「革命的なセックスされたい」「死ね」女性襲う誹謗中傷が社会も破壊する理由
「死ね」「レイプされろ」「革命的なセックスをされたい」―引用するのもウンザリするような下品かつ攻撃的な暴言の数々。こうした罵詈雑言を毎日、何十、何百と投げつけられたら、精神的なバランスを崩してもおかしくはない。
リアリティ番組「テラスハウス」(フジテレビ系)に出演していた女子プロレスラーの木村花さんが自ら命を断ったことから、その深刻さが注目されるようになったネット上での誹謗中傷。ターゲットにされるのは芸能人だけではなく、社会・労働問題に取り組むジャーナリストや弁護士、研究者や市民運動家も日々凄まじい攻撃を受けており、特に女性に対しては、法や条例で処罰の対象になりうるような、攻撃的かつ卑猥きわまりない言動が投げつけられている。
だが、現状では誹謗中傷を行っている個人を特定し、訴えることのハードルは高い。今月9日、有志の弁護士やジャーナリストなどが「SNSにおける労働運動・社会運動に対するヘイト攻撃に対抗するネットワーク」(通称:SNSOS)を結成。政府に対し、発信者情報開示の簡略化やプロバイダ事業者への罰則強化などの対策を求めた。
◯誹謗中傷、被害を防ぐプロバイダ事業者の責任
繰り返し、集中的に投げつけられる罵詈雑言。やりたい放題のネット上での誹謗中傷に対し、裁判で対抗する機運が高まっている。最近では、ジャーナリストの伊藤詩織さんの反撃が話題となった。伊藤さんは、山口敬之元TBS記者から性行為を強要されたとして民事訴訟を起こし、一審で勝訴。山口元記者側が東京高等裁判所に控訴し、審理が続いている。その伊藤さんに対し、「売女」「枕営業」などの誹謗中傷がツイッターなどのSNS上で相次いだ。そのため、今月8日伊藤さんは特に悪質な投稿をしていた漫画家の女性、その投稿を拡散した男性2人に、合わせて770万円の賠償を求め、東京地裁に提訴した。
ただ、ネットの匿名性に隠れた加害者を特定し、その誹謗中傷に対し裁判を起こすことのハードルは高い。伊藤さんも賛同人となっているSNSOSは、政府への要請文の中で、
・プロバイダ責任制限法の4条に基づく「発信者情報開示請求」を行い裁判所の仮処分命令で、加害者のネット上の住所にあたるIPアドレスを開示する必要がある。
・その後、通常訴訟で本名や住所などを特定するには、「名誉毀損」「侮辱」等により権利が侵害されたことが明らかであることを立証しないといけない。
など、被害者側の金銭的・時間的な負担が大きいことを指摘。また、プロバイダ上の通信記録の保存期間が3カ月と短いことも壁になっているという。SNSなどを運営するプロバイダ事業者側の責任も重大だ。違法性の高い投稿に対し削除要請があっても、実際に削除されるまでに長いタイムラグがあることも、SNSOSは指摘。その要請文の中で、民事手続きによる被害者救済を無視し、削除等の要請に応えず被害者の不利益を拡大するプロバイダ事業者への罰則強化、発信者情報開示の簡略化などを求めている。
◯ものいう女性を集中的に攻撃
SNSで集中的に行われる誹謗中傷は、個人に対する人権侵害であるだけではなく、民主主義社会をも蝕み、破壊しうる危険性を持っている。ネット上での誹謗中傷の傾向として、女性叩きが顕著である。それらは声をあげようとする女性達を萎縮させ、その権利を封殺するものなのだ。会見では、SNSOS賛同人からネット中傷被害の事例が寄せられた。
職場における女性へのパンプスやヒールの強要をやめ、女性自身が選択できることを求める「#KuToo」を呼びかけた俳優の石川優実さんは書面で自身の受けた誹謗中傷を報告。「女性差別の問題として、#KuTooの活動を始めた時からSNSでの誹謗中傷が激しくなった。1年以上『詐欺師』とデマを流し続けられ、今年に入ってからは『死ね』『レイプされろ』などの言葉が増えている」「これは女性差別だと指摘したり訴えたりすると『誹謗中傷した、相手が死んだらどうするのか』『男性差別するな』と、たくさんのアカウントが黙らせようとする」(SNSOS会見資料より)。
