Yahoo!ニュース

何をすれば「不倫」となるのか~「妻がドアをすぐに開けなった・・・」裁判例で考えてみる

竹内豊行政書士
令和2年も不倫のニュースが賑わしています。何をすれば不倫となるのでしょうか。(写真:アフロ)

昨年に続き、令和2年も東出昌大さん、鈴木杏樹さんなど、不倫のニュースが出てしまいました。しかし、どういう行為が不倫に該当するのでしょうか。改めて考えると不倫とそうではない行為の境界線がハッキリしません。

民法では、いわゆる「不倫」を「不貞行為」という言葉で表しています。そこで、どのような行為が不貞行為となるのかアプローチしてみたいと思います。

不貞行為は離婚原因になる

民法770条1項1号は、「配偶者に不貞な行為があったとき」を離婚原因として規定しています。これは、婚姻(結婚)の効果として夫婦間に貞操義務があることを前提として、その義務違反行為としての不貞行為を離婚原因とする趣旨です。

民法770条(裁判上の離婚)

1 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。

一 配偶者に不貞な行為があったとき。

二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。

三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。

四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。

五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

2 裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

不貞行為とは

もっとも、不貞行為という概念をどのように理解するかは、多分に社会倫理観によって左右される面があり、必ずしも確定したものではありません。

判例が示す不貞行為

判例は、不貞行為とは「配偶者ある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいう」とし、配偶者の自由意思にもとづく姦通(配偶者以外の異性との性交)に限定しています。

1回限りの不貞行為は許されるか

もっとも、不貞行為を姦通に限定するとしても、その回数や期間は問いません。そのため、ごく短期間の一時的な関係であっても、不貞行為となります。もっとも、その場合には、事情によっては、「一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認める」として離婚請求が棄却される余地が残ります(770条2項)。

不貞行為で離婚を争う場合

前述のように、判例は、不貞行為を限定して解釈しています。そのため、離婚を裁判で争う場合には、原告において不貞行為を立証する必要が生じます。しかし、これは通常容易ではありません。

不貞行為の証拠となるもの

離婚を原告としては、証拠を積み重ねるしかありません。一般に次のようなものが証拠になると考えられます。

・不貞を推測する手紙やメール

・ホテルや食事などにかかわる領収書やクレジットカードの明細など

不貞行為が推認されるとした裁判例

不貞行為に推認されるとした裁判例をご紹介しましょう。

特定の女性との頻繁の外出や深夜の帰宅や噂

夫が特定の女性と連れ立って頻繁に外出し、帰宅が遅くなることも稀ではなく、翌朝まで帰宅しなかった日もあったこと、二人の関係は友人の間でもかなり噂になっていたことなどの事情を認定し、「単なる友人の域を越えて性的関係ありと推認すべき」として不貞行為に該当するとした。

妻がドアをすぐに開けなかった

妻がアパートの一室に鍵をかけて特定の男性と二人きりでおり、ドアをノックしてもすみやかに開けなかったことや、示談交渉の席で不倫関係を明確に否定せず、示談金の提案に対しても「考えてみる」といった態度であったことを総合して、妻について「通常の交際の範囲を超えた深い男女関係にあったと推認」して不貞行為を認めた。

離婚原因としての不貞行為が「配偶者の自由意思にもとづく姦通」と限定的に解釈されているため、その立証は必ずしも容易ではありません。そのため、裁判で離婚を争うケースでは、「配偶者の不貞行為」(770条1項1号)だけではなく、770条1項5号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」の離婚原因も併せて主張されることが少なくないようです。

このように、不貞行為を白黒ハッキリさせることは困難をともなうことが多いようです。そもそも結婚をしたら社会通念はもちろんですが民法上も貞操義務を負います。既婚者はもちろんですが、これから結婚する方も肝に銘じておきましょう。

以上参考:『新注釈民法(17)』(有斐閣)

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

竹内豊の最近の記事