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玉袋筋太郎がスナックを応援する理由

中西正男芸能記者
スナックへの思いを語る玉袋筋太郎

 “スナックで日本を元気にする”をコンセプトに、2014年に一般社団法人「全日本スナック連盟」を立ち上げたタレントの玉袋筋太郎さん(52)。「スナックは日本が生んだ究極のおもてなし文化」と言葉に力を込めますが、その思いの奥には両親への感謝がありました。

雀荘からスナックへ

 スナックとの最初の接点は実家です。新宿で両親が雀荘をやってたんですけど、麻雀ブームも落ち着いて、経営が傾いちゃった。で、スナックを始めたんです。それが、オレが中学2年の時でした。

 ちょうど思春期で多感な時期だったんでね。今から考えたら柄にもねぇんだけど、嫌悪感を持ったんですよね。要は、うちのスナックは男性のことが好きな男性が集まるお店で。それに中学生のオレは、ちょっとショックを受けてしまって。

 今だったら、そんなこともちろん微塵も思わねぇんだけど、当時のオレは「なんで、そんな商売やってんだ」と思ってしまったんです。

 そんなことがあって、親とギクシャクして。とはいえ、大人になりゃ、自分も客としてスナックに行くんですよ。とはいえ、最初は金がないから、夕方になると近所の赤ちょうちんとかに行くんです。隣の席のおじさん客が「お、お前見たことあるな」みたいになったら、うまくそのおじさんを転がして(笑)、「今から2軒目に行くから、ついてこい」と連れて行ってもらうという。

 20代半ばまではそんな感じでスナックに行くか、大先輩の高田文夫先生に連れて行ってもらうか。要は、やっぱりね、面白いんですよ。

 

 まだ親父とは氷解というか、関係修復はできてなかったんですけど、スナックは楽しいもんだという意識はしっかりとインプットされた。

 というのもね、また、そういう環境で育った子だったので、年上の人と行ったら喜ばれるような歌を入れたりもできるんですよ。お座敷芸というか。そういうことができたので重宝されてまた呼ばれる。そうやって、上の人に可愛がられて仕事も増えていくという部分も確かにあったのはあったんですよね。

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新宿二丁目のスナック

 そうすると、だんだん自分でもスナックに飲みに行けるようになって、なじみのスナックなんかもできるようになったんだけど、オレが35歳の時に、親父が65歳で死んじまった。

 そこから少しして知り合いの方に、新宿二丁目のスナックに連れて行ってもらったんです。オレは初めてのお店だったんですけど、そこのママにね、ま、ママって言ってもオジサンなんだけど(笑)、話してたんです。「ウチの実家もね、こういう“組合”の人が集まるスナックをやってたんですよ」と。

 そしたら「え、どこ?」となって。「西新宿の方にあったお店で…」と言ったら、ママが「え、あそこの息子さんなの!?私、しょっちゅう行ってて。あのお店、本当に楽しかったのよ」と。通ってくれていた常連さんだったんです。

 それを聞いた瞬間、親父に感謝の気持ちを述べられなかったことが悔しくて。その商売をやっていたというのは、結局、オレを食わせるためにやってくれていたわけだから。そんなことは分かってんだよ。分かってんだけど、今までの親への思いとか、そんなもんが一気にそこで溢れてきて、そのお店で人目もはばからず泣いてしまった。

 もう、親には「ありがとう」も言えねぇんだけど、そうやって、今も息子を持って、娘を持って頑張って働いているママさんやマスターがいる。なんて言うんだろうね、そういうのがバーンと降りてきちゃった。おこがましいんだけど、そういう人たちを応援しようと。それが、オレがこのスナックの活動を始めたきっかけなんです。

スナックのためにできること

 以前はスナックがナイトビジネスのど真ん中にあった。それが今はキャバクラだとか、ガールズバーに端っこにおいやられている。それをなんとかもう一回真ん中に戻したい。そのための活動をしようと。

 じゃ、何をしたらいいのか。いろいろ考えて、サポートしてくれるテレビのスタッフさんもいてくれて、街のスナックに突撃訪問して、そのお店の面白さを伝える番組をやろうと。

 あとは、全くスナックのことを知らない20代とかの若い人がスナックの扉を開けやすくなるような“スナックの教習所”みたいなイベントをやろうだとか。

 そりゃ、スナックを知らない人間からしたら、中の様子は分かんねぇし、値段も書いてないし、得体が知れないから怖いですよ。あの扉は重いですよ。そこをもっと軽く、敷居を低く、カジュアルな気持ちで入って大丈夫というね。

