Yahoo!ニュース

インターンシップVSゼミ合宿 就活ではどちらが得なのか

石渡嶺司大学ジャーナリスト
ゼミで談笑する学生。夏休みと言えば合宿だがインターンシップとどちらを選ぶ?(写真:アフロ)

藤田結子教授のつぶやきが約3900いいね

8月に入り、都内ではリクルートスーツを着た学生が再び増えてきました。7月以前は4年生でしたが、8月に入ると、若干、着こなせていない様子。つまり、3年生のインターンシップ参加者なのでしょう。

就活の時期変更もあって、今年は例年以上に夏のインターンシップが盛んになっています。

企業からすれば採用につながるから、ということで力を入れています。

その様子を苦々しく見ているのが、大学教員です。

明治大学の藤田結子教授は2019年7月2日、ビジネスインサイダー記事のリツイートにコメントを付けました。

藤田結子教授のTwitter
藤田結子教授のTwitter

インターンに行く学生が増え、3年生のゼミ夏合宿ができなくなりました。在学中、アメリカの大学生が毎日夜遅くまで図書館で勉強している一方で、日本は就活ばかりさせて、将来的に創造性やイノベーションで競えるの

これが2100リツイート・3900いいねと話題になりました。

藤田教授もこれを受けて、現代ビジネスで記事(2019年7月31日公開/「大学生のインターン参加が急増した結果、ゼミ合宿ができなくなった話」)としました。

ゼミ合宿不要論も

記事公開後は当然ながら、賛否両論です。

賛成論は、

「いまどきの学生は就活一辺倒でかわいそう」

「学業の圧迫だ」

などなど。

一方、否定論もあって、

「夏休みなのだから、学生の自由でいいじゃないか」

「インターンシップの方が学生の勉強になる」

など。

ブロガー・論客として名高い田端信太郎さんは、結構きつめのコメントを藤田教授にぶつけています。

田端信太郎さんのTwitter
田端信太郎さんのTwitter

社会人になってからだって、人生ずーっと、仕事の傍らで勉強なんですよ。これ要するに、学生からみて、優先度が低く思われる程度の内容しかないゼミだからでは? 

この手の大学のセンセイって自分のやってる教育や研究活動は有意義だということが何故か大前提になってるよね。大学生が1人の大人として、自分の意志でインターンをゼミ合宿より優先したいと判断してるんだから、その現実を受け止めて、それでも参加したくなるようなゼミ合宿とは?と考えない唯我独尊

「就活のせいでゼミ合宿ができない」は10年以上前から

文春砲ならぬ田端砲はその鋭さが目立ちます。

では、大学3年生からすれば、インターンシップとゼミ合宿、どちらを優先すればいいでしょうか。

という話の前に、「ゼミ合宿がインターンシップ(就活)によってできなくなった」、これ、実は今に始まったことではありません。

私は大学・就活の本や記事を書いて18年、という人間ですが、活動を始めた2003年当時から、ほぼ同じ話を取材で聞いた覚えがあります。

2010年には当時、連載を持っていた信濃毎日新聞でこのネタを記事にもしました(信濃毎日新聞2010年5月25日付け朝刊「就活のツボ インターンシップ、無理せず」)。

2013年には西日本新聞の九州大学教授の連載で「ゼミ合宿ができない」ネタ(正確には日程が決まりづらい)が掲載されていました。

4月から5月は民間企業の選考活動時期。ただでさえ厳しい雇用情勢。民間を志望する学生は浮足立ち、学業は二の次になりがちだ。

(中略)

私の方は少し余裕が出てきて「ゼミであれもしたい」「これも」と思い始めたが、肝心の学生が就活で東奔西走中とあって我慢の日々。'''夏休みのゼミ合宿の日程もなかなか決まらなかった。

'''4年生が一段落すると、今度は3年生がリクルートスタイルで教室に現れる。内定した4年生を3年生向け就職説明会に動員する企業があるかと思えば、授業時間中に学内で説明会を開く中央省庁もある。一生のことなので「やめろ」と言えるわけがない。学生にはただ「頑張れ」と励ますだけ。無力感も感じる。

※西日本新聞2013年3月29日・夕刊「新米九大教員記<5>就活最前線 励ますだけの無力感」

ゼミ合宿が任意参加(だけど、できれば参加してね)という曖昧な位置付けである以上、「就活(インターンシップ)のせいでゼミ合宿はできなくなった」ネタが今後も尽きることはないでしょう。

学生も学生で、どちらを優先するか、悩み続けるに違いありません。

何を優先するのかは学生次第

では、ようやく本題。インターンシップとゼミ合宿、学生はどちらを優先するべきでしょうか。

結論から言えば、それは学生次第です。

目指す業界なり企業なりで、そのインターンシップに行った方が確実に有利になる、ということであればインターンシップを選ぶべきでしょう。

インターンシップではないですが、就活関連イベントで言えば、テレビ局は毎年夏に、アナウンサー講習会などの名称のイベントを実施しています。

これが実質的にはアナウンサー職の初期選考であることは志望学生の間では周知の事実。

もし、アナウンサーを目指すのであれば、参加しない、という選択肢はありません。

逆に、ゼミ合宿を含め、勉強をじっくりやっていく方が結果的には就活で有利になるかもしれません。

選択肢は色々あるわけで、学生はわからないなりに、自分で考えて自分で選択していくしかありません。

インターンシップVSゼミ合宿、どちらが就活で受ける?

