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漂流中のクルーズ船ウエステルダム号カンボジアへ アメリカ人乗客の生の声「報道とは違い至って平常です」

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
クルーズ船「ウエステルダム号」のイメージ(2004年撮影)(写真:ロイター/アフロ)

香港を出航後、アジア諸国を回って横浜に到着する予定だったアメリカのクルーズ船「ウエステルダム」(Westerdam)。しかし世界中で感染が広がる新型コロナウイルス(COVID-19)の影響で、出航以来、乗客1455人と乗組員802人(乗員乗客のうち日本人5人、米国人650人含む)は大海原で宙に浮いた状態だ。

ウイルスの感染拡大を防止するため、フィリピン、日本、台湾、アメリカ領グアムより入港許可が下りず、12日間当てもなく漂流を続けていた。タイ当局は一度受け入れを表明したが、国民の強い反発にあい入港許可を断念。しかし、現地時間13日の午前7時にカンボジアのシアヌークビル港に寄港が許可されたことがわかった。

カンボジアの入港時、当局によって船上で簡易健康検査が行われ、乗客が下船する前に数日間停泊する予定だという。

航海トラッキングサービス「MarineTraffic」によるウエステルダム号が辿った航海ルート

ウエステルダム号の船内に新型肺炎患者はいないとされているが、この船がトリッキーなのは、それでも5ヵ国に入港拒否されていることだ。紛れもなく、横浜に停泊中の「ダイヤモンド・プリンセス」船内の集団ウイルス感染が影響しているとされる。ダイヤモンド・プリンセスの乗客乗員の感染者数は174人にも上り、中には重症者が4人いる模様。(2月12日現在)

しかし、ウエステルダム号では病人は確認されていない。1月16日、シンガポールでウエステルダム号に夫婦で乗船したカナダ人のスティーブン・ハンセンさんは、ザ・ガーディアン紙にこのように語っている。「私たちは行動範囲や食事などに制限をかけられておらず、今も典型的な船上生活を送っているのに、新たな入港拒否の知らせを聞くたびに失望します。このまま漂流が長引けば、食料、燃料、薬などが不足するでしょう」。

「至って平常時であることを伝えたい」船内の乗客

母親と母親の友人と共に、アメリカ・カリフォルニア州アラメダ市からウエステルダム号でのクルーズ旅行に参加したクリスティーナ・カービー(Christina Kerby)さん。彼女はこのクルーズ船がどこにも停泊できない事態となって以来、通常のヨガクラスやライブコンサートの様子をツイートするなど、平常時と変わらない船内の様子を伝えている。

地元では夫と2人の子どもがクリスティーナさんの帰国を待っており、クリスティーナさんは12日、船長からアナウンスされたという「カンボジア寄港」の一報に安堵の様子を見せた。

クリスティーナさんに、現在の船内の様子を聞いてみた。

「ご連絡ありがとう!私のツイートから伝わるかもしれませが、私は(漂流中の今も)楽しんでいます。 皆さんは、状況を悪化させるようなメディアからの情報で不安に思っていることでしょう。しかし、私は船内のポジティブな空気を発信することで、皆さんの恐怖心を払拭できることを願っています」と、非常に前向きなコメントが返ってきた。

ダイヤモンド・プリンセスの現状について知っているか問うと、

「はい、聞いています。私の心は、ダイヤモンド・プリンセス号の乗客に思いを馳せています。そしてニュースを聞くたびに、このウエステルダム号がダイヤモンド・プリンセス号のようではないこと、つまり船内で人々が隔離されておらず自由に行動できていることにとてもありがたい気持ちになります。ウエステルダム号の乗客は皆健康で、船内生活を楽しんでいることを多くの方に知って欲しいです」。

クリスティーナさんが投稿した最新の船内の様子

クリスティーナさん(左)。船内で出会ったカトリック教の牧師と一緒に。

入港を拒否した国からは心無いコメントも

ただし一時は入港予定だったタイや新たに入港が決まったカンボジアでは、一部の人々にとって受け入れられないことのようだ。「あなたたちを歓迎しません」「そんなに船上生活が楽しければ、我が国には寄らないで」「WHOを通じて発展途上国に圧力をかけ、巻き込むのをやめてほしい」「なぜ香港に戻らないのか?」といった心無い声も、少なからず上がっている。

今後ダイヤモンド・プリンセス号でも、感染の確認されない高齢者や持病のある人から徐々に下船が始まるという。待ち受ける人には、正しい情報をもとに思いやりを持った冷静な対応が求められている。

(Text by Kasumi Abe)  無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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