名古屋でまさかのきしめん離れ?夏は“きしころ”で復権!
名古屋めしの中で全国的知名度は一番だが・・・
“名古屋名物”と聞いて、多くの人が思い浮かべるのが「きしめん」です。“名古屋めし”と総称される名古屋のご当地グルメの中でも、特に歴史があり、リーズナブルで、選り好みされないことが一番の強み。統計を取ったわけではありませんが、全国の人が最も食べたことのある名古屋めしはきしめんではないでしょうか。
しかし、実は地元では、近年きしめんの存在感が薄らいできています。あるうどん店の店主がこうぼやきます。
「最近はきしめんを口にしない人が増えている。食べてないから、きしめんのおいしさも知らない人が多い」
きしめんに対する基本的な知識も不足しています。ほとんどの名古屋人は、きしめんはうどんを平たくしただけ、と思っていますが、これは行程上は確かにそうですが、きしめんの特徴を言い表すには十分とは言えません。名古屋のうどん、きしめんは固い生地を作って、そのままでは伸ばしにくいためひと晩寝かして熟成させるのを特徴とします。時間と体力をかけて薄く伸ばすのがきしめんで、だからこそ薄いのにコシがあるという本来なら成立しないはずの特徴も生まれるのです。単にうどんを伸ばせばきしめんになる、というわけではないのです。
名古屋人のきしめん離れが進んだ理由とは?
なぜ名古屋人はきしめんを食べなくなったのか? その原因は皮肉なことに、かつてうどん店が大繁盛した時代にあったといいます。飲食店の種類がまだ限られていた昭和40~50年代、うどん店は外食シーンの花形でした。店はビジネスマンや家族連れでにぎわい、その上に出前もひっきりなし。目が回るほどの忙しさでした。名古屋のうどん店は、普通のうどんの他、きしめん、味噌煮込み専用麺(うどんとは麺の種類が違います)、そばと4種類を手打ちするのが当たり前で、とりわけきしめんは平たく伸ばす行程があるため手間がかかり、店の負担を大きくしていました。
そんな折り、店の作業負担を軽減する頼もしい助っ人が現れました。製麺機です。大忙しのうどん店の多くはこれに飛びつき、機械打ちの麺が主流となります。店の生産力はアップし、出前も数多くこなせるようになりました。ただし、便利さ求めた結果、犠牲になるものもありました。最も影響を受けたのがきしめんです。ぺろぺろした独特の舌触りと、つゆののりのよさがきしめんの醍醐味。ところが、機械打ちの場合、表面が均質化しすぎて、この長所を再現しきれないのです。また、平たい分汁を吸いやすく伸びるのが早いきしめんは、出前でお客の元に届く頃にはおいしさが損なわれてしまいます。こうして、お客がきしめん本来の魅力を口にする機会が減ってしまい、「きしめんはこんなもの」というイメージが広まり、結果としてきしめん離れが進んでしまったのです。
旅行者に大人気の駅の立ち食いきしめんだが・・・
「名古屋駅のホームのきしめんが一番うまい!」。河村たかし名古屋市長をはじめ、こう公言する人は少なくありません。確かに駅の立ち食いは、おそらく全国の人が最も口にしているきしめんで、“きしめん=名古屋名物”のイメージを日本中に広めた大功労者です。ダシにもこだわっていて、香り豊かなつゆは舌の記憶に残ります。
しかし、これは立ち食いのファストフード。旅情も含めておいしく感じられることに異論はありませんが、地元の人までこれが一番だと言ってしまうのはちょっと残念です。「駅のきしめんがおいしかった!」と言ってくれる県外の人に対し、「そうだろう。でも、街中ではさらにうまいきしめんが食べられるんだ」とアテンドしてあげてこそ、ふさわしいおもてなしと言えるのではないでしょうか。
きしめんの名店を食べ歩くスタンプラリーが開催中
最近は、きしめんの復権を目指し、手打ちに回帰するなどあらためてきしめんに力を入れるうどん店も増えています。とは言え、おいしいうどん店やきしめんのまとまった情報はなかなか見つけにくいもの。熱心なブロガーもラーメンに比べるとごく少数です。
そこで、ちょうど今、名古屋のきしめんを食べ歩くのにぴったりの企画が開催されています。「第3回きしころスタンプラリー」です。きしころとは、冷たいつゆをかけたきしめんのこと。名古屋ではいわゆる冷やしうどんを“ころ”と呼び、市内のほとんどのうどん店で、ころうどんやきしころ(“ころきし”とも)を食べられます。
「きしめんはころが一番うまい。特に夏にはぴったりです。でも、きしころの認知度が意外と低いので、もっと多くの人に食べてもらおうと思って始めました」と「角丸」店主で愛知県東めんるい組合会長の日比野宏紀さん。参加店は年々増え、今年は42店舗。名古屋市内から岐阜や刈谷など広範囲のうどん店が参加しています。対象メニューは各店2品で、食べると台紙にスタンプが押され、5店巡るごとに500円の金券が進呈されます。
「全店制覇を推奨するのではなく、近所の店に気軽に足を運んでもらうことが目的」と日比野さん。店によってはラリー限定メニューを出しているところもあるので、ベーシックなきしころからアイデア豊かな創作きしめんまで、多彩なきしころに出会えるチャンスも広がります。何より多くの人がきしめんに関心を持って、普段行く機会のない店にまで足を運び、おいしいきしめんを食べることで、きしめんに対する過小評価があらたまっていくことが期待されます。
地元の人も、他県からやって来る人も、この夏は是非おいしいきしころを食べて、きしめんの真の魅力を堪能していただきたいものです。