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『やすらぎの郷』 倉本聰と中島みゆきのドラマ出演に、武者小路実篤が朝ドラに出ていたことを思う。

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

帯ドラマ劇場『やすらぎの郷』(テレビ朝日 月〜金 ひる12時30分  再放送 BS朝日 朝7時40分〜)

第14週 7月6日(金)放送  70話より。 

脚本:倉本聰 演出:藤田明二

※これは、人気の昼の帯ドラマ『やすらぎの郷』を連続でレビューする企画です。

かつて、テレビ業界に多大な貢献をした人々だけが入れる特別な老人ホーム〈やすらぎの郷 La strada〉に入居した老人の男女が繰り広げる悲喜劇を描く連続ドラマ。

14週の後半は、覆面作家・濃野佐志美の正体が井深凉子(野際陽子)だったことが、ついにマロ(ミッキー・カーチス)や大納言(山本圭)にバレてしまい、その流れで〈やすらぎの郷〉中に拡散してしまった(ドラマでは「おおらかに広まった」という表現になっている)。

前回のレビューで、作家や俳優の業について書いた。松居一代、市川海老蔵、『やすらぎの郷』の野際陽子…なぜ、俳優は、実人生と仕事を密接に結びつけるのか70話での井深凉子も、かなり作家の業を見せる。菊村(石坂浩二)とマヤ(加賀まりこ)の間で語られた人生最後の手紙の話を早くも作品化しようとしていていたのだ。

覆面で小説を書くことに意義を感じていたという井深の屈折も興味深いが、話題はなんといっても、謎の車椅子に乗った男性と押している女性夫婦の正体であろう。

倉本聰と中島みゆきが夫婦役で登場

ドラマに脚本家の倉本聰と主題歌担当の中島みゆきが出ている! と視聴者が沸いたのは、まず、6月29日(木)のことだった。

ホームの人々は、NHKの「みんなの体操」に似た「やすらぎ体操」を毎日している。29日放送の64話では、その「やすらぎ体操」をみんなが行っているところに、ダンディな男性が女性に車椅子を押されている場面があった。それが、倉本聰と中島みゆきだと話題に。

ふたりには、5年前に入居した夫婦という設定もあるらしい。テレビの脚本家(菊村のライバルになってしまうが)と主題歌をたくさん歌ってきたミュージシャンという設定なのだろうか。

それから1週間後、70話で、またしても、倉本聰と中島みゆきが登場。初登場より長い時間映っていた(なぜか、中井竜介〈中村龍史〉のMCのときに出る)。帽子をかぶって、タバコを吸って、とてもかっこいい倉本聰と、かいがいしく世話をする中島みゆき。正直、あまり夫婦には見えないが(すみません)、俳優を生業にしてないから仕方ない。だが、いるだけで大物感が不必要なまでに漂ってくるのは、さすがだ。

このふたりを、入居者のひとり・三角(山谷初男)が、じっと観ているところも面白い。

作家がカメオ出演している作品

さて、こういった、作り手が自作のドラマや映画に出るケースはままある。

古くは、ヒッチコック監督。邦画だと、三島由紀夫は『純白の夜』(51年)、『不道徳教育講座』(59年)、『憂国』(66年)などに出ている。

『やすらぎの郷』主演の石坂浩二つながりだと『犬神家の一族』(76年)に横溝正史が出ている。

近年になると、『カイジ2』(09年)に、作者・福本伸行、『海月姫』(14年)の東村アキコ、『破門』(17年)の黒川博行など。

京極夏彦は『姑獲鳥の夏』(05年)に出演、また、アニメ『魍魎の匣』(08年)で声優としても参加している。

ドラマでは、松本清張が、土曜ドラマ『松本清張シリーズ』(75年)に、真山仁が、『巨悪は眠らせない』(16年、テレビ東京)に。

文士劇というものがあるように、もともと作家には、芝居っ気がある人が多いのだろう。

演劇では、作家が出演することは多く(唐十郎、野田秀樹、三谷幸喜、松尾スズキ、宮藤官九郎、岩井秀人など)、作家が一番作品の世界(リズムなども含め)をわかっているからこそ、稽古初めに”作家本読み”というものを行うこともある世界なのだ。

そんな中で、『やすらぎの郷』が帯ドラマの先駆者として意識しているであろう、NHKの連続テレビ小説こと朝ドラでも、作家が出ているものがある。1963年、第3作『あかつき』だ。235話に原作者の武者小路実篤が出ている。この時代の映像はあまり残ってない中で、これはNHK 公開ライブラリーにて公開されているので、観てみた。

まず、タイトルの字も武者小路実篤先生によるものだった。先生は、主人公(佐分利信)の恩師役で登場、お正月、主人公の家を訪れ、絵と文を色紙に書いたり、自作を朗読したりして、主人公家族を感動させる。本の朗読は、滑舌があまりよくなく(保存された映像の劣化のせいかもしれないが)、聞き取り辛いのだが、絵や書や、その居住まいには、オーラがあって、ありがたい気持ちになる。きっと当時、ドラマを観ていた人も、感動にふるえていたに違いない。

ちなみに NHKは、1952年から1986年まで、作家の自作朗読の収録を行っていて、「よみがえる作家の声」として放送したこともある。そこには武者小路実篤のものもあったそうだ。

倉本聰と中島みゆきの登場も、なんだか、心が沸き立つ。どうやら、まだこれからも出るらしい。

倉本聰はいまのところ台詞がないが、口を開くことはあるだろうか。

2022年9月17日追記:朝ドラ『芋たこなんきん』最終回に田辺聖子とその秘書が登場している。タイトル文字も田辺聖子によるもので『あかつき』を踏襲しているように感じる。

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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