「学生次第で自分で考えろ」ではがっかりする学生読者も多いでしょうから、一応、情報提供を。

インターンシップとゼミ合宿、どちらが就活で受ける、つまり、ネタとして使えるでしょうか。残念ながら、どちらもネタになりづらいです。

インターンシップのうち、1日ないし数日程度の短いものなら、エントリーシートや面接のネタになりづらいです。これを無理に話す学生もいますが「そんな短い期間で、だから何なの?」で終わり。

長期間だったとしても、今度は「なんで、その社に行かなかったの?」というツッコミが入ります。

では、ゼミ合宿はどうか、と言えば、期間の短さは大半のインターンシップといい勝負。

就活生は、なぜか、短い期間の成果をやたらとアピールしたがりますが、インターンシップにしろ、ゼミ合宿にしろ、しょぼすぎるエントリーシート、しょぼすぎる面接の受け答えを量産するだけです。

 参考:就活生のエントリーシートがしょぼすぎる!~「即戦力」の誤解で選考落ち地獄も

インターン優遇ルートは推薦・AO入試と同じ

では、数日ないしそれ以上の期間のインターンシップ、しかも参加すればインターンシップ参加学生を優遇する選考ルートが設けられている企業だとどうでしょうか。

実はこれも決定打とは言いづらいところなのです。

と、言いますのも、売り手市場が強まる中で各企業は氷河期以前にあった「採用時期は早いにしろ、遅いにしろ一本化。ごく少数を補充採用」という方針を展開させました。

従来であれば、採用時期を無理に分けたところで、手間暇がかかるだけ、という発想が強かったのです。そのため、前倒しするなら前倒し、後ろなら後ろ、と日程を一本化する企業が大半でした。

ところが、売り手市場が続き、さらに過熱化。しかも、人手不足が深刻化する中では、日程の一本化が難しくなりました。

そこで、各社とも方針を転換。採用時期をいくつかに分割したうえで、それぞれの採用時期に出す内定者数も分ける企業が増えていったのです。

大学受験だと国公立入試なら、推薦・AO入試があって、前期入試、後期入試があるはず。あれと同じです。

企業によっては私立大のようにさらに複数の日程を設けています。

夏のインターンシップに参加した学生に対しての優遇ルートは、大学入試で言うところの推薦入試・AO入試のようなもの。

私のように大学・就活の取材が長い人間からすれば、「推薦入試を受けなくても一般入試があるでしょ」で終わりの話です。

ところが、大学生からすれば、「インターンシップに参加すると優遇ルートがあるらしい」がどこかで「インターンシップに参加しないと選考に参加できないらしい」に変化しているようです。

確かにインターンシップからしか採用しない、とする企業もありますが、IT・ベンチャーが中心。大企業を含め大半の企業は採用時期を分割しているのが現状です。

大学生は「推薦入試を受験できなかった。もう、この大学は受験できない」と嘆いている高校生がいれば、どうでしょうか?

「いやいや、そんなことないよ。一般入試もあるじゃない」と話すはず。

全く同じことがインターンシップとその優遇ルートにも言えます。

ゼミ全体であれば、就活でのネタにも

藤田結子教授のTwitterを拝見すると、こんな書き込みが。

ゼミでは企業と産学協同研究をして、学会発表もしています。卒業生も参加してくれてます!

企業と協同研究をしているのであれば、その教育効果は一般的には相当高い、と言えます。

その一環としてゼミ合宿があるのであれば、学生はむしろ参加した方がはるかに得をしたのではないでしょうか。

鈴木教授だけでなく、他大学・他の大学教員のゼミ合宿でも、他大学ゼミと共同研究をした、討論をした、などの例が多数あります。

もちろん、単に一緒に旅行をして、一緒に酒を飲んだだけ、というゼミ合宿もあるでしょう。そういうものであれば、優先度は低い、と言えるかもしれません。

それと先ほど、ゼミ合宿はインターンシップの大半と期間が短く、エントリーシートのネタになりづらい、と指摘しました。

が、ゼミ全体でみると、結構ネタになりやすいのです。

これは他のアルバイトなり、サークル・部活にも共通して言えますが、企業からすれば、実績・成果よりも経過を重視します。さらに、分かりやすい実績・成果がなくても長い期間、続けてきたことは学生が想像する以上にアピール材料になります。

日本の企業は見込み採用で勉強に意味あり

そもそも、日本の大卒採用は、実績・成果を評価する採用ではなく、見込み採用です。見込み採用というのは、頑張ってくれそう、一緒に働けそう、うちの会社を儲けさせてくれそう、地道な作業をしてくれそう、なんとかしてくれそう…。

