小学生がVTuberになってお悩み相談~「ゲームの力を教育の未来へ」公開授業
VTuberのなり方、教えます
ネットいじめやスマホの持ち込みをはじめ、ネット社会の急速な進展に伴い、さまざまな問題が教育現場を直撃している。鍵を握るのが教員の養成だが、一朝一夕にはいかないのが現状だ。こうした中、モバイルゲーム大手のグリーと千葉大学教育学部の藤川研究室とで、興味深い取り組みが行われている。2013年度より協同授業「ゲームの力を教育の未来へ」をプロデュースし、ICT時代で求められる教員育成を行っているのだ。6年目となる2018年度は千葉大学教育学部附属小学校の6年生がVTuberになり、4年生のお悩み相談を行うというユニークな取り組みが行われ、メディア向けに公開授業も行われた。
本共同授業は千葉大学教育学部が後期に実施する「メディアリテラシー教育演習」で行われている。学生は全15回の授業の間、グリー社員や附属小の協力をもとに準備を進め、小学生を相手に模擬授業を行い、ふり返りまでを行うという流れだ。履修学生の大半は教員志望で、「教育の情報化」を担える学生を養成するのが目的。昨年度までは「教育現場で活用可能な学習ゲームづくり」を掲げ、学生が自分たちでゲームを企画・制作し、附属小で模擬授業を行っていた。しかし、2018年度はグリーが進めるVTuber関連事業を受けて、「小学生がVTuber体験を通じ表現力を伸ばす」ことが授業テーマに掲げられた。
VTuberだから伝わること、伝わらないこと
2019年1月23日に開催された模擬授業は、6年2組の生徒35名が8つのグループに分かれ、それぞれ2分30秒という持ち時間の中でVTuberになりきり、事前に寄せられた4年生からの質問に答える形式で行われた。配信は3DCGのPC向けアバターソフト『FaceRig』を活用し、映像は放送室に持ち込まれたノートPCから4年2組の教室に配信された。4年生たちは映像を見ながら、こちらもノートPCを使用し、チャットサービスの『Sli.do』上でコメントを返していった。そして、その内容を見ながら放送室の6年生がリアルタイムで受け答えをするという、短いながらも複雑なやりとりがみられた。
寄せられた質問の中には「帰り道で友達と話す話題がない」といった身近なものから、「良い大学に入ると幸せになれるか」といった、シリアスな質問もみられた。これに対して6年生は、それぞれのアバターになりきりながら、「話すことがなければ、無理に話さなくてもいい」「どの大学にも幸せな人もいれば、不幸せな人もいる。大学名よりも、友達とのコミュニケーションが大切」などと、大人顔負けのコメントを返していた。配信終了後に感想を聞くと、「緊張して足が震えたけど、がんばった」「直接言いにくいことでも、アバターになると伝えやすいこともあった」などと答えていた。
また、配信に先立ち学生からは、6年生むけに「アバターを画面上で大きく、メリハリをつけて動かすといい」「大きな声でゆっくり、はっきりと喋ると聞きやすい」などのアドバイスが送られた。一方で4年生に対しては「配信を見て、相手が傷つくようなことをコメントしてはダメ」などの注意もなされた。実際、中には悪口に近いコメントも見られたが、書き込みに気づいた児童がすぐに指摘するなど、授業を通したネットリテラシーの高まりも感じられた。これらは、いずれもグリー社員が授業内で「コミュニケーションのコツ」として学生に指導したものだ。
その一方、ネットワークの問題で声が聞き取りにくい場面がみられたり、チャットでの交流が思うように盛りあがらなかったりといった場面もあった。配信終了後に4年生が寄せたアンケートでは、総じて「楽しかった」「わかりやすかった」といった高評価が得られたが、中には不満を寄せる児童もいた。6年生と4年生の双方で、画面上のアバターを介した非日常的な体験を共有しつつも、「伝わりそうで、伝わらない」「伝えたいけど、伝えられない」といった、メディアを介することで発生するもどかしさをあわせて体験していたように感じられた。
ICT時代の教員養成のあり方とは
今回の模擬授業はカリキュラムの第14回にあたり、学生たちはVTuberの基礎概念からツールの使い方、ネット上のマナーやエチケット、そして授業設計や具体的な担当分けまで、さまざまな準備を経てのぞんだ。その一方、グリーVRスタジオラボでディレクターを務める白井暁彦氏と、ネットモラルエバンジェリストをつとめる小木曽健氏が附属小で公開授業を行い、6年生に向けてユーチューバーとVTuberの違いについて解説したり、アバターを介して行うコミュニケーションの特性や注意事項などについて指導するなど、学生と小学生の双方に対して支援も行われた。
テクノロジーの進化は社会の価値観を変化させる。そうした変化を拒絶するのではなく、いかに柔軟に受け入れ、教育現場で活用していけるかについて、教員はさまざまな社会的期待にさらされている。こうした中、教員志望の学生にいささか無茶ぶりともいえる課題を提示し、自分たちで解決法を考え、小学生を相手に模擬授業までさせてしまう本プログラムは、全国でも珍しい実践的な大学教育であり、産学連携のあり方の一つといえるだろう。この取り組みを通して得られたメソッドが、広く社会に還元されていくことを期待したい。