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グーグル、MS、メタ、アマゾン、収益化の見込み不確実もAIに積極投資

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:REX/アフロ)

このほど出そろった米テック大手の2024年4〜6月期決算で、各社がAI(人工知能)分野に積極的に投資をしており、今後も支出を増やす意向であることが分かった。

IT各社は2022年末、新型コロナのパンデミック(世界的大流行)時に増やしすぎた支出を抑制するためにコスト削減策を推進していた。そのときに登場したのが米オープンAIの「Chat(チャット)GPT」だった。

それ以降、AIに新たな可能性を見いだした各社は、一気に緊縮から投資拡大へとかじを切った。

グーグルCEO、忍耐の重要性を強調

米ニューヨーク・タイムズ(NYT)によれば、米アップル、米アマゾン・ドット・コム、米メタ、米マイクロソフト、米グーグルはこの4〜6月期だけで、計590億ドル(約8兆6000億円)の設備投資を行った。

これは前年同期比で63%増、4年前と比較すると2.6倍になる。アップルを除けば、その大部分をデータセンターの建設と、AI構築のための新しいコンピューターシステムの導入に充てた。

テック大手のリーダーらは、ChatGPTのようなサービスの基盤となる生成AI技術を、一世代に一度あるかないかのチャンスと捉えている。グローバル企業の複雑な業務をこなすソフトウエアから新薬の開発に至るまで、あらゆるものを革命的に変えることができると考えている。

各社は決算説明会で投資家に向けて忍耐の重要性を強調した。グーグルのスンダー・ピチャイCEO(最高経営責任者)は「このようなことには時間がかかる。投資不足のリスクは、過剰投資のリスクよりもはるかに大きい」と説明した。

Tech Companies to Keep Spending on A.I. Despite Worries of Slow Payoff
https://www.nytimes.com/2024/08/02/technology/tech-companies-ai-spending.html

グーグルの設備投資91%増

最初に24年4〜6月期の決算を発表したのは、グーグルの持ち株会社である米アルファベットだった。アルファベットの純利益は前年同期から29%増加した。だが、傘下の動画共有サービス「YouTube(ユーチューブ)」は13%の増収と、前四半期の21%増を下回り、市場予想にも届かなかった。

加えて、インフラ支出の大幅な増加も投資家を驚かせた。同社の24年4〜6月期における設備投資額は前年同期比91%増加した。この四半期、同社は1日平均1億4500万ドル(約211億円)を支出していた。

マイクロソフトの設備投資78%増

その翌日に決算を発表したのはマイクロソフトだった。同社はオープンAIへの最大出資者として23年初めから毎四半期、設備投資額を増やしてきた。

その額は24年4〜6月期に139億ドルとなり、大部分がAI関連のものだった。リース資産を含めると総額は190億ドルで、前年の107億ドルから78%増加した。同四半期におけるマイクロソフトの設備投資は、5社の中で一番多かった。

同社でAI事業の中核を担うクラウド基盤「Azure(アジュール)」などの売上高は29%の増加にとどまった。この伸び率は前の四半期の31%を下回り、アナリスト予想の30%に届かなかった。

NYTによると、この業績結果は、同社の投資意欲に拍車をかけることになった。幹部らは、マイクロソフトのAI需要がデータセンターの供給能力を超えており、この問題は年末まで続くとの見方を示した。このことが、これほどまで猛烈にデータセンター建設を進めている理由だという。

マイクロソフトの幹部も投資家に忍耐を求めており、支出は長期にわたって収益をもたらすと強調した。エイミー・フッドCFO(最高財務責任者)によれば、その期間は「15年以上」。

マイクロソフトが公表した数字を詳しく調べると、同社は24年に生成AI製品で50億ドル以上の売上を達成する見込みであることが分かる。しかし、年間売上高が2450億ドルに達する同社にとって、「依然として小さな数字だ」とNYTは指摘している。

メタ、24年の投資370億ドル

マイクロソフトの次に決算発表を行ったメタは、支出予測を引き上げた。マーク・ザッカーバーグCEOは、同社が次世代のAIシステムを計画しており、主要なAIモデルの次の大規模なアップデートには10倍の計算能力が必要になると説明した。

ザッカーバーグ氏は今年初め、「24年は新技術インフラに300億ドル以上を投資する」と述べていた。4月には、これを350億ドルに引き上げ、今回の決算で少なくとも370億ドルに増やし、25年はさらに多くの投資を行う、と説明した。

同氏は「手遅れになるよりは、必要になる前に能力を構築するリスクを負うほうがよい」と述べ、投資家に理解を求めた。

アマゾン、年前半に300億ドル超投資、年後半も増やす

アマゾンのアンディ・ジャシーCEOは今回の決算で、「当社は多くの分野で進展を続けているが、中でもクラウド事業の成長の再加速は特に顕著だ」と自信を示した。

同社は、24年前半で300億ドル以上の設備投資を行った。年後半もさらに支出する予定だ。これらの資金は、土地の購入、データセンターの建設、コンピューターや半導体などの調達に充てる。ブライアン・オルサブスキーCFOはこうした支出をポジティブに解釈している。「私たちはこれらを使い、今後10年以上にわたり収益とフリーキャッシュフローを生み出す」(同)

ただ、NYTによれば、テック大手の幹部らがAI投資を進める一方で、投資家や専門家らはその膨大なコストを回収できるだけの収益をいつ上げられるのかと疑問を呈している。

筆者からの補足コメント:
米金融大手ゴールドマン・サックスのジム・コベロ氏はこれらの動きに関するリポートで、「AIがインターネットや携帯電話と同じような影響を与えるとは考えにくい」と指摘しています。同氏は、「AIが1兆ドル規模のどんな問題を解決するのか?」とも指摘。「低賃金の仕事を非常に高価な技術で置き換えることは、私がこれまでの30年間で目撃してきた技術変革とは根本的に異なる」と述べています。

  • (本コラム記事は「JBpress」2024年8月15日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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