『キングオブコント2022』で浮上した「暗転問題」、その要因は「繰り返しネタ」の多さ?
審査員も言及した「繰り返しネタ」
コントの日本一を決める『キングオブコント2022』の決勝戦が10月8日に開催され、ビスケットブラザーズが大会史上最高となる合計963点で優勝を飾った。
今大会は、「繰り返しネタ」が多い印象を受けた。ネタ時間は、ファーストステージ、ファイナルステージ、ともに5分間。そのなかで同じような物事や動作を何度か繰り返しながら、しかし台詞や起きる出来事などの中身を変化させて笑わせるものだ。
ファーストステージでは、クロコップ、いぬ、ロングコートダディ、ニッポンの社長は「繰り返しネタ」と言え、またネルソンズも新婦が元カレの言動によって「元に戻るか、戻らないかで何度も悩む」と気持ちをラリーさせる部分では「繰り返しネタ」に近いニュアンスがあった(ただし各組「繰り返し」の意味合いや構造に違いはあるが)。
審査員も「繰り返しネタ」に対して言及する場面がいくつかあった。かが屋のネタは食事中の男女が化粧室に出たり入ったりを1回ずつおこないながら仲を深めていくもので、動作的に「繰り返し」っぽく見える部分もあった。小峠英二(バイきんぐ)は「化粧室の扉の使い方が見事だった。話を展開させるために(合計で)2回入った。その数がちょうど良かった」とコメント。いぬによる男性トレーナーと女性生徒にロマンスが芽生えるネタについては「展開がキスの交互でしかない」と指摘した。
同じく審査員の飯塚悟史(東京03)は、ロングコートダディの料理長の帽子が何度も看板に引っかかって脱げ落ちるネタに関して「繰り返しなのにずっと見ていられた」と評した。
ニッポンの社長、最高の人間に浮上した「暗転問題」
そんな「繰り返しネタ」のときに有効活用されるひとつの演出が、「暗転」である。
暗転とは、その場面の照明を一旦暗くし、次の展開の際に再び明るくすることだ。それによって、同じような物事や動作の繰り返しではあるものの、日数の経過、キャラクターの気持ちなどになんらかの変化が起きている(もしくはこれから起きる)ことを、わかりやすく伝えられる。つまり、暗転することで「展開が切り替わりますよ」と観客にお知らせするのだ。「繰り返しネタ」のなかでは、ニッポンの社長、いぬは暗転による「展開の切り替え方」が顕著だった。
また暗転しなくても、キャラクターが舞台袖に引っ込んでから再登場することでも、展開を切り替えることができる。ロングコートダディの「繰り返しネタ」はそれに当てはまるだろう(前述したかが屋のネタは、小峠英二が言うように化粧室の扉の開け閉めが「展開の切り替え」の役割になっていた)。
ただこの暗転をめぐって、審査員と出演者の考え方が割れた一幕があった。
それはニッポンの社長のネタのときである。コントの内容は、博士がひとりの若者に「世界を救ってくれないか」と声をかけるが、「やっぱりエエわ」と断るというもの。そのやりとりを何度か繰り返すことで笑いをふくらませていった。そして博士が「やっぱりエエわ」と断ったあとに暗転させることで、「展開の切り替え」を表現していた。
ただ、審査員長の松本人志(ダウンタウン)は「暗転をたくさん使うコントは難しい。どのパターンでくるのか、先回りしてしまう。それを超えてこなかった」と語った。「暗転をたくさん使うコント」=「繰り返しネタ」は、展開を切り替えたあとの流れがある程度読めてしまうというのだ。すでに何度か見た場面が続くため、よほどの意表を突かないと苦しいということだろうか。また、暗転中に観る側の気持ちがリセットされたり、次の展開を考える余裕ができたりするからかもしれない。
審査員・山内健司(かまいたち)も、「暗転をはさむからショートコントっぽくなる。単発でくるなら、もっと爆発的にウケてかきまわしてほしかった」とコメントした。暗転と暗転のあいだの展開に物足りなさを感じたという。
それらを受けて、ニッポンの社長の辻は「暗転を使う良さもあると思うんです」と説明した。そこにコント師としての彼の矜持を感じとることができた。
さらにニッポンの社長の次に登場した最高の人間にも「暗転問題」が浮上。最高の人間は「繰り返しネタ」ではなかったが、回想シーンで暗転を多用。小峠英二は「猟奇的な展開がおもしろいけど、暗転の照明の使い方が連続して、いき切れなかった」と、暗転によっておもしろさが途切れ途切れになったと話した。
ビスケットブラザーズ、や団の「展開の切り替え」のうまさ
今大会では、暗転や舞台袖に引っこむなどして「展開の切り替え」をおこなったあと、その次に起きる出来事がどれだけ観る者の想像を超え、インパクトを与えられるかどうかが鍵になった。
その点で、優勝したビスケットブラザーズは見事だった。
ファーストステージのコントは、野犬に襲われている男性を、上半身はセーラー服、下半身はブリーフの奇妙な人物が助ける内容。野犬に襲われていた男性は一旦、舞台袖へと逃げていくが、再登場時、奇妙な人物と同じ格好になっていた。小峠英二は「最後、(野犬に襲われていた男性が)変身して出てくる展開がおもしろかった」と、「展開の切り替え」をおこなったあとのキャラクターの変化に驚いたという。
ビスケットブラザーズのファイナルステージのコントは、女性役・原田泰雅が、同じく女性役・きんに向かって「男性を紹介する」と持ちかけるもの(ちなみに「繰り返しネタ」に近い要素があった)。しかし次の瞬間、原田泰雅は服を脱ぎ捨て、女性の姿から「紹介される側の男性」へと変身。つまり二面性を持った人物だったのだ。女性から男性へと切り替わる瞬間を観客に見せる部分がこのネタの妙だった。
「展開の切り替え」のうまさについては、3位のや団のファーストステージのコントも当てはまるのではないか。コント中、本間キッドは中嶋亨を殺してしまったと勘違い(中嶋亨は死んだふりのドッキリを仕掛けていた)。そのときロングサイズ伊藤は舞台袖に引っ込んで、そして中嶋亨を土に埋める気満々で再登場する。審査員の秋山竜次(ロバート)は「途中で(舞台袖へ)ハケてから、パーカーのフードをかぶって、タバコをくわえて出てきたのがヤバかった」と、こちらも「展開の切り替え」をおこなったあとが笑えたとコメントした。
「繰り返しネタ」が多く、展開を切り替えるための暗転などの演出が目立ったことで、審査員にも身構えるものが生まれたのかもしれない。そうした「展開の切り替え」のあと、どんなことを起こすのか。そのサプライズ感の大きさが明暗を分けたように思えた。