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ウクライナ軍「ロシアにはイラン製軍事ドローンがまだ300機残っており、さらに数千機を購入する」

佐藤仁学術研究員・著述家
ウクライナ軍によって破壊されたイラン製軍事ドローン(写真:ロイター/アフロ)

「ウクライナ軍はイランの軍事ドローンを撃墜する方法もわかっています」

2022年2月にロシア軍がウクライナに侵攻。ロシア軍によるウクライナへの攻撃やウクライナ軍によるロシア軍侵攻阻止のために、攻撃用の軍事ドローンが多く活用されている。また民生用ドローンも監視・偵察のために両軍によって多く使用されている。

2022年9月からはイラン政府が提供した攻撃ドローン「シャハド136(Shahed136)」と「マハジェル6(Mohajer6)」を頻繁に使用している。さらに最近では「シャハド136」よりも搭載している爆弾量が少ない攻撃ドローン「シャハド131(Shahed131)」も使用してウクライナ軍だけでなく、キーウの民間施設や一般市民も標的にして攻撃していると報じられている。ロシア軍はウクライナ攻撃と欧州からの軍事支援阻止のためにキーウに近いベラルーシにもイラン製軍事ドローンを配置すると報じられている。

そして2022年10月にウクライナ軍は「ロシアにはまだ約300機のドローンが残っています。さらにロシア軍は数千機のドローンを購入する予定があります」と公式SNSで伝えていた。さらに「ウクライナ軍はイランの軍事ドローンを撃墜する方法もわかっていますし、現在研究しています」とロシア軍によるイラン製軍事ドローンの攻撃に対抗していく構えも示していた。

2022年7月からイラン政府がロシア軍に軍事ドローンの提供で協力している。米国の国家安全保障担当大統領補佐官のジェイク・サリバン氏は2022年7月11日にホワイトハウスの記者会見で、イラン政府がロシア軍に対してウクライナ紛争で使用するためのドローン数百台を提供する可能性があると語っていた。イランは7月からロシア軍に攻撃ドローンの訓練も行っていた。米国のシンクタンクの戦争研究所は、イラン政府がロシア軍に対してイラン製の攻撃ドローン「シャハド129(Shahed129)」を46機提供しているとの調査結果を発表していた。米国CNNの報道によると、ロシア軍はイランでウクライナでの戦闘のために、イラン政府が提供した攻撃ドローンの操縦訓練を行っている。CNNによるとイラン製の攻撃ドローン「シャハド129(Shahed129)」のほかにイラン製の監視・偵察ドローン「サーエゲ(Shahed Saegheh・Shahed191)」もロシア軍に提供されるということだった。

ロシアのプーチン大統領は2022年7月19日にイランを訪問し、最高指導者ハメネイ師、ライシ大統領と会談していた。ハメネイ師はイランとロシアの中長期的な協力関係をプーチン大統領に呼び掛けていた。2022年8月には米国国防総省のパット・ライダー報道官は「イランの飛行場からロシアに向けて軍事ドローンが輸送された。ロシア軍はイラン政府からイラン製の軍事ドローン数百機をこれから調達する予定。入手した情報によると、今回輸送されたイランの軍事ドローンはすでに多くの不具合(numerous failures)が生じている」と語っていた。

2022年9月からイラン製のドローン「シャハド136(Shahed136)」と「マハジェル6(Mohajer6)」がウクライナでの攻撃に使用されるようになった。ロシア軍が以前に使っていたロシア製の軍事ドローンに代わって多くのイラン製ドローンで攻撃を行っており、ウクライナ軍によっても迎撃された写真や動画も公開されている。また2022年9月にウズベキスタンで開催されていた第22回上海協力機構首脳会談で、イランのライシ大統領とロシアのプーチン大統領は会談し、NATOの脅威は欧州だけでなく世界共通の脅威であると語っていた。2022年10月には首都キーウへの攻撃ではミサイルだけでなくイラン製の軍事ドローンが使用されて、国際人道法(武力紛争法)の軍事目標主義を無視して軍事施設だけでなく民用物や、文民たる住民までが標的になっていると報じられている。ウクライナ軍によって多くのイラン製ドローンが迎撃されて破壊された残骸をSNSなどで公開して世界にもアピールしている。

イスラエルも強い関心を示すイラン製軍事ドローン

イランの兵器のほとんどは1979年まで続いた王政時代にアメリカから購入したもので、現在はアメリカとの関係悪化による制裁のためアメリカから購入できないので、特にドローン開発に注力している。イランの攻撃ドローンの開発力は優れており、敵国であるイスラエルへも飛行可能な長距離攻撃ドローンも開発しており、イスラエルにとっても脅威である。イスラエルのガザ地区の攻撃の際にはパレスチナにドローンを提供してイスラエルを攻撃していたと報じられていた。またイランでは開発したドローンを披露するための大規模なデモンストレーションも行ってアピールもしていた。

イラン製の軍事ドローンはロシア軍のウクライナ侵攻のために開発されたものではなく、イランにとっては敵国であるイスラエルを標的にして使用することを念頭に開発されたものだ。そのためロシア軍がウクライナで使用しているイラン製の軍事ドローンの攻撃力、破壊力についてはイスラエルのメディアも強い関心を示している。

イスラエルはロシア・ウクライナそれぞれとの関係を考慮してウクライナ紛争については中立であり、表面上は冷静である。ウクライナのゼレンスキー大統領がユダヤ人ではあるが、決してウクライナだけに肩入れもしていない。イスラエルには戦後に主に欧州やソビエト連邦(ロシア)からのユダヤ人らがやってきた。ロシアから来たユダヤ人、ウクライナから来たユダヤ人がイスラエルには多くいる。彼らは自分たちや祖先が住んでいた国を支援しているわけではない。例えばポーランドやリトアニア、西欧諸国からイスラエルに来たユダヤ人の多くは今回の紛争ではウクライナに同情的だ。ロシアから来たユダヤ人はロシア人から迫害、差別されていたし、ウクライナから来たユダヤ人はホロコーストの時代にはナチス・ドイツだけでなく多くのウクライナの地元住民も殺害に加担していたこともありロシアやウクライナに対する感情もそれぞれの出自や家族の経験によって複雑である。

ナチスドイツの親衛隊は誰がウクライナ人で、誰がユダヤ人かの区別がつかなかったので、地元のウクライナ人らにユダヤ人狩りをさせて連行させ、射殺させた。ウクライナでは根強い反ユダヤ主義が歴史的に続いていたため、多くのウクライナ人がナチスドイツに協力したし、ナチスドイツの命令を断ることができなかったウクライナ人も多かった。そしてホロコースト時代最大の大量虐殺と言われているバビ・ヤールでは3万人以上のユダヤ人が射殺されたが、このような組織的大量虐殺も地元のウクライナ人の協力があったから遂行できた。そのためホロコースト時代にウクライナに住んでいたユダヤ人にとっては、ナチスドイツの手先となってユダヤ人殺害に加担していたウクライナ人は大嫌いで思い出したくもないという人も多い。当時の生存者らの多くが他界しているが、生存者らの経験や証言はデジタル化されて今でも語り継がれている。

このようにイスラエルのユダヤ人と言っても決して一枚岩ではなく、ウクライナとロシアに対してそれぞれの複雑な思いがある。だがイラン製の軍事ドローンの本来の標的はイスラエルのユダヤ人であるため、多くのイスラエルのユダヤ人がイラン製の軍事ドローンの攻撃力、破壊力とロシアへの提供の動向には高い関心が集まっている。

▼イラン政府からロシア軍に提供された攻撃ドローン「シャハド136(Shahed136)」

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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