若者は本当に右傾化しているのか?
・若者の自民党への投票率が突出?
2021年衆院選が終わり、11月2日に総務省が10代有権者(18歳・19歳)の投票率の速報値を発表した。それによると、10代有権者の投票率は43.01%であった。
近年、毎度の国政選挙で言われることであるが、若者(10代・20代)有権者が自民党に投票する傾向が顕著である、とされる。自民党に投票する=右傾化とは即断できないものの、自民党や政権党に批判的な有権者の一部は、これを以て「若者は右傾化している」と結論付けている事実が散見されるのである。
当然、実際の投票行動は無記名なので、どの世代に於いてどの政党への投票傾向が強いのであるか、を知る手掛かりは報道各社の出口調査に頼って推測するほかない。今次衆院選挙では、テレビ朝日の報道ステーションが投開票日から迅速に、世代別の投票行動の比例代表における推計を出した。それによると、今次衆院選挙における世代別投票行動の推計は以下のとおりである。
図1*筆者制作以下同】
この推計を信用するなら、明らかに若者(10代・20代)の有権者における自民党への投票率は有意に他の世代よりも突出している。自民党への投票行動は10代が頂点で40代・50代・60代でボトムを描き、70代以上でやや増す。しかし40%以上の自民党への投票率を有するのは10代・20代以外にない。なるほど仮に自民党への投票=右傾化を真とするなら、「若者は右傾化している」という毎度の結論もうなづける。
しかし通常、或る世代の投票行動の特徴は〇〇である、とするには棄権者を含めた100%の母数を基準にしなければならないことは自明である。上記の数字は、あくまで投票所に行った人々の内訳であり、棄権者を含んだ100%の母数でなければ、世代別の投票行動の傾向を断定することはできない。そこで筆者は、現在速報値で示されている10代の世代別投票率、およびまだ速報値が出ていない20代以上の世代別投票率(直近の国政選挙である2019年参議院選挙に基づく)から、このグラフを以下のように棄権者を含めた100%値に改めた。
・自民党への投票率は中高年が圧倒的に高い
図2】
計算方法は実に単純であり、10代の投票率が43%であるから、まずグラフの右側に57%の棄権者を配置する。次に投票を行った有権者のうち、43.5%が自民党に入れたのであれば、その率は43×0.435=18.7となる。これをすべての世代で繰り返す(*10代のみ21衆速報、そのほかは速報値が出ていないので19参,小数点以下を四捨五入した関係上、合計値は100丁度にならない場合がある)。
すると、図2のように自民党への世代別投票率はがらりと変わる。若者の投票率が極めて低いため、全体的に自民党への投票率が押し下げられ、見事に50代以上の中・高年のそれが高くなる。この図2の仮定が正しければ、或る世代への自民党投票率は、明らかに若者ではなく50代以上の中・高年層が高くなる。もちろん、50代以上の中・高年有権者の中における非自民への投票率も高くなるが、自民党への投票行動に限ると、「若者は右傾化している」とはまったく断定できないということになる。
さらにこの推計を発展させて、有権者の絶対数での比較はどうか。以下の図3は、各世代の人口の絶対数を横棒で示し、そのうち自民党に入れた有権者の数を絶対値で示したものである。10代人口(18歳・19歳)人口は平成28年度の数値を引用し、20代以上のそれは令和3年10月度の推計を引用した。
・70代以上の自民党投票数(絶対数,推計)は、10代の「約14.7倍」
図3】
この図3の計算式も実に単純なものである。10代有権者人口は246万人であり、そのうち図2に基づき18.7%が自民党に投じたとすれば、246×0.187=46である。これをすべての世代で繰り返す(小数点以下四捨五入)。
すると、70代以上の有権者にあっては、676万人が自民党に票を投じたと推測される。これは、10代の実に「約14.7倍」である。20代に比すれば「約3.9倍」となる。もし、自民党に投票すること=右傾化という図式を設定したとして、10代・20代の有権者が自民党を熱心に支持しているボリュームであれば、自民党は若者に対しきわめて優遇的な政策を打ち出して良いように思われるが、必ずしもそうとは言えないという批判もある。その理由は図3で示した通り、有権者のうち自民党への絶対投票数が、50代以上の中・高年に偏重しているからに他ならない(50代以上で1300万人超)。
ちなみに、これらの図3は、すべて今次衆院選における報道ステーションの世代別政党投票率の推計(図1)を基礎としている。ただし、そこから発展して推測した筆者の図3について、大きく間違っているとは思われない。なぜなら、図3にある自民党への絶対投票数を合計すると、「約2212万人」となる。翻って今次衆議院選挙における自民党の比例代表(比例ブロック)の得票総数は「約1991万5000票」であり、この数字と近似するからである。*参照
・”若者”は常に時代のリトマス試験紙?
つまり本稿で提示した第一義的な推計であるところの報道ステーションの数値(図1)は、あながち間違っていないと言えよう。当然この推計では、自民と非自民を大まかに二分している。非自民の中でも保守的傾向を持つとされる、公明・維新・国民民主等もひとくくりに「非自民」に鑑別しているので、やや雑駁な類推ではあろう。ただしトレンドとしては、筆者による推計はほぼ間違いのない事実であり、自民党への投票=右傾化、という批判的図式を鵜呑みにすれば、「若者は右傾化していない」と結論するに相当であろう。
というよりも、若者(10代・20代)は投票率が低すぎ、すなわち棄権率が多すぎて、この世代が何党を支持しているのか正直判別がつかない、と言い換えても間違いではない。若者は、常に世のトレンドの趨勢を把握するリトマス試験紙にされてきた。例えばファッション分野での流行に機敏な若者の動向を探ることが、アパレル業界における消費者の鋭敏な触角の前衛を担う最前線とされてきた。つまり若者の興味のあるものは、”時代のトレース”と同じなのである、という解釈である。
この図式を政治分野に援用することで、つまり若者が何党に投票するかによって、政治的なトレンドの方向性が決定される―。つまり、いま勢いがあり、民意に即しているのは何党である、という分析の為に常に若者が使用されてきた。それは若者が、既存の政治的イデオロギーや色眼鏡に毒されていない、無垢の存在であるという前提に立っているからこそ、政党への真の訴求力と同義に扱われてきたからである。この文脈の中で若者は、「王様は裸だ」と平然と言ってのける無垢の幼児的観客であり、であるからこそ若者から支持を受ける政党こそが、最も説得力があり、迫真性があり、正当性があると解釈されてきた。
ところがその実態は、縷々示したように、投票率が低すぎて測定できない―、という身もふたもない結論に到達している。繰り返すように、自民党への投票=右傾化とは言えないものの、そういった批判があるのであれば、現実の投票行動はそのイメージからは乖離しているのである。よって若者は右傾化していないのである。(了)