JRA賞の各賞を検討しつつ、2019年・競馬界のニュースを振り返る
リスグラシューやアーモンドアイほか、古馬牝馬が活躍
2019年の競馬界も色々な事がありました。大晦日の今回は、JRA賞の各賞に思いをはせつつその一部をいくつか取り上げて振り返ってみようと思います。
まずいきなりですが、有馬記念から。当初香港へ遠征する予定だったアーモンドアイ(牝4歳、美浦・国枝栄厩舎)が熱発により海外を回避。グランプリに駒を進めてきた。現役最強馬とも目される彼女の参戦で大いに盛り上がったドレームレースだが、終わってみれば彼女は9着に沈んでしまった。代わりに主役の座を奪ったのはリスグラシュー(牝5歳、栗東・矢作芳人厩舎)。同馬はこれで宝塚記念(G1)からオーストラリアのコックスプレート(G1)を挟み実にG1を3連勝。自らの力で年度代表馬の座をも引き寄せたといって良い勝利を記録した。
古馬牡馬は混沌とした状況
勝者も敗者も牝馬が主役だったといえる有馬記念以外でもディアドラ(牝5歳、栗東・橋田満厩舎)やラッキーライラック(牝4歳、栗東・松永幹夫厩舎)など古馬は牝馬の活躍が目立ったが、逆に牡馬勢は果たして混沌としてみせた。そんな中、インディチャンプ(牡4歳、栗東・音無秀孝厩舎)が安田記念(G1)とマイルチャンピオンシップ(G1)を制し、ウインブライト(牡5歳、美浦・畠山吉宏厩舎)はいずれも海の向こうでクイーンエリザベス2世カップ(香港G1)と香港カップ(香港G1)を優勝。この両頭が最有力か。他ではフィエールマン(牡4歳、美浦・手塚貴久厩舎)やスワーヴリチャード(牡5歳、栗東・庄野靖志厩舎)などが主要G1を勝っているし、メールドグラース(牡4歳、栗東・清水久詞厩舎)やグローリーヴェイズ(牡4歳、美浦・尾関知人厩舎)に至っては海外でG1を優勝している。しかし、どれもその勝利が一発で最優秀4歳以上牡馬に選出されるだけのインプレッションがあったかというと少々疑問符がつかざるをえない。
3歳牡馬が群雄割拠、牝馬は一騎討ちか?
抜けた存在がいないという意味では3歳の牡牝も同様だ。牡馬は皐月賞(G1)を勝ち有馬記念(G1)でも2着したサートゥルナーリア(牡3歳、栗東・角居勝彦厩舎)が最有力かと思えるが、ダービーという大きな勲章を持つロジャーバローズ(牡3歳、栗東・角居勝彦厩舎)、菊花賞(G1)勝ちに有馬記念(G1)3着の星もあるワールドプレミア(牡3歳、栗東・友道康夫厩舎)、日本と海外でもG1を制したアドマイヤマーズ(牡3歳、栗東・友道康夫厩舎)、更にウルトラCとしてはチャンピオンズC(G1)などダートで無敗を誇ったクリソベリル(牡3歳、栗東・音無秀孝厩舎)も無しではないだろう。
一方、牝馬はグランアレグリア(牝3歳、美浦・藤沢和雄厩舎)とラヴズオンリーユー(牝3歳、栗東・矢作芳人厩舎)の一騎討ちだろうか。前者は桜花賞(G1)に加え古馬の牡馬を相手にした阪神カップ(G2)では2着に5馬身もの差をつけて圧勝。後者は4連勝でオークス(G1)を制すと一頓挫明けのエリザベス女王杯(G1)でも見せ場たっぷりに3着と好走。ここは票が割れても不思議ではなさそうだ。
2歳牡馬も一騎討ちが濃厚
票が割れるといえば2歳牡馬もそうなりそうだ。朝日杯フューチュリティS(G1)を制したサリオス(牡2歳、美浦・堀宣行厩舎)とホープフルS(G1)を勝ったコントレイル(牡2歳、栗東・矢作芳人厩舎)は共に3戦3勝。1回のコースレコード勝ちを記録しているところまで同じ。こうなると後は投票者の好みやイメージになるのだろうか。
これに対し2歳の牝馬はG1が一つ、阪神ジュベナイルFしかないのだからオートマティックにその勝者・レシステンシアを選出すべきだろう。JRA賞の選考規定にそのような文言が書かれているわけではないからどの馬に投票するかは選者の自由であり、そのためたまにこのレースに負けてもそれまで連戦連勝できた馬に少なからず票が入る事がある。しかし、我々は何も選者がどの馬が強いと思っているのかといった予想を聞きたいわけではない。結果を残した馬を素直に評価すべきだと思うのだが、間違っているだろうか……。
海の向こうで活躍した人馬たち
さて、ここまではJRA賞を中心に記してきたが、他にも様々な事が思い起こされる。勝つたびにレコードを更新し続ける武豊騎手は通算4100勝を突破してみせた。C・ルメール騎手は前年の200勝超えには及ばなかったものの3年連続でのリーディングジョッキーを獲得した。安田隆行調教師が60歳を超えてから初のリーディングトレーナーとなったのも素晴らしいし、2歳、3歳、古馬、国内外でG1を優勝した矢作芳人調教師の偉業も驚異的と言っても大袈裟ではないだろう。
個人的には海外の取材が多く、日本馬が制した8つのG1も全て立ち会わせていただくという僥倖に恵まれた。中でもナッソーS(英G1)をディアドラが、コックスプレート(豪G1)をリスグラシューがそれぞれ先頭でゴールを駆け抜けた瞬間は感慨深いものがあった。どちらも日本では決して知名度の高いレースではないかも知れないが、この世界に身を置く人間なら誰もが知る価値のあるレース。前者は日本馬には向かないと思えたグッドウッド競馬場にもかかわらず初出走でいきなり優勝。後者はオーストラリアでは数々の名馬が勝者として名を残してきた伝統のG1を優勝出来たという点で感動した。また、同時に一昔前の猫も杓子も凱旋門賞という頃と比べ厩舎関係者の意識の変化を強く感じる事の出来る遠征だった点で時代の流れをひしと感じる事が出来た。それもこれらのレースが印象に残った要因である。
そしてもう一つ、印象的だったのは藤田菜七子騎手のスウェーデンでの勝利だ。現地時間6月30日、スウェーデンのブローパーク競馬場で行われたウィメンジョッキーズワールドカップに招待された藤田は2鞍目で自身の海外初勝利をマークすると第5戦にも優勝。世界中から呼ばれた10人の女性騎手で争われたシリーズの総合優勝を決めてみせた。
彼女の海外遠征には過去にもイギリス、アブダビ、マカオなどに帯同。なかなか勝利する事は出来ず、唇を噛んで項垂れるシーンにも幾度となく立ち会ってきた。初めて訪れたイギリスなどは騎乗を予定していた馬がパドックで暴れて放馬し、幻の海外初騎乗となってしまった。そんな場面も見てきただけに、このスウェーデンでの優勝劇は感激も一入だった。彼女はその後、イギリスのシャーガーカップにも選出された。また、12月8日にはコパノキッキング(騙4歳、栗東・村山明厩舎)を駆ってカペラS(G3)を優勝。JRAの女性騎手として史上初めて重賞も制してみせた。来年はまた今年以上の活躍が出来るよう、応援したいものだ。
さて、この文字数では書き切れない事ばかりなのでかなり端折らせてもらったが、簡単に2019年の競馬界を振り返った。来年はまた今年以上に感動出来る数々の場面に世界中で立ち会える事を期待したい。
(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)