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「雑談+相談」=ザッソウでイノベーションを起こせ!【倉貫義人×倉重公太朗】第2回

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

倉重:さて、いよいよ、先月出されたザッソウという本のテーマになっていきますけれども、ホウレンソウとよく言われる言葉ではなくて、雑談、相談が大事であると、この本に一貫して書かれていますけれども、簡単にザッソウとは何かと、読者の方向けに話していただけますか。

倉貫:先ほど話したとおり、1人では解決できないことがチームで話し合うことで解決できると思っています。では、何を徹底すればいいのかと言ったときに、コミュニケーションを意味する言葉としてホウレンソウという単語がよく用いられます。

 ホウレンソウという言葉ができたのは、1980年代前半ぐらいです。そのころは確かに報告も連絡もうまくやっていない状態で、企業が成長している高度成長時代なので、何をやっても商売がうまくいって会社が大きくなる時期なので、みんな好きにやっていたのです。

 そうすると、多分、社内であいつは何をやっているか分からないというようなことが起きて、そこで、きちんと報告せよ、端からきちんと連絡しようという必要性が出てきて、ホウレンソウという標語ができたのです。きっと1980年代ごろは、会議室に集まって、みんなで順番に報告したり、回覧板のようなもので連絡するというホウレンソウをやっていたと思うのですが、そこから今30年以上たっています。

倉重:そうですね。今、2019年です。

倉貫:ITが普及して、みんなスマホを持って、メールは当然使って、グループウェアがあってという状況の中で、果たして本当に報告、連絡、相談の会議をする意味があるのかという。ホウレンソウのうちの報告と連絡は、過去の話です。相談だけは未来の話をします。過去の話をするときに集まって、順番に話すのは非常にナンセンスだなと思います。

倉重:見ておいてくれればいいという話ですね。

倉貫:連絡だってメールで一斉に出せば、みんなに伝わるものを、わざわざ会議室に集めて、1週間に1回話すなどナンセンスです。

倉重:ちょうど、以前のこの対談でマイクロソフトの澤さんに来ていただいたときにも、全く同じことをおっしゃっていて、ホウレンは過去の話で、しかも、常に状況はアップデートされているわけだから、報告している時点でそれはもう過去の話です。

倉貫:そこはもう効率的にいきましょう。かわりに何を大事にするかというと、相談だなと。相談だけは、ITツールですぐ解決できるかというと、なかなか難しいのです。

倉重:それはもう個人が抱えている悩みということですからね。

倉貫:相談することで仕事が前に進むということなので、その相手がいて、応答し合うことで初めて仕事が前に進みます。

倉重:確かに、明確に悩みは言語化できていない場合もあります。何となくもやもやしているというような。

倉貫:そうなのです。では、メールで相談するかといったら、非常に長い文章になってしまいます。それが書けないから相談したいということがあるので、相手と話し合って、言語化することからやっていくのが相談のいいところなのです。相談と言ってもなかなか難しいです。

倉重:でも、「相談」といっても、いきなりできるのかという疑問もあるのですが。

倉貫:普段から話していない人から「相談があります」と言われたら、少し怖いです。

倉重:もう何か訴えられるか、辞めるときです。

倉貫:そうなのです。「お前、ついにきたか」というような。「お時間ください」と言われたら、「今、言わないの?」となるではないですか。

倉重:それは、大体、いなくなるパターンです。

倉貫:だから、管理職、マネジャーが一番、聞きたくないのが、「お話があります」「相談があります」です。

倉重:深刻な顔してやってくるやつですね。

倉貫:「お前、それは相談ではなくて報告だろう」という。

倉重:確かにそうです。決めているではないかと。

倉貫:結局、相談にハードルがあるからだと思います。

倉重:そこに至る途中のところでガス抜きが全くできていないのですよね。

倉貫:「悩みがあるなら、もっと早めに言ってくれよ」と。「辞めると言うところまできてから持ってこられたら、何もできないではないか」と。

倉重:倉貫さん自身もそのように言われたことはありますか。

倉貫:あります。

倉重:あるのですね。

倉貫:前職の会社で管理職時代にやはり、言われたことがあるので、非常につらいです。

倉重:「何で?」となりますよね。

倉貫:普段から話している人だと、もう少し相談をしやすくなるし、普段から考えを知っていれば、シェアもできます。実は相談というところの前に、土台となるコミュニケーションがあるのでしょうと。土台となるコミュニケーションを報告や連絡、相談ではないとしたら何だろうと考えたら、いろいろあります。朝、あいさつをする、昼飯を一緒に食べるなどいろいろあるのですが、総じて、話すのは結局雑談だと思います。なので、雑談という土台があれば、実は相談のハードルも低くなるし、普段から、雑談し合っていれば、その中で相談し合うこともできるので、ホウレンソウするよりも、やはり、雑談と相談をもっと広めていくほうが、仕事も進みやすいのではないかというのが、ザッソウというキーワードになっています。

