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カップ戦らしい4強の顔ぶれ 天皇杯準々決勝:アルビレックス新潟(J1)vs川崎フロンターレ(J1)

宇都宮徹壱写真家・ノンフィクションライター
天皇杯準々決勝での新潟(オレンジ)と川崎(青)。試合は120分でも決着がつかず。

 天皇杯 JFA 第103回全日本サッカー選手権大会(以下、天皇杯)も、いよいよ準々決勝。8月30日に各地で4試合が開催された。対戦カードは以下のとおり。

・アルビレックス新潟(J1)vs川崎フロンターレ(J1)@新潟

・アビスパ福岡(J1)vs湘南ベルマーレ(J1)@福岡

・ロアッソ熊本(J2)vsヴィッセル神戸(J1)@熊本

・柏レイソル(J1)vs名古屋グランパス(J1)@柏

 8チーム中7チームがJ1クラブという顔ぶれの中、今回チョイスしたカードは、デンカビッグスワンスタジアムで開催される新潟vs川崎。この顔合わせで思い出すのが、2003年のJ2である。今から20年前、この両者にサンフレッチェ広島を加えた3強が、J1昇格を目指してしのぎを削っていた。

 結果的に、1位の新潟と2位の広島が昇格。川崎は3位で涙を飲むこととなった。その後、広島が3回、川崎が4回、J1優勝をしていることを考えると、随分と隔世の感がある。一方の新潟は、この頃からホームゲームがいつも満員御礼となり、その盛り上がりぶりは「ニイガタ現象」と呼ばれるようになった。

 共にJ1クラブとなった新潟と川崎が、大きく明暗を分けたのが2017年。この年、川崎はJ1を制して初タイトルを掲げたが、16位に終わった新潟は初めての降格を経験する。その後、5シーズンをJ2で過ごしたのち、新潟は昨シーズンに優勝してJ1に復帰。6年ぶりとなる川崎とのJ1での対戦は、ホームの新潟が1−0で勝利している。

 そして迎えた、天皇杯での対戦。新潟が勝てば初のベスト4進出だが、現在9位の川崎としても、4シーズン連続となるACL出場を果たしたいところ。平日にもかかわらず、1万287人もの観客を集めた試合は、19時にキックオフを迎えた。

このまま川崎が逃げ切るかと思われた延長後半アディショナルタイム。早川史哉の劇的な同点ゴールが決まる。
このまま川崎が逃げ切るかと思われた延長後半アディショナルタイム。早川史哉の劇的な同点ゴールが決まる。

■終了間際の新潟の同点ゴールでPK戦へ

 カップ戦における、ベスト4進出の価値は重い。とはいえ、どちらも中2日でリーグ戦があり、メンバーのやりくりが悩ましいところ。4日前のJ1からスタメンの入れ替えは、川崎が3人にとどまったのに対し、新潟は総入れ替えとなった。

 先制したのは、総入れ替えの新潟だった。相手のパスを奪った松田詠太郎が、前線の谷口海斗へ。そのままドリブルで持ち上がった谷口は、激しいマークにも倒れることなく右足を振り抜き、低い弾道はチョン・ソンリョンが立ちはだかる川崎ゴールの右隅を打ち抜いた。

 もちろん川崎も負けてはいない。67分、家長昭博が右サイドから正確なクロスを供給すると、逆サイドでアプローチした瀬古樹が右足ワンタッチで同点弾。その後は両者とも決定機を活かせず、試合は延長戦に突入した。

 延長後半の108分、川崎の逆転に貢献したのは、いずれも途中出場の選手たち。小林悠の右からのクロスに、ペナルティエリア前で受けた山田新が見事なターンでネットを突き刺す。これで勝負ありと思われたが、ドラマは終わっていなかった。

 120+1分、全員攻撃となった新潟は、左サイドから三戸舜介が長いクロスを入れる。チョン・ソンリョンも対応を試みたが、この試合で腕章を託されていた早川史哉のヘディングが勝った。ボールは無人のゴールに吸い込まれ、2−2でホイッスル。勝敗の行方は、PK戦に委ねられることとなった。

PK戦を制して2大会ぶりの準決勝進出を果たした川崎。平日に新潟まで駆けつけたサポーターと喜びを分かち合う。
PK戦を制して2大会ぶりの準決勝進出を果たした川崎。平日に新潟まで駆けつけたサポーターと喜びを分かち合う。

■準決勝は優勝経験のあるクラブと九州勢の対決

 川崎の先行で始まったPK戦は、2人目までは全員成功。新潟の3人目、ダニーロ・ゴメスのシュートはチャン・ソンリョンが止めた。川崎の5人目、逆転ゴールを決めた山田は失敗。そして新潟の5人目、高宇洋のキックは、川崎の守護神に阻まれた。

 かくして、新潟の初のベスト4進出はならず。川崎が2大会ぶりに準決勝進出を果たした。ちなみに2021年大会の川崎は、2回戦と3回戦ではPK戦に競り勝ったものの、準決勝で大分トリニータにPK戦で敗れている。今大会は初のPK戦となったが、勝負強さは健在だった。川崎の鬼木達監督は、試合後の会見で、このように語っている。

「(終了間際に)追いつかれてショックだったと思いますが、PKでも自分たちのプレーをしようと選手には伝えました。PK戦は、ただ祈っていましたね(笑)。タイトルというのは『たまたま』ではなく、貪欲に獲りにいかないと得られない。(次のリーグ戦に向けては)ここからどれだけ回復できるか、中2日で何ができるかを見せたいです」

 準々決勝4試合では「最も劇的な試合」と個人的に思っていたが、SNSで盛り上がっていたのが、えがお健康スタジアムでの熊本vs神戸。こちらの試合も1−1から120分でも決着がつかず、PK戦の末に熊本が初のベスト4進出に名乗りを挙げた。かくして準決勝のカードは、以下の通り。

・川崎フロンターレ(J1)vsアビスパ福岡(J1)

・ロアッソ熊本(J2)vs柏レイソル(J1)

 現時点でのリーグ戦の順位は、J1勢が福岡8位、川崎9位、柏17位、そして熊本はJ2の20位。天皇杯の優勝経験がある川崎と柏が、優勝経験のない九州の2クラブとファイナルを懸けて激突する。準決勝が行われるのは10月8日。会場は、間もなく正式発表されるはずだ。

 ここから先の展開が、まったく読めない今年の天皇杯。まさにカップ戦ならではの面白さを、存分に楽しみたいところだ。

<この稿、了。写真はすべて筆者撮影>

写真家・ノンフィクションライター

東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。『フットボールの犬』(同)で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、『サッカーおくのほそ道』(カンゼン)で2016サッカー本大賞を受賞。2016年より宇都宮徹壱ウェブマガジン(WM)を配信中。このほど新著『異端のチェアマン 村井満、Jリーグ再建の真実』(集英社インターナショナル)を上梓。お仕事の依頼はこちら。http://www.targma.jp/tetsumaga/work/

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