつ、罰則がなくても寮則を守ろうとする意識を記者団に説明したものだ。

3年間で磨いてきたフィジカルの強化などの「ベーシック」と向き合う態度、サントリーにいた元申騎コーチ就任に伴う肉弾戦への耐性強化などが相まって、今秋の関東大学対抗戦Aでは、大学選手権6連覇中の帝京大学を相手に32―49と打ち合いを演じた。今回の敗戦を受け、対する岩出雅之監督は「期待を込めて決勝はメイジ! …と予想していたのですが」と残念がった。

準決勝の明治大学は、中盤以降、反則を重ねたか。中村は言った。

「ペナルティーマネージメントが…。1人ひとりの『この状況を変えたい』という思いがペナルティーに繋がったんだと思います」

フォワード最前列中央のフッカーを務める。スクラムの舵取りなど専門職を任される働き場にいるのだが、「縁の下の力持ち」の枠をしばし超越してきた。

攻めては相手のタックルの芯から逃れるボディーバランス、守っては相手の援護がうすい接点へのジャッカルを繰り出す。その根っこに、競技理解の深さがある。同級生で主力格(この日は序盤に負傷退場)の田村煕は、「アタックがいいフッカー、みたいに見られがちですけど、そういうことではなく、いつも気が利くところにいる」と証言したことがある。

決勝に進む帝京大学にあっては、坂手淳史が怪我からの復活を目指す。日本代表合宿への参加などで同世代のフッカーにあって最高の評価を得る坂手のことを、中村は意識していた。「1回、取材で坂手を…みたいなことを話したことがあるんですけど、記者の方にさすがにそれは書けないと言われちゃいました」。第三者に「悔しかろう」と言われるのは違和感があるだろうが、やはり、悔しかろう。それでも会見の冒頭で、こんなメッセージを残していた。

「東海大学さんには、決勝戦で頑張っていただきたいと思います」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

すぐ人に話したくなるラグビー余話

税込550円/月初月無料投稿頻度:週1回程度(不定期)

有力選手やコーチのエピソードから、知る人ぞ知るあの人のインタビューまで。「ラグビーが好きでよかった」と思える話を伝えます。仕事や学業に置き換えられる話もある、かもしれません。もちろん、いわゆる「書くべきこと」からも逃げません。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

向風見也の最近の記事