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藤井聡太七段は、トッププロの「本気」を跳ね返した

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 2月16日(土)に行われた第12回朝日杯オープン戦で、藤井聡太七段(16)が優勝して2連覇を飾った。

 準決勝は行方尚史八段(45)に、決勝は渡辺明棋王(34)に快勝して、圧巻の優勝劇だった。

トッププロの「本気」とは?

 準決勝は行方八段戦。行方八段は同棋戦での優勝経験もあるトッププロの一人だ。

 振り駒の結果、先手を握ったのは行方八段だった。藤井(聡)七段は相居飛車の後手では追随する指し方を好む。そうなると行方八段には戦法の選択肢が3つあった。

  • 矢倉
  • 角換わり
  • 相掛かり

 行方八段はその中で昔から得意とする矢倉戦法を採用した。

 トッププロが格下と対戦する場合、相手の得意を敢えて受けることもある。筆者も四段時代に久保利明二冠(当時)と対戦して負けた際は、こちらの得意戦法を真っ向から受け止められてその強さを実感したものだ。

 行方八段が相手の得意を外したのか、いま一番自信を持っている戦法が矢倉なのか、そこは分からない。ただ藤井(聡)七段が角換わりを好むことは周知の事実であり、その角換わりを選択せずに矢倉という自分の得意形に持ち込んだのは、トッププロの行方八段が藤井(聡)七段の強さを認めて「本気」を出したと言っても問題ないであろう。

 将棋は急戦調に進み、藤井(聡)七段は角と飛車を立て続けに捨てる鮮やかな攻めを見せて快勝した。

 決勝は渡辺棋王戦。今の渡辺棋王は鬼神の如き強さだ。タイトル戦では、防衛をかけた棋王戦で2連勝、挑戦中の王将戦で3連勝。いずれもタイトルまであと1勝としている。

 筆者は振り駒の結果を聞いて、後手になった藤井(聡)七段にとって厳しい戦いになると予想した。

 先手の渡辺棋王の戦法選択には上記3つの選択肢があり、ここ最近メインに据えている角換わりが予想された。しかし蓋を開ければ第4の選択肢、雁木戦法だった。これは藤井(聡)七段も意表を突かれたことだろう。互いに得意とする角換わりを外し、勝負をかけた戦法選択だった。渡辺棋王は準決勝でも同じ戦法を選択しており、周到な準備がうかがえる。筆者はその戦法選択に「本気」を感じ取った。

 将棋は中盤のねじり合いから藤井(聡)七段がリードを奪い、最後は竜捨てから鮮やかな即詰みに討ち取って快勝した。

 藤井(聡)七段はトップ棋士が「本気」を出してきたにもかかわらず、連勝したのだ。優勝、2連覇、この結果と合わせて全ての人に強さを証明したと言えよう。

最強将棋AIの解析

 この2戦を現在の最強将棋AI(NNUEkaiX、PCスペックは電王戦使用レベル)で解析してみた。

 すると、得意戦法を外された序盤戦でも形勢を離されていなかった。相手からすればリードを奪えなかったのは誤算であっただろう。

 解析結果によれば、藤井(聡)七段は2局とも本格的な戦いが始まったところでリードを奪い、あとはそのリードを広げて勝っていた。

 渡辺棋王戦では一瞬だけ危ないところがあり、渡辺棋王も自身のブログで触れている。

朝日杯準決勝、決勝。(渡辺明ブログ)

 この2局で見せた、たった一つの隙だった。しかし見方を変えればこれしか隙が無いということは驚きだ。

年度最高勝率に向けて

 以前、『藤井聡太七段、51年ぶりの記録更新へ!年度最高勝率の達成条件とその関門とは?』という記事を書いた。

 執筆時点では年度末までに1敗しか許されない状況であり、そこからの成績は4勝1敗だ。好成績ではあるが、記録更新のためにはもう1つの負けも許されない。

 カギを握るのは3月中に対局予定の第90期棋聖戦二次予選決勝だ。

 対戦相手は、斎藤慎太郎王座ー久保利明王将の勝者(2月20日対局予定)。どちらであっても強敵である。

 「本気」で負かしにきたトップ棋士に連勝しての優勝。それによって年度最高勝率更新の可能性も残った。

 今年度も残り1ヶ月ちょっと。今後も藤井(聡)七段の活躍から目が離せない。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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