 みんなでワイワイやって、手拍子して歌って、くだらねぇ話をして、酒飲んでりゃいいんだということを提示していったら、だんだん気づいてくれて。

 あとね、実際に2017年に「スナック玉ちゃん」をオープンしたこと。これは大きかった。あれがいいとか、これがいいとか、会議で理想を語ったところで机上の空論というか。なので、本当に、ホンモノの店がそこにある。その上で考える。この流れは意味がありましたよね。

 ただ、お店をやるなんて、不安ですよ。水商売なんてやったことねぇし、タレントがそんなもんやるもんじゃねぇって声も聞くし。ただ、やっぱり実際にお店があって、お客さまが来てくださる。そうなると、そこはリアルなわけだし、お客さまが喜んで帰ってくださる。そのために何が必要なのか。それをこっちはきちんとみんなで考えるよね。自分の名前だけ貸すようなタレントショップにはならないようにしてますしね。小倉優子の焼肉屋とは違うわけだし(笑)。

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 そうやってると、また動き出したんですよね。熊本県から「一緒にやりませんか」みたいな依頼が来て「スナック玉ちゃん」を1カ月限定で「スナックくまちゃん」に店名変更して。くまもんもお店に来たり、熊本の県産品とか焼酎を出したり、お客さまも喜んでくださって、互いにすごく楽しい企画になったんです。

 そういうお店を飛び出たもの、そういう部分を増やしていくと、世の中にアピールできるということじゃないですか。スナックという概念というか、力というか、人を繋げる独特のシステムをいろいろなところに活かすというかね。

 企業の中にも、スナック的なものがあった方が人が繋がりやすいんじゃないかなと思うんですよね。社員食堂の横にスナックもある、みたいな。それを企業に提案する。そういうビジネスモデルも考えているんです。

スナックの明日

 あとは、このスナックという文化を次の世代にバトンとして渡していく。それが「全日本スナック連盟」の理念でもあるんです。頑張っているママさんやマスター。結局、みんな個人事業主だからね、一人でやってるから、横のつながりがなかったりする。

 例えば、酒一本買うにしても、普通の定価で買ってるママさんやマスターもいたりする。そういう部分も含め、いろいろと日々の経営の中で手助けになるようなことが少しでも提示できれば、スナックの底上げにも繋がるんじゃないかと思うんです。

 若い人がさ、今働いているところがイヤで、別の仕事がやりたい。そう思った時の選択肢としてスナックを開く。そういう若者が増えてくれたら、オレたちの時代のスナックからネオスナック時代になっていくんだろうね。オレたちも全く店のノウハウがないところからスタートしたからこそ、そこで得たものは若い人たちに渡していけたらなと。

 良いスナックの見分け方?オレ、ハズレも当たりだと思うんです。ハズレだったら、もうそこには行かなきゃいい。ただ、ハズレも入れとかなきゃ、良いスナックが分かんねぇから。

 よく言うんだけど、例えば、ラーメン食いてぇってなったら、今はすぐにネットを見て点数の高いところを探していくでしょ。それって、自分の足で稼いだ味じゃねぇんだな。人の評価で行ってるだけ。やっぱ、自分の足で行って“授業料”払わないと、本当に自分にぴったり合ったものって、降りてこないと思うんですよ。

 そして、このうまそうな店を嗅ぎ分けるセンサーは、人を見る時にも結構そのまま使えたりもするんだよね。だから、実はすごく役立つもんだし、使わねぇと退化するんだよ。言われるままじゃ面白くないでしょ。確かに近道かもしんねぇけど、遠回りもいいんですよ。

 まぁね、どこまでも、スナックはいろいろ教えてくれるということですよ。だから、オレの夢は「キッザニア」でスナックやることだもん。子どもたちにスナックというシステムを通じて、人にとって大切なものを勉強をさせるというね。超実践的な勉強を(笑)。

 単なる飲食店ということをこえた人を繋げる力、ほぐす力がスナックにはあるんだよ。日本が生んだ究極のおもてなし文化だということにたくさんの人に気づいてほしいよね。

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(撮影・中西正男)

■玉袋筋太郎(たまぶくろ・すじたろう)

1967年6月22日生まれ。東京都出身。高校卒業後、ビートたけしに弟子入りし、お笑いコンビ「浅草キッド」を結成する。2014年、一般社団法人「全日本スナック連盟」を立ち上げ、17年には「スナック玉ちゃん」をオープンする。TBSラジオ「たまむすび」、TBSテレビ「ぴったんこカン・カン」などに出演中。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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