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もうすぐセンバツ! その4 あなたの優勝候補はどこですか? 糸満がおもしろいぞ

楊順行スポーツライター

「ああ、久しぶりです」

昨秋の九州大会。初戦を突破した糸満・上原忠監督のもとに出向くと、そう挨拶してくださった。中部商を率いていた06年の夏前、取材に行ったことを覚えていてくれたのだ。母校でもある糸満に移ったのが、08年。09年に監督となり、11年夏に初めての甲子園に導いているが、九州大会では糸満を率いて6度目の出場でようやくの初勝利だった。ただ、

「ひとつ勝てたので、一気に堰を切るかもしれませんよ」

というように、決勝まで進出。そこでは九州学院に惜敗したが、センバツ出場を確定させた。

もっとも、スタートはよれよれだったのだ。夏の決勝で沖縄尚学に敗退した2日後、新チームは秋のシード決め大会で久米島に完封負けし、知念には大敗。悲惨でした、と上原監督は振り返る。

「選手の背番号すら決まらない状態で、野球の理解度は小学4年生レベル。ただ早く負けたので、そこから3週間ほどは、一日みっちり練習ができました」

8月中旬からは、親元を離れて選手たちの自立を促す1週間の熊本遠征。「三歩進んで二歩下がりながら」(上原監督)成長していく。その遠征の早い段階で、正捕手の島袋竜星、控え捕手の比嘉良平が故障離脱するなど故障者が続出しても、公式戦は週末開催。やりくりしながらなんとか勝ち進むことが、結果として貴重な試合経験になった。今年の糸満は弱い、という周囲の声をよそに、2回戦からは3試合連続零封勝ちなどで九州大会に出場すると、満身創痍ながらそこでも準優勝だ。

センバツを見すえては「寒い気候で試合をやっておきたい」(上原監督)と、11月下旬に神奈川に出向いた。県外のレベルの高いチームと試合できたのは大きな財産で、「小学生レベルだったのが、なんとか高校生になったかな」と上原監督はいう。

初戦の相手はOB・栽弘義氏が90年夏の決勝で敗れた天理

強豪私学のように有力選手が多数集まってくるわけでもなく、グラウンドは他の部活と共用。「近所の子だけの、ふつうの部活」(上原監督)だから、少ないヒットに足をからめて得点し、走者を出しても粘り強く守る、いわば泥くさい高校野球が身上だ。事実、九州大会の初戦では、11安打で11得点し、12安打されながらわずか2失点で佐賀学園を下している。秋の大会10試合で犠打飛が50、1試合平均5は出場32校中最多だ。攻守の要である一番・池間誉人、二番・岡田樹が出塁すれば、三番には・632と公式戦打率トップを誇る大城龍生が控えている。

そして、上原監督が「大化けするかも」とやけに自信ありげなのが、エース・金城乃亜だ。昨秋の公式戦では防御率2.11と、ナミのピッチャーにすぎない。それが、「球速は130キロ台かもしれないが、キレのいい球はときに捕手が捕れないほど」(上原監督)と、この冬に急成長した。冬の沖縄県名物・野球部対抗競技大会では、119メートル強を投げて遠投で優勝しており、もともと潜在能力はある。また金城乃と並び、大城龍も1年時からマウンドを経験した素材。たび重なった故障がいえれば、甲子園では秘密兵器になり得る。

糸満は5日目第1試合の登場で、初戦の相手は天理。9人のうち、180センチ以上が5人を占める大型チームで、昨秋の近畿を制した強敵だ。過去にも、全国制覇3度。上原監督によると、

「かつてテレビでよく見ていた、すごいチーム。バントには時間を費やしてきたので、ウチらしい野球で食いついていければ……」

そういえば糸満OBの栽弘義氏が、沖縄水産を率いた90年夏、決勝で敗れたのが天理だった。そして上原監督は、その栽氏にあこがれて指導者を志している。

付け加えれば、金城乃が遠投で優勝した競技大会ではほかに、100メートル走の9人平均が大会新の11秒77を記録。糸満はさらに塁間継投、塁間走などの5種目で1位となり、昨年に続く総合優勝を飾った。競技会と沖縄チームの甲子園の成績は、ときに密接に結びつくことがある。近年では、08年のセンバツで優勝した沖縄尚学。05〜07年の競技大会では総合優勝を果たし、突出した守備力が目立った08年も、塁間継投などは1位だったのだ。

中部商時代の2回を含め、まだ甲子園で勝ち星のない上原監督。昨秋の九州大会のように、甲子園でも、ひとつ勝てば堰を切るかもしれないぞ。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は64回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて55季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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