反戦平和を呼びかける市民団体「許すな!憲法改悪市民連絡会」の事務局次長の菱山南帆子さんも書面で報告。「ツイッターを中心に『日本から出ていけ』『キチガイ左翼は消えろ』『革命的セックスをされたい』『この手の左翼は性欲が強い』などの攻撃を受けている」という(SNSOS会見資料より)。また、いわゆるネットウヨからの誹謗中傷だけでなく、「女の子なんだから優しい言葉を使おうと言われる」等、市民運動の中にも女性差別的な言動があることを指摘した。
格差、貧困問題に取り組む作家の雨宮処凛さんは会見に出席し発言。「ものいう女には、誹謗中傷で集団的リンチ。無法地帯になっている」「(攻撃してくる側の)殺意すら感じる」とSNSに蔓延する女性蔑視を憂いた。「日時を決めて特定の人に多くの人が大量のリプライを送るという『悪夢狩り』にあったことも」と、組織的な嫌がらせも行われていると指摘した。雨宮さんは安保法制が国会で審議されていた頃(2015年)、安倍政権へ異論を唱えていた若者達、特に女性が凄まじいネット上での嫌がらせにあっていた*ことに言及。「あの時、女の子達への誹謗中傷を止められなかったことが、今の状況にもつながっている。ネット上の誹謗中傷を許さないという動きが当時もっとあったなら、木村花さんも死ななくてすんだのかもしれない」と語った。
*関連記事↓
https://news.yahoo.co.jp/byline/shivarei/20151109-00051257/
◯よりよい社会をつくろうとする人々への攻撃
SNSOS発起人の一人で、日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)の南彰議長は「よりよい社会をつくろうとする人々や彼らによりそうジャーナリストへのヘイトに満ちた攻撃が酷い」「公権力や企業などの問題を隠し擁護する結果につながっている」と危惧する。SNSOS発起人の一人でジャーナリスト、そして和光大学名誉教授である竹信三恵子さんも会見で「労働組合を反社会的勢力だというレッテル貼りするネットのデマに、メディア幹部が影響を受け、労働問題を取り上げづらくなった」とネットでの誹謗中傷にメディア側も影響されていることを懸念。「メディア関係者もデマを鵜呑みにするのではなく、デマに対抗する情報を発信することが重要」と訴えた。
◯言論/報道の自由への権力の介入は避けるべき
一方で、誹謗中傷への対策強化が「言論の自由」「報道の自由」への国家権力による介入にならないようにすることも重要だ。SNSOSの要請文では「憲法21条で保障されている通信の秘密」だとして、プロバイダが持つ個人情報に、公権力が介在しないことの重要性を訴えている。また、「ツイッター・ジャパンをめぐっては十分な説明を行わずアカウント凍結を行っている疑いがあります」として、公権力や企業の不正などへの対するまっとうな批判の表現が恣意的に制限されないよう、プロバイダ事業者の説明責任強化も求めている。また、同様の理由で、「公益通報者保護の強化」、つまり善意の内部告発者の保護の強化も求めている。
SNSOSは、メディア関係者や学者、弁護士など現在50人程の賛同者がおり、今後も賛同人を募っていき、ネットの誹謗中傷の問題を考えるシンポジウムを企画したり、ネットの誹謗中傷に悩む人々への相談窓口などのサポート体制をつくることも視野に入れているという。誹謗中傷への法的な対応のハードルを下げることは、一歩間違えば言論の自由に悪影響を及ぼすことにもなりうるが、他方、組織的な誹謗中傷が声をあげようとする人々、とりわけ女性達の声を封じてきたという面もある。だからこそ、何が誹謗中傷であるか、それらにどのように対抗措置を取っていくか、誹謗中傷に苦しむ人々をどう救済するか等、議論を深めていく必要があるだろう。
(了)