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塩崎厚生労働大臣、「残業代ゼロ」法案は「ぐっと我慢して頂いてですね、まあとりあえず通す」と発言

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長

塩崎厚労相いわく「とりあえず通す」

塩崎恭久厚生労働大臣が、いわゆる定額働かせ放題(=残業代ゼロ)法案について「とりあえず通す」と言っていたことは数日前から話題となっていました。

厚労相「とりあえず通す」 残業代ゼロの労基法改正案 経営者向け会合で

しかし、こうした発言について、言ったのか、言ってないのか、やや曖昧なところがありました。

ところが、録音されていたものがあったんですね。

テープ暴露…塩崎厚労相が残業代ゼロ法案「とりあえず通す」

録音されていたものの問題箇所の書き起こしがこちらです。

菅俊治弁護士のフェイスブックの画像より
菅俊治弁護士のフェイスブックの画像より

画像だと読みにくい場合は、以下のテキストでお読み下さい。

高度プロフェッショナル制度はまあ、1千万円以上もらっている人って、実は働いている人の4%くらいしかいないんですね。そのうちの1・5%は役員ですから、残り2・5%でそれも希望者だけとなればものすごく少ないところでスタートするんですけど、まあ、我々としては小さく産んで大きく育てると! いう発想を変えて、まあ、時間法制ではかからない、労働時間法制はかからないけど、健康時間ということで別の論理で健康はちゃんと守って、だけどむしろクリエイティビティを重んじる働き方をやってもらうということで、まあ、とりあえず入っていくので、経団連が早速1075万円を下げるんだといったもんだから、すったもんだが、ま、あれでまた、まあ質問がむちゃくちゃきましたよ。

ですから皆さん、それはぐっと我慢して頂いてですね、まあとりあえず通すことだと言って、ご理解いただけると合意してくれると大変ありがたいと思っています。

まだ、録音されたものはアップされていないようですが、いずれアップされるかもしれません。

音源を入手したのでブラック企業被害対策弁護団のページにアップしましたので、ご確認ください。(2015.4.29 14:48追記)

音声をよく聴くと「すったもんだ」は「ま、あれでまた」に聞こえますね。(2015.4.29 16:02追記)

また、「ご理解いただけると」は「合意してくれると」に聞こえますね。(2015.4.29 23:14追記)

塩崎大臣の本音が漏れた?

この発言、経営者の会合(日本経済研究センターの「会員会社・社長朝食会」)でのものというのが、まず押さえておく前提です。

そこで、大臣は、まず、今回の高度プロフェッショナル制度は対象者が少ないところでスタートすることを述べています。そして、続けて、

まあ、我々としては小さく産んで大きく育てると! いう発想を変えて

と発言されています。

これは、要するに、これまでは「小さく産んで大きく育てるという発想」だったことを自白しつつ、今回はそれを変えて、

まあ、時間法制ではかからない、労働時間法制はかからないけど、健康時間ということで別の論理で健康はちゃんと守って、だけどむしろクリエイティビティを重んじる働き方をやってもらうということで、まあ、とりあえず入っていくので

と発言されます。

話し言葉なので、意味が取りにくいところもありますが、読み解くと、労働時間法制の規制はかからないけれども、「健康時間」という別の論理で健康はちゃんと守って、とりあえず入って行く(ここで「入って行く」というのは制度を導入するという意味でしょう)、と述べられておるわけです。

今回の法案の健康確保措置は、ザルというには、ザルに失礼なくらい、穴だらけなのですが、それについては下記をご覧ください。

1日24時間働くのと、1年360日働くのと、どっちがいい?~残業代ゼロ制度の笑えない「健康確保措置」

とにかく、塩崎大臣は、「とりあえず入って行く」ことが大事だと述べているのですね。

そして、

経団連が早速1075万円を下げるんだといったもんだから、すったもんだが、ま、あれでまた、まあ質問がむちゃくちゃきましたよ。

と、経団連のエライ人が余計なことを言うもんだから、反対派から質問がむちゃくちゃ来たじゃないかよ!と愚痴を言い、

続けて、

ですから皆さん、それはぐっと我慢して頂いてですね、まあとりあえず通すことだと言って、ご理解いただけると合意してくれると大変ありがたいと思っています。

と述べられているわけです。

つまり、とりあえず通すためには、対象が少ないだとかは今は「ぐっと我慢して頂いて」黙っていてほしい、と塩崎厚労大臣はおっしゃられているわけです。

きっと、塩崎大臣は、経済界から、狭いぞ!適用対象を拡げよ!という発言があるたびに、内心として、「ちっ。余計なことを言うなよ。まずは、通すことが大事だろ」と思っていたのだろうと推察されます。

塩崎大臣の立場であれば、法案反対の声に油を注ぐような経済界の発言は邪魔でしょうがない、という思いを抱くのも当然ですよね。それがつい本音と混じって、今回のこの発言に表れてしまったのでしょう。

この発言の中の「我慢して頂いて」というところに、塩崎大臣のにじみ出る本音があると思います。

続けて、「とりあえず通すことだ」となるわけですからね。

なかなかに味わい深い発言なのです。

国語力の問題?

塩崎大臣の弁解は、「国語力の問題」ということのようですが、しかし、通常の国語力で理解する限り、一連の発言は、塩崎大臣が経営者に向かって、とりあえず法案を通すから、それが大事だから、今はそれを理解してください、大人しくしていてください、と言っているように読めるわけです。

これをさらに読解すれば、通してしまえば、あなた方にとって有利なものだから、我慢してくださいね、ということだと思います。

さて、この発言を受けて皆さまはどう思われますか?

ちなみに、この「定額働かせ放題」法案については反対の電子署名をやってますのでよろしくお願いします。

「定額働かせ放題」法案の撤回を求めます!

また、マンガで法案の問題点を解説した動画もあるので、併せてご覧ください。

(フルバージョン)

(ショートバージョン)

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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