全部当てはまらなくても、どれか一つで十分。そうした見込みがあるかどうかを見ていくのが新卒採用です。

いや、うちの社は即戦力かどうかを重視する、という企業もあるでしょう。が、そうした企業は日本では少数派です。

リクルート就職みらい研究所「就職白書2019」によると、企業が採用基準で重視する項目は、「人柄」(92.2%)「自社への熱意」(74.8%)「今後の可能性」(66.9%)が上位を占めています。

企業が重視する採用基準(『就職白書2019』より)。右の赤字は学生が面接でアピールする項目。企業と学生の視点のすれ違いが明らか。
企業が重視する採用基準(『就職白書2019』より)。右の赤字は学生が面接でアピールする項目。企業と学生の視点のすれ違いが明らか。

付言すると「インターンシップ体験」は6.4%、「所属ゼミ・研究室」は5.4%でそれぞれ下位。ただ、「基礎学力」38.0%、「大学・大学院で身に付けた専門性」21.0%、「大学・大学院での成績」13.9%などを考えれば、日本の新卒採用は即戦力採用ではなく、見込み採用が継続していることを示しています。

見込み採用の見込みは色々ありますが、その一つが勉強です。大学の勉強が評価されることを考えれば、ゼミ合宿は企業からの見込みを高める手段の一つ、と私は考えます。

繰り返しますが、インターンシップか、ゼミ合宿か、どちらを選ぶかは学生次第です。

単に旅行に行くだけ、飲み会だけ、という程度なら無理にいく必要はないかもしれません。

が、鈴木教授のゼミは企業との協同研究を進めているとのこと。その一環のゼミ合宿であれば、仮に企業関係者やゼミ卒業生が参加していなかったとしても、結果的には、就活で得をする確率の方が高かった、と見ています。

大学・ゼミ担当教員はどうすれば良かったか

私が藤田教授のTwitterや記事で気になったのはこの部分。

私のゼミでは、夏休み中の8月か9月に合宿に行くことを計画していた。学生たちから「ゼミ合宿したい!」という希望が出たからだ。そこで、フィールドワーク調査ができそうな場所を探し始めた。

「北海道も捨てがたい」「山陰地方の村はどう?」「韓国行きたいです!」とゼミ生たちと話し合いながら、どこへ行くか計画をたてていた。彼ら彼女らは楽しみにしているようだ。

ところが、6月下旬、日程を決める段階になって、想定外のことが起こった。

日程調整を何回しても、3年生の大半の回答が「? (未定)」ばかり。

学生から希望が出ているのであれば、日程を早く決めれば良かったのではないでしょうか。

あるいは、「8月×週はゼミ合宿にあてる」と時期だけ先に決める。

あるいは、「6月▽週までにゼミ合宿の日程を決める」など決定時期を明示する。

で、いずれにしても「ゼミ合宿の参加は必須。インターンシップを理由とする不参加は認めないしそれでも欠席するならゼミの単位を認めない」くらい、強制力を出せば済んだ話ではないでしょうか。

これは別に私オリジナルのアイデアではありません。

駒澤大学のゼミでは

「参加義務を課すいくつかのイベントを示す。()内は義務づける根拠である。これらに参加しない場合、単位認定を行なわない」

として、そのうちの一つに7月下旬のゼミ合宿を挙げています。

これは他の大学でも聞いたことがあります。

ゼミ合宿ではありませんが、大学がよくとる教育プログラムとして留学があります。大学・学部によっては全員参加としています。

最初から日程が決まっているため、「留学か、インターンシップか」という話にはなりません。

ゼミ合宿も同じです。

最初から参加が必須(不参加なら単位不認定)と決めていれば、「ゼミ合宿か、インターンシップか」とはなりません。

ゼミ合宿の位置付けが曖昧である限り、藤田教授のゼミと同じ話は今後も起こり続けるでしょう。

私はゼミ合宿に一定の教育効果があるものと見ています。

そして、学生のためには、「参加が必須。不参加なら単位不認定」とはっきり道筋を示す方が結果的に就活につながる、と考える次第です。

追記(2019年8月2日16時33分)

記事中、藤田教授のお名前を「鈴木教授」と表記している部分がありました。お詫びして訂正します。

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計33冊・66万部。 2024年7月に『夢も金もない高校生が知ると得する進路ガイド』を刊行予定。

教育・人事関係者が知っておきたい関連記事スクラップ帳

税込550円/月初月無料投稿頻度:月10回程度(不定期)

この有料記事は2つのコンテンツに分かれます。【関連記事スクラップ】全国紙6紙朝刊から、関連記事をスクラップ。日によって解説を加筆します。更新は休刊日以外毎日を予定。【お題だけ勝手に貰って解説】新聞等の就活相談・教育相談記事などからお題をそれぞれ人事担当者向け・教育担当者向けに背景などを解説していきます。月2~4回程度を予定。それぞれ、大学・教育・就活・キャリア取材歴19年の著者がお届けします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

石渡嶺司の最近の記事