男女8人を吊し上げの刑…北朝鮮が手を焼く「若者の乱れ」
北朝鮮では毎年8月28日は青年節だ。これは、故金日成主席が1927年のこの日に朝鮮共産主義青年同盟を結成したことに由来する。この日を前後して、骨折り損に終わることが明白な無駄な取り締まりが始まった。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋は、青年説を迎え、成川(ソンチョン)郡の社会主義愛国青年同盟は、25日と26日の両日、韓国式の言葉遣いやアクセントを真似する若者に対する検閲(取り締まり)を行ったと伝えた。これは、社会主義守護戦の先頭に立つべき若者の間に南朝鮮(韓国)指揮資本主義思想が浸透しているとして、これを根絶やしにせよとの中央の指示に基づいて行われたものだ。
取り締まりは、韓国風の言葉遣いをしている青年同盟のメンバーの名前を紙に書いて出すという、密告方式で行われた。成川機械工場では女性5人、男性3人の名前が挙げられ、8人は27日、工場内の会館で思想闘争会議の舞台に立たされた。つまり、吊し上げに遭ったということだ。
(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…)
8人は、ボーイフレンドを「ナムチン」、ガールフレンドを「ヨチン」と呼ぶ韓国式の言葉を使ったとして自己批判をさせられた上に、様々な人から次々に批判の言葉を浴びせかけられた。
平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋は、龍川(リョンチョン)郡の工場と農場でも同様の取り締まりが行われたと伝えた。
辰興(チヌン)労働者区の灌漑管理所では、男性の同僚を「オッパ」と呼んだ女性、ガールフレンドに「チャギヤ」と呼びかけた男性、韓国風のヘアスタイルをしていた女性など、5人が見せしめとして厳しい批判にさらされた。
思想闘争会議の司会を務めた灌漑管理所の初級党書記は、南朝鮮の言葉、アクセントを真似したり、韓国風のファッションに身を包んだりしたことが発覚すれば、反動思想文化排撃法で労働強化刑(懲役刑)に処されると警告した。
しかし、「オッパ」は、妹が兄を呼ぶ時に使う、北朝鮮の辞書にも出ている言葉だ。若者の間からは「これのどこが南朝鮮式言葉遣いなのか」を不満の声が上がっている。
ただ、「オッパ」を女性が他人の年上の男性を呼ぶ時に使えば韓国式になるため、「オラボニ」の方がふさわしいとのことだ。また、「ナムチン」は「ナムドンム」、「ヨチン」は「ニョドンム」が北朝鮮政府推奨の呼称だ。
ここで注目すべきは、取り締まりが平壌、咸興(ハムン)、清津(チョンジン)と言った大都市や、新義州(シニジュ)など外国と国境を接している都市ではなく、農村部で行われたことだ。
韓流ドラマや映画、バラエティ番組のデータが入ったUSBメモリやSDカードは、中国を通じて北朝鮮に流入し、流通網に乗って全国に広がっていく。誰でも手が出せるほど安価なものではないが、相対的に可処分所得の少ない農村部でも、それらが広がっているということを、今回の取り締まりは示唆している。
北朝鮮当局は、2000年代初頭からこの手の取り締まりを繰り返し行っているが、根絶やしにできたどころか、むしろ広がっているのだ。
韓流に対抗するには、北朝鮮独自のおしゃれでカッコいいコンテンツを量産、普及する以外に方法がないが、当局はむしろ「青年教養保障法」を制定、締め付けを強化することで、対抗しようと躍起になっている。
しかし、退屈な思想教育や、政治臭がプンプンする当局公認のコンテンツは、若者はもちろん、多くの北朝鮮の人々からそっぽを向かれている。当局の悪あがきは、もはや手遅れなのだ。