外見至上主義社会を鋭く問う!望む美貌になれる「水」を手にしたヒロインの行き着く先は?
韓国発の長編アニメーション『整形水』は、単なるサイコスリラーと片付けられない、現代社会の歪みを辛辣に容赦なく映し出す1作だ。
タイトルの「整形水」は、顔を浸しただけで、自分の望む美しい容姿になれる奇跡の水。
作品は、この水を手にし、美にとり憑かれた女性の成れの果てを描く。
この作品で描こうとしたこととは?
手掛けた韓国のチョ・ギョンフン監督に訊く。(全三回)
いまウェブトゥーンがひとつの大きなビジネスモデルとなっている
はじめに本作の原作になっているのは、「ウェブトゥーン」と呼ばれるウェブコミックに掲載され、日本では「LINE マンガ」で独占配信中のオムニバス作品「奇々怪々」。韓国の若者の間では誰もが知る人気作だという。
監督はウェブトゥーンに関してこう語る。
「僕はウェブトゥーンを以前からよく読んでいました。
韓国でウェブトゥーンが一気に人気を獲得したのは、日本でもよく知られている
NAVERの存在が大きい。
NAVERがウェブトゥーンをいち早くサービスとして提供し始めたんです。わたしはその初期の段階から関心をよせていました。NAVERに掲載されていたウェブトゥーンを原作として、アニメをつくった経験も何度かあります。
ウェブトゥーンは、とてもコンテンツが充実しています。しかも、魅力的なものが多い。
最初にウェブトゥーンが登場した時の、ターゲットというのは年齢層が今よりは高かったと思います。20代から30代ぐらいのユーザーをターゲットにするものが多かった。
それが月日を経て、だんだんターゲットの年齢層が下がってきて、今は小学生も身近なものとして読むような時代になってきています。とはいっても、ほとんどは15歳以上が見られるような作品がつくられています。
それから、最近、ウェブトゥーンも有料化の波がやってきていて、経済力のある30代や40代をターゲットにした作品も、いま再び増えてきています。
韓国では、それぐらい幅広い年齢層から支持されるエンターテイメントであり、強い発信力のあるメディアのような存在になってきている気がします。
そこに新規参入してくるコンテンツもあって、競争力が高まり、そこにまた新たな資本が入り込んでいる。いまウェブトゥーンがひとつの大きなビジネスモデルとなっています。
この状況が続けば、また新たなものが生まれるかもしれません。
いずれにしても、それぐらい韓国でウェブトゥーンは浸透しているといっていいでしょう」
さきほど少し話がでたが、実はチョ・ギョンフン監督は、今回が長編アニメーション映画監督デビューになるが、これまでプロデューサーとして数多くのアニメーションで手腕を振るっている。
その中で、以前からウェブトゥーンで発表されるウェブコミックに注目。「奇々怪々」に関しては連載当初から読んでいたと明かす。
「今回の作品の原作となった『整形水』は、『奇々怪々』の中でも一番人気のエピソード。連載当初からとても楽しく読んでいました。
原作をご覧になればわかると思うのですが、とてもおもしろいウェブトゥーン作品で人気が出るのもうなずけました」
原作の強烈な魅力をいかしながら、映画に必要な物語性を強化することが必要
その映画化に自らが監督を務めて挑むことになった経緯をこう明かす。
「プロジェクトを企画したSS Animent 社のチョン・ビョンジンプロデューサーからの提案で、はじめは『奇々怪々』のテレビシリーズに携わっていました。
ただ、原作が中国市場で突如メガヒットした流れで長編アニメの映画化へと企画自体が変わりました。そこで、誰が監督をするのかという話になり、プロデューサーからの後押しもあって、最終的にわたしが監督を担当することに至ったというのが簡単な経緯です。
まず、映画化にあたってひとつクリアをしないといけなかったのが脚本です。
ウェブトゥーンという媒体の特性でもあるのですが、いずれも事件そのものとその結果がストーリーの中心になっています。
この事件から結果へ至るところまで一気に畳みかけるような速い展開の構成になっていて、これが魅力でもあります。
ただ、一方で、事件や結果以外の部分の要素が、たとえば登場人物の心情であったり、事件の背景にあることといった部分が少し省略されてしまったり、希薄に描かれていたり、というところがあります。
このウェブトゥーンならではの原作の強烈な魅力を損なわず、いかしながら、映画に必要な物語性を強化することが必要でした。ここはひじょうに難しいところでした。
そこでわたしとチョン・ビョンジンさんと、それから、映画界で脚本を書かれてきたイ・ハンビンさんに加わっていただき、いろいろなアイデアを出し合って、それを一つに集約して、今回の脚本が出来上がっていったんですね。
この作業を進めながら最後の最後で、わたしが監督を担当することが決まりました。本プロジェクトには最初から携わってきましたし、脚本についても深く関わってきました。短編アニメーションもいくつか監督したことがある。ならばわたしが適任ではないかということで監督を務めることになりました(笑)」
別人のように美しくなった人間が、その後に抱える心理的な副作用に重点
いざ監督をするとなって、まず重要視したことをこう語る。
「わたしが重点を置いたのは、さきほどの話にも少し重なるのですが、原作では『整形水』そのものが、かなり中心的な役割を担っていて、事件もやはり『整形水』を中心に、起こっていたんです。
でも、映画では、私はイェジを主人公として、あくまでもイェジを中心にストーリーを進めていきたいと考えました。
もう一つ、原作では『整形水』による副作用が引き起こす体の変化について非常に力をいれて表現されている。
ただ、わたしは映画では、『整形水』によってまったく別人のように美しくなった人間が、その後に抱える心理的な副作用に重点を置きたいと考えました。
そこで、イェジが、他人から浴びせられる視線だったり、その視線を浴びたことによって感じる恐怖やトラウマをしっかりと描いていこうと思いました。
原作にある事件はそのままなぞって、映画に取り込む。でも、あくまでもその事件そのものではなく、その渦中にいるイェジの喜怒哀楽を表現したかったんです。
ですから、いろいろなアイデアを出し合い、イェジの内面をうまく表現するために、過去のこともどんどん付け加えていって、いまの物語になりました」
(※第二回に続く)
「整形水」
監督:チョ・ギョンフン
東京シネマート新宿ほか全国順次公開中
写真はすべて(C)2020 SS Animent Inc. & Studio Animal &SBA. All rights reserved.