衛星画像から見えるカホウカダム破壊後の異変 ダム上流では水域の減少も
ウクライナのヘルソン州で2023年6月6日に起きたドニプロ川のカホウカダム破壊後、州都ヘルソン市を含むダムの下流では浸水の被害はおさまりつつある。しかし、ウクライナ南部の広い地域からクリミア半島にかけて生活用水や灌漑用水を供給していた「カホウカ貯水池」全体では、ダムの上流で水の減少が明らかになりつつある。長期に続く可能性がある貯水量の変化を、衛星画像から可視化してみる。
画像はNASAと米国の地球観測衛星企業Planet Labsらが共同で分析したカホウカダム破壊の影響に関する初期のレポートだ。6月7日の浸水が激しかったときには、ヘルソン市や南側のオレシュキ、ホラ・プリスタンなど黄色で表示されたエリアで市街地の被害があったと推定されている。6月16日付けの科学誌Scienceによれば、被害は市街地やインフラ設備にとどまらず、農地の表土の流出被害や、魚の養殖場の破壊なども深刻だという。
一方、カホウカダムの上流では貯水量の変化が明らかになりつつある。上記のNASAのレポートでは、ドニプロ川につながる運河が取水できなくなる可能性に懸念を示している。
レポートで分析されている一帯を、欧州の光学地球観測衛星Sentinel-2(センチネル2)の画像でダム破壊前の6月5日と、破壊後の6月18日の画像を比較してみる。ドニプロ川沿いの都市ニーコポリ周辺の画像では、黒々と水をたたえていたカホウカ貯水池が18日には茶色くなりつつあり、川床の地形が見えていることがうかがえる。
同じ画像から、水面を強調表示する処理を行うと川幅の減少はより鮮明になる。雲の影響などで誤認識が発生するため、比較は1回だけでなく複数回にわたって長期的に行う必要があり、水量の変化のモニタリングが欠かせない。
ポイントごとに影響を見ていくと、NASAのレポートにあるプラネット・ラブスの衛星画像ではダム破壊から3日後の6月9日の時点でカホウカ貯水池の水量低下が見られ、ドニプロペトロウシク州のマリヤンスク(Maryanske)付近からピウデン貯水池を通ってクリヴィイー・リーフにつながるドニプロ-クリヴィイー・リーフ運河の取水口付近では、川岸が露出しつつある様子が見られた。また、カホウカダムのすぐ上流からつながる北クリミア運河の取水口も6月9日の時点で切断に近い状態となっている。
カホウカダムを中心とした一帯を欧州のレーダー地球観測衛星Sentinel-1(センチネル1)の画像で比較してみる。6月1日に対して、ダム破壊から1週間後の6月13日時点でもダムの下流は水面を反映して黒く映っているエリアがあり、中洲の湖が繋がっている部分や、ドニプロ川につながる支流が広がっているようすがうかがえる。一方でダムの上流では支流が狭くなり、地面が露出していると思われる部分がある。
北クリミア運河の取水口付近を拡大したのが次の画像だ。6月1日と13日で比較するとダムのすぐ右側、画像中央付近で黒く映っていた水面が減少している可能性がある。
北クリミア運河は、2014年のロシアによるクリミア併合後にウクライナ側が送水を制限しており、2022年2月のウクライナ侵攻直後にロシア側が取水口付近を確保し送水を再開したという経緯がある。ロシアの侵攻の目的のひとつとされる北クリミア運河の機能を低下させることになりかねない行動の意図は明らかではないが、運河周辺の生活や農業がさらに不安定になることが考えられる。
ドニプロ川の南側の地域には、灌漑用水を利用している農地に特徴的な円形の圃場が多く見られる。カホウカダム破壊の影響は浸水だけでなく、そうした農業や地域の人々の生活へ長期にわたって影響することになる。継続的な影響調査、今後の支援につながる情報の分析が重要になる。