5年間で延べ2万6千人失踪 ― 外国人技能実習制度は異常すぎないか
・外国人労働者受け入れ議論で浮かび上がった闇
国会では外国人労働者の受け入れを巡って、論戦が繰り広げられている。その過程で、問題視されているのが、外国人技能実習制度である。
外国人労働者の受け入れ議論を進めるほどに、「日本で培われた技能、技術や知識を開発途上国から来た技能実習生に伝承」するという高尚な目的で実施されているはずのこの制度の「闇」が浮かび上がってきているのだ。
・2017年一年間で失踪者7千人、過去5年間の累計ではなんと2万6千人が失踪
法務省が今年(2018年)2月に発表した『平成29年に外国人の研修・技能実習の適正な実施を妨げる「不正行為」について』によれば、2017年に失踪した実習生は7千人を超し、2013年からの5年間では延べ2万6千人が失踪している。失踪する実習生の人数は、年々増加しており、2012年には2,005人だったものが、2016年には5,058人と倍増、さらに2017年には7,089人となり、異常な状況だ。
ちなみに2018年1月1日現在の不法残留者数は、6万6,498人に上り、前年同期比1.9%増である。この不法残留者数の約10%を占めるのが、技能実習生として入国した外国人であり、6,914人と前年同期比6.1%増となっている。
・27万人を超す外国人実習生
法務省の発表によれば、2017年末に日本に在留する外国人実習生は274,233人。実に27万人を超しているのだ。27万人というと、福井県福井市や新潟県長岡市、茨城県水戸市などの人口とほぼ同じだと言えば、その数の膨大さを理解できるだろう。
すでにこうした膨大な人数の外国人実習生が、日本の産業の多くの場面で生産や加工、サービスを支えていることになる。この点を理解することが、まず議論のスタートになる。
・問題の根源は、「言い換え」によるごまかし
この外国人実習生制度は1982年に出入国管理及び難民認定法の改正によって「企業単独型による外国人研修生の受け入れ」から始まっていることになっている。しかし、この時には各企業が発展途上国に進出する際に現地従業員を雇用するが研修をする場がなく、一時的に日本国内の工場などで研修を行うことが大半だった。つまり、国内工場での実習研修が終われば、海外工場での従業員として帰国することが前提だった。
その流れが大きく変わったのは、1990年の団体管理型による外国人研修生の受け入れの開始、さらに1993年の研修1年間に加えて技能実習の1年間、合計2年間の在留を認める「技能実習制度」の施行である。
1985年の円高不況が早期に収束すると、空前の好景気であるバブル景気を迎える。その結果、若者の製造業離れ、3K(きつい (Kitsui)、汚い (Kitanai)、危険 (Kiken))職場離れが急速に進み、産業界は人材確保のために外国人労働者導入を政府に求める事態となった。
しかし、「外国人労働者」の導入には、時期尚早だとする意見が強く、折衷案として「言い換え」による導入が行われたのだ。つまり、日本政府はあくまで「外国人単純労働者」の導入は行わない。しかし、「外国人実習生」として、実質的には外国人労働者の導入を行ったのである。
ここで大きなごまかしが行われた。現実には、国内の単純労働力不足に対応するものであったにも関わらず、「日本で培われた技能、技術や知識を開発途上国から来た技能実習生に伝承し、当該開発途上地域等の経済発展を担う人づくりに寄与する」という崇高な目的が掲げられたのである。
「労働者」であるにも関わらず、「労働者ではない」という存在を作り上げてしまったことは、今までも多くの多くの批判があった。しかし、「雇用に困っている中小企業いじめだ」という意見や、法務省、経済産業省、厚生労働省、外務省などの権益が複雑に絡み合い受け入れを管理する団体が、「公的ピンハネ屋」と揶揄されるような構造に育って行ったことが、問題を隠蔽されてきた理由の一つである。
・逃げ出す実習生だけが悪いのか
法務省の『平成29年に外国人の研修・技能実習の適正な実施を妨げる「不正行為」について』には、受け入れ機関側の問題も指摘している。2017年に不正行為を指摘された機関は、213団体。2015年の273、2016年の239からは減少しているとはいうものの、これだけ多くの機関が不正行為を行っている。
その不正行為の件数は、一つの機関が複数の不正行為を行っているケースもあり、299件に上る。この中で最も多いのは、全体の50%を占める労働時間や賃金不払等に係る労働関係法令の違反に関する「不正行為」である。
賃金の未払いや最低賃金以下の支払いしか行わないなどの不正行為が行われるケースが多い。中には時給300円というケースも紹介されている。さらには、「暴行・脅迫・監禁」の事例もある。
建設業者がベトナム人実習生に対して、暴行を行う動画がネット上で公開されて、話題になったケースのほか、自殺などの事例も少なくない。
「これでは奴隷制度ではないですか。」と居酒屋で知り合った中国人実習生から、低賃金や長時間労働の実態を聞き、中国人留学生が驚いていたこともある。このように外部で話をすることで異常な低賃金や劣悪な労働条件が漏れることを恐れてか、外出の制限などを行う事例もある。
大量の失踪を発生させている原因には、こうした悪質な受け入れ団体や受け入れ企業の存在がある点も大きな問題だ。
・限界にきている実習制度
こうした問題の多さから2016年に実習制度の改正が行われた。2017年11月から施行された「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」では、人権侵害行為などに対する罰則などの整備や、「外国人技能実習機構」の創設による審査や認可の厳格化が行われるようになった。
しかし、あくまで「実習生」である。いつまでも言い換えでごまかすのは止めて、外国人労働者制度に統一し、きちんと「労働者」としての権利擁護を行うべき時期にかかっている。
1980年代末から1990年代の「研修生・実習生」制度を導入した時期とは、日本を取り巻く経済環境は大きく変化している。低賃金労働者を発展途上国、開発途上国に求めることができた当時から、すでに工業化が進み、雇用の場が増加し、賃金も上昇しているそれらの国々から労働者を求めなくてはいけない現在を同じ制度で乗り切れるとは考えられない。
外国人労働者の受け入れに反対し、この実習制度を継続させることには賛成するのでは大きな矛盾である。そのようなことでは、労働者を労働者ではないと言い張り、人権や労働者の権利を認めない国として存在してしまうことになる。すでに悪評は広がりつつある。このままでは、将来の外国人労働者確保にとって、大きな障害となる。
・すでに外国人実習生=低賃金労働者ではない
「実習生の手取りは10万円程度。しかし、企業側は監理団体などに月額にして10万円程度を支払わなければならず、結局、月額20万円以上かかる」ある受け入れ団体の職員は、そう説明する。低賃金労働者が確保できると考える経営者は、そのコストの高さに驚く場合もあるという。さらに、「トラブルになるのは、実習生側は月に10万円しかもらっていない。一方の企業側は20万円近く支払っている。その意識のギャップが、双方の不満になってぶつかることがある」と言う。
・独自の動きをする中小企業も
こうした実情と、外国人労働者の受け入れ緩和の方向を受けて、中小企業の中には、独自に海外の大学や専門学校に日本人と同等の給与や待遇で「正社員」としての求人をかける動きも出てきている。
30年以上も前の制度をつぎはぎして存続させるのではなく、諸外国の制度も参考して、外国人労働者の受け入れ制度を確立する時期に来ている。
※参考資料
・平成29年末現在における在留外国人数について(確定値)・法務省