倉重:いつでも相談しにこい、いつでも言ってこいと言われても、そんな怖い部長のところになど行きたくないという話です。

倉貫:そうなのです。

倉重:雑談と言ってもいろいろな種類のものがあると思うのですが、4つあると本の中には書かれています。たわいのない雑談から、交渉、合意形成するもの、問題解決する議論、最終的には新しいアイデアがそこから生まれていくというような話がありました。この辺をご説明いただけますか。

倉貫:これも僕は分析マニアなので、雑談や対話というのをもう少し分析すると、どのような感じになるのか。よくある雑談は本当に、「今日は暑いですね」や台風がどうなど、何でもないものです。何でもない話がいらないかというと、実は最初に話し掛けるとき、それこそ全く初対面のときに、いきなり本題に来られるより、「今日、ここの駅から迷ってしまって」という話をされるだけで、取っ掛かりになります。

倉重:無難ですね。

倉貫:そうなのです。言ってみたら、この人と話が通じるという確認です。

倉重:なるほど。コミュニケーションが取れると。

倉貫:同じ言語を話せる人なのだということの確認を、ジャブを打ち合う前段階の他愛のない会話でします。それは結局、何でもない話なので、発散型なのですが、それよりももう少しフォーマルな会話があって、フォーマルな会話も2種類あります。1つはある程度決まったことをお互いすり合わせる会話です。

倉重:認識のすり合わせをする。

倉貫:はい。この提案で持っていきますというような。この提案を通したいというような。こういう決め事があるのだけれども、相手に納得してもらわなければいけないというようなことをするときも、結局それも完全に交渉事で入るよりも、雑談の中で話をしたほうが柔らかく着地ができるわけです。

倉重:「今から交渉しましょう」ではなくて、雑談の中でやるわけですね。

倉貫:「交渉しましょう」だと、勝ち負けがはっきりしてしまいます。

倉重:「そういえば、あの件さ」というような感じで始めるということですね。

倉貫:もう1つは、もう少しフォーマルです。先ほどの交渉や伝えるということは過去の話を伝える話になるのですが、どちらかと言うと未来の問題解決です。例えば会社全体の社員旅行があるのだけれども、どうしましょうかというのも、解決しなければならない問題にアイデアを出し合う必要があります。課題に向けてブレストすることもあるのですが、ブレストしましょうという会議はなかなかうまくいかないではないですか。

倉重:「今からブレストします」「ホワイトボードに書きましょう」と言ってもなかなか出ないですよね。

倉貫:メンバーを会議室に集めて、これからブレストです、アイデアを出してくださいというようなスタイルでは難しい。「アイデアを出してください」と言われて出るなら、それはブレストと言わないです。結局、しょうもない雑談をしている中で、「社員旅行は毎年熱海なので、別のところにしませんか」「この間、あそこ行ってよかった」というような話からアイデアが出るということが、やはり、あります。

倉重:それはもう社員旅行対策会議では駄目だということですね。

倉貫:絶対、つまらないです。

倉重:絶対、いいアイデアが出ないですね。

倉貫:というのが3つ目の段階です。最後は。

倉重:新しいアイデア。

倉貫:新しいアイデアとは何なのかというと、つまり、問題自体が決まっていないということです。

倉重:そもそも。

倉貫:議題がないということです。ノーアジェンダです。ノーアジェンダですが、天気の話ではないということです。クリエイティブでノーアジェンダの話をするというのが最終的にたどり着きたい雑談です。

倉重:「そういえば、今やっているこれに関連して、こういうことも新たにやったらいいと思ったのですが、どうですか」など。「少し思い付きなのですが」など。

倉貫:「今、メンバーの中で彼の調子がいいので、少し別の案件もやってもらったらいいのではないですか」「あいつ、少し元気がなさそうだから、他のやつと組ませようか」などもあるかもしれないです。

倉重:上申書や稟議書などを書いてやるわけではなくて。

倉貫:話しているうちにアイデアが出てくるのです。問題まで出たら、それは先ほどの、次は問題解決のところに持っていけばいいし、決まった後、共有するときにはみんなに何となく共有していくところはやればいいというので。

倉重:よくアイデアや発想というのは散歩中やお風呂で浮かんでくると言うのと同じように、こうやってリラックスして、他愛もない話をしている中で、「そういえば」とひらめいてくるものがあると思います。

倉貫:そうなのです。なので、僕らの会社で言うと、いわゆる経営会議というのは本当にそういう雑談だけなのです。お互い、何となく考えていることやぼんやり思っていることを、そこで話をしていくだけです。「それだったらこうしたらほうがいいかな」「うちの会社は新卒採用をどうしよう」というような、慌てて解決しないといけない議題ではないことを話して、その場で解決しないこともあります。別に解決するための話ではないので、着地しなくてもいいのが雑談ですから、お互い心配していることや考えていることを言い合えるというのを経営会議でやっています。経営会議の議題の位置付けとしては、7つの習慣で言う、緊急か重要かという話でいくと、緊急ではないけれども、重要な話をするという場にしています。

倉重:将来の話だけれども、でも、重要な話ということですね。

倉貫:いつか意味があるかもしれないというような話をするのを、その経営会議でやっています。

倉重:そのほうが自然といいアイデアやいい議題が出てくるという話だと思うのですが、こういう雑談をしているというのは、周りから見ると、「さぼっているのではないか!」と思う「昭和ストロングスタイル」の方々もいらっしゃるのではないかと思いますけれども、そういう方々にザッソウの有効性というか、このような良いことがあるということをぜひ説いていただきたいです。

倉貫:効率化と言ってきたときに、これはもうそれこそ、従来の仕事の種類が変わってきていると僕は思っています。昭和ストロングスタイル。僕は初めて聞きましたけれども。

倉重:今、何となく思い付いただけです(笑)

倉貫:昭和ストロングスタイルマネジャーの皆さんは、どういう仕事の仕方をされてきたのかというと、恐らく、大量生産であるとか、みんな同じ仕事をしましょうと。高度成長の時代は、当然、ベビーブームの後で人がたくさんいて、雇用を創出しなければなりません。雇用を創出してたくさんの人に、たくさんのものを届けるためには、みんな同じ仕事をしましょうということです。A、B、C、D、Eさんがいたら、A、B、C、D、Eさん全員同じ仕事をするようなことをしていったときに、あまりクリエイティビティがいらないです。

倉重:より効率よく、より大量にです。

倉貫:より大量に、よりたくさん作りましょうとなったときに、管理の仕方としては、一律に管理してよかった。そうすると、雑談しないで手を動かせというような。手を動かせば成果が出るという時代があったのです。そのときはストロングスタイルでもよかったのですが、今の仕事は、例えば、部下が3人いたときに、Aさん、Bさん、Cさんで同じ仕事をしている職種はあまりないのではないかなと思います。

 デザインでも、企画でも、ライティングでもいいですが、もちろん、プログラミングもそうだし、コンサルティングもそうですが、A、B、Cさんがいて、同じデザインをしている人がいたら、奇跡ではないですか。ライティングの仕事をされている方も、昨日と今日と明日で同じライティングという行為はしているけれども、中身は同じわけがない。昨日と今日と明日で同じ仕事をしていたら、とち狂っているではないですか。

倉重:同じものを作るという仕事自体がもう質が変わってきているということですね。

倉貫:そうです。同じものをたくさん作るという仕事がなくなってきています。再現性がすごく低くなってきていると思います。

倉重:1人1人の仕事内容が違う。

倉貫:1人の仕事も違うし、昨日、今日、明日でも違います。僕は再現性の低い仕事というのをクリエイティブな仕事と定義しているのですが、クリエイティブな仕事というのは手だけを動かしても成果は上がりません。ライティングするといったときにキーボードを打つ速さが非常に速ければいいのかというと、そういうことではありません。

倉重:ひたすら、キーボードを速く叩いているふりするだけする人もいますから。

倉貫:どう面白い企画を考えるか、どう読みやすい記事の構成を考えるのかという頭でやる仕事のほうが圧倒的に成果につながるのであって、大事なのは手ではないのです。

倉重:パーンとエンターキーを押すのがいいことだと思っている人がいます。

倉貫:力強くストロングでリターンを押せば成果が上がると思っていたら、大間違いです。そうなったときに、自分1人で解決できない問題も増えてきています。僕らの会社もそうですが、当然クリエイティブな仕事というのは、属人性が高くなります。その人でないとできない仕事が増えてきます。なので、その人にお任せするしかないのですが、その人1人で全部解決できるかというと、やはり、今時の仕事はそんなに簡単ではないです。そうなったらどうするかというと、やはり相談するしかないのではないか。相談していくことで生産性が上がる、成果が上がるのだとしたら、先ほどの雑談し合うことによって、相談し合える関係性が作れるとなってきます。演繹的ですが、外側からいくと、やはり仕事の種類が変わってきて、相談せざるを得ない仕事が増えてきたのです。

倉重:それが結果的に今の本業に結び付くという感じですね。

倉貫:そうです。それをうまくするためには、実は雑談という土台が必要だったのです。

対談協力:倉貫 義人(くらぬき よしひと)

株式会社ソニックガーデンの創業者で代表取締役社長。「心はプログラマ、仕事は経営者」をモットーに、ソニックガーデンの掲げるビジョン達成のための経営に取り組んでいる。

略歴

1974年京都生まれ。1999年立命館大学大学院を卒業し、TIS(旧 東洋情報システム)に入社。2003年に同社の基盤技術センターの立ち上げに参画。2005年に社内SNS「SKIP」の開発と社内展開、その後オープンソース化を行う。2009年にSKIP事業を専門で行う社内ベンチャー「SonicGarden」を立ち上げる。2011年にTIS株式会社からのMBOを行い、株式会社ソニックガーデンの創業を行う。

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒 KKM法律事務所代表弁護士 第一東京弁護士会労働法制委員会副委員長、同基礎研究部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)副理事長 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 紛争案件対応の他、団体交渉、労災